あなたに元気を出して欲しいから
一応、この世界にもエルフっつーか俺らがイメージするエルフの起源的な種族は存在する。
北欧神話に属する連中なんだが俺はそいつらをエルフにはカウントしていない。
微妙に名前が違ってたりするのもそうだが、一般的なエルフのイメージとは重ならないからだ。
見た目だけで言えばセツコちゃんのがまだイメージに近い。
だからエルフショックで負った心の傷を癒すには不適格なのだ。
(どうすれば良い……どうすればこの欠落を埋められる……?)
やっぱりあれか。本格的に異世界へ渡る術を研究するべきか?
いやでもなぁ……世界の壁をぶち抜くなんて真似すりゃ絶対、どっかで反動が来る。
研究で世界に穴開け過ぎてガバガバになった結果、大異世界時代到来とかな。
(俺に返って来るならともかくこの世界にってのは流石にマズイからな……)
色々やってる俺が異世界に関しての技術を研究して来なかった理由がそれだ。
今回ちょっと揺らぎかけてるが……やっぱりあかんもんはあかんて。
現に異世界関連で奥多摩が丸ごと塗り潰されるなんて事象も起きてるからな。
これがもっと広範囲……国家、或いは世界規模とかになったら目も当てられない。
「あ」
玄関の前まで来て気付く。そう言えば今日、朔ちゃん家に居ないんだった。
友人と泊まりがけで勉強会をするんだったかな?
なので夕飯はテキトーに済ませて欲しいと言われていたんだった。
「コンビニ行っても良いが」
何かもう僅かな距離でさえ戻るのが面倒だと家の中へ。
時刻は九時過ぎ……デリバリーにするか、いや待つのも面倒だし買い置きしてるインスタントで良いか。
溜息を吐き出しリビングの扉を開けた瞬間パッと照明が灯り、
「「「おかえりなさいませー♪」」」
「――――」
絶句した。
え、ちょっと待って。何これ? どこから? どこからツッコミかませば良いの?
ツッコミポイントがそこかしこにあるもんでどこから手ぇ出せば良いか分からないんだけど。
「……本当に元気ないね」
「……ああ。何時ものコイツならうっひょーとか言ってはしゃぎそうなもんだが」
「……な、何か滑ってる感じがして恥ずかしいわ」
ひそひそと何やら内緒話をしている鈴木、高橋、千佳さん。
……うん、ここからいこう。まずはここから手をつけるとしよう。
「あの、何? その格好?」
馴染みの面子だが格好がおかしい。
何でバニーガール? いや似合うけどね。エロいけどね。
でもそれはそれとしておかしいじゃん。佐藤くんのお家のリビングにバニー居るのって変じゃん。
三人は別にそんなキャラでもないのにバニーの格好してるの変じゃん。
(しかも、バニーはバニーでもエロ寄り)
いやバニーはノーマルの時点でエロいんだけどさ。
それでも健全寄りとエロ寄りでジャンル分け出来ると思うの。んで三人のはエロ寄り。
細かなエロポイントは幾つかあるが大きい部分だけ指摘するなら。ハイレグの角度。かなりエグくね?
「……見ろよあの目」
「……エロ剥き出しの好色な視線じゃないね」
「……呆れてる? あれ呆れてるわよね?」
んで他のツッコミどこなんだけどさ。部屋の内装。
何このいかがわしいお店みてえな内装。照明の色も怪しいしさぁ……うちのLEDどこいった?
「……ど、どうする?」
「……押し通すしかないでしょ」
「……そ、そうよね」
テーブルにはフルーツの盛り合わせやらピンクちゃん置いてるし……。
佐藤くん家、キャバクラ概念に侵略されちゃった?
「上着預かるわね」
「さ、ほらこっち」
「ぼーっとしてんなよ」
千佳さんに上着を奪われ、鈴木と高橋に手を引かれソファに座らされる。
「ささ」
グラスを持たされ酒を注がれる。
マジで意味が分からんのだが……まあ、いただきます?
