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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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141/249

異邦人

 今日は臨時休暇である。

 まあ六日も会社に詰めっぱなしだったからな。まだ地獄は続くので一日だけだが会社側も休めと仰せなのだ。

 ……いやキツかった。普通にキツかった。着替え取りに帰るぐらいでしか家にも帰れずさぁ。

 寝床は会社の仮眠室かオフィスで椅子を組み合わせての簡易ベッド……泣けるぜぇ。


(そう考えると、高橋とは言え女のベッドで目覚められたのは何か得した気分だな)


 昨日の記憶は殆ど残ってない。

 ただ高橋と飲んだことは覚えてるので今俺が寝転がってるベッドは高橋のものだろう。


(クッソ、良い匂いしやがるぜぇ)


 嬉しくもあり悔しくもありってところか。

 軽く気配を探ってみるが家の中には俺しか居ないようだ。

 高橋は仕事に行ったんだろう。起こさずに居てくれたあたり気を遣ってくれたんだと思う。


(そんだけ昨日の俺はキテたんだろうなぁ)


 その気遣いは無碍には出来ん。

 折角高橋の家来たんだしどんな下着ストックしてんのか部屋でも漁ろうと思ったが今回は見逃してやろう。

 一応言っておくがイヤらしい意味でそんなことをしようと思ってたんじゃねえぞ?


(少しでも奴の弱みを握ろうという友情だ)


 それはさておきこれからどうするか。

 降ってわいた休日。嬉しいけどちょっと困る。このまま高橋のベッドで二度寝するか?


(ああでも、今はそんな眠くねえしな)


 電源が切れたように惰眠を貪ったお陰で目はスッキリしてる。


(飯食いながら考えるか)


 キッチン漁ればインスタントラーメンぐらいはあるだろ。

 勝手に食べるのはアレだが、アイツも昔は俺の実家で勝手に風呂とか入ってたしな。今更の話だ。

 寝室を出た俺はその足でリビングへ。

 リビングを通ってキッチンに向かおうとして……気付く。


「朝飯、作ってくれてたんだ」


 テーブルの上にはメモ書きとラップのかかった朝食が置かれていた。

 やばい、どうしよう……地味に嬉しいんだけど。

 そんな手の込んだものではない。ホットドッグだからな。

 でも朝、仕事前だ。自分の朝食のついでだったとしても俺のために作ってくれたという事実が嬉しいんだよ。


「やだ高橋ってば、あたしをドキドキさせてどうするつもりなのかしら」


 軽くカマってしまうぐらい嬉しいぜぇ。

 ご厚意、ありがたく……の前に飲み物だな。


「寝起きのカラカラ状態でホットドッグとか食べたら更にパッサパサになっちゃうぜ」


 冷蔵庫からオレンジジュースを持って来て準備完了。両手を合わせていただきます。

 ……うん、美味い。冷えてはいるが普通に美味い。

 地味にポイントたけえのがマスタード。お家でホットドッグつったらケチャップぐらいじゃん?

 少なくともうちのお袋はそうだったんだが高橋の奴、マスタードを常備してんのかよ……。


「俺も買うか?」


 醤油とかマヨみたいなんは買っても使い切れるけどマスタードとかはな。

 容量少ないの買っても使い切れる気がしねえ。


「いや、鈴木が居るじゃん。アイツにマスタード使った料理習えば良いじゃんよ」


 そんなことをつらつら考えつつ完食。食器を流しに持っていく。

 洗わなくても良いって書いてたがまあ、これぐらいはするべきだろう。

 ちゃちゃっと皿洗いを済ませる。これでもう、高橋の家でやることはないな。


「とりあえず家