「で、何のつもり?」
「「「う゛」」」
「う゛……やのうて」
「ふ、普段ならノリノリなのに……」
「いやだって疲れてるし」
そして傷付いてるし。
「……はぁ。いやほら、佐藤くん最近地獄が続いてるみたいじゃない?」
「ああ」
「だからよ、ちょっとあたしらで元気づけてやろうかなって」
「ウサギさんは嫌い? 今日はお触りもOKだよ?」
そういう……?
「いやまあ、気持ちは嬉しいし……ウサギさんも大好きだけどぉ……」
疲れてる時にいきなりこんなんブッこまれてもね?
「処理が追いつかないっていうか」
「「「ど、ド正論……」」」
「あと……これ、言うべきか迷ったんだけどさ」
他のとこで失敗して変な空気になったら可哀そうだからな。
友人としてここは心を鬼にして指摘させてもらおう。
「前々から思ってたんだけど三人はこういうサプライズとかに向いてないよ」
俺の誕生日会とかな。
いや責めてるわけじゃねえんだ。こういうのは失敗を繰り返して学ぶもんだからな。
ただ大人の失敗と子供の失敗は違うってのもまた事実だ。
中学高校で滑っても子供だからな。直ぐ忘れちまうし、笑いの沸点とかも低めじゃん?
軽傷で済むから子供の失敗は問題ない。ガンガン挑めば良いと思う。
「でもほら、大人は違うじゃん?」
痛々しさとか居た堪れなさが先行しがちになっちゃう。
失敗してもリカバリー出来るスキルあるなら良いけどさ。
そういうのも経験だからな。三人は……ねえ? ないじゃん、そういうの。青春時代にさ。
高橋は俺らとつるむまでは一匹狼気取ってたし、社会人になってからも一線引いて他人と接してたっぽいし。
鈴木もそう。つるむ以前も友人は居たけど馬鹿騒ぎするタイプじゃなかったろ。大人になってからもそう。
千佳さんは……うん、まあ、ね?
「酷い! 遠まわしに陰キャって言われた!!」
「言ってねえよ」
「マジつまんねえコイツら白けるって言いやがった!!」
「言ってないって」
「陰キャが陽キャ気取ろうとしても痛々しいだけって笑った!!」
「笑ってないよ」
被害妄想強過ぎィ……。
「いやほら、気持ちは嬉しいよ? バニー最高。股間の佐藤ゲージがグングン溜まっちゃう」
言って高橋の尻を撫でる。
「……尻を触る手が投げやり」
「めんどくせえ!!」
ってか……よくよく考えるとおかしいな。
さっき言ったが三人はこういうことに向いてない。
誕生日とか特別な日でもないそもそも思いつくことすらないと思う。
そんな三人がいきなりこんなことをやらかしたからには何か理由があるはずだ。
考えられるのは……。
「朔ちゃんか?」
一瞬、表情が強張ったので当たってるっぽいな。
元気のない俺を心配して朔ちゃんが梨華ちゃんを通して千佳さんと高橋、鈴木に話を持ってったってとこか。
「……鋭過ぎだろ君」
「大体分かるわ。あれだろ、純粋に俺が心配だったってのもあるが子供の前だからと張り切り過ぎたんだろ」
その結果がこれだ。
空回りした末にこうなったと考えればまあ、納得のいくシチュエーションだ。
「……はぁ。そうよ。朔夜くん、ヒロくんが仕事のこと以外で何か悩みを抱えてるみたいで元気がないって心配してたわよ?」
「おめー、あんま子供に心配かけんなや」
「そうだな。そこは俺が悪い」
でもそうか、取り繕えてるつもりだったんだけどなぁ。
「エルフショックはそれだけデカかったってことか」
「「「エルフショック?」」」
「うん? ああ、実はこないださ」
ごろんと千佳さんの太ももに寝転がりながら俺が凹んでた理由を話してやる。
話が進むにつれ三人の表情はどんどん無に近付き……。
「「「ふざけんな!!!」」」
その後、俺は理不尽にボコられてしまった……何で?




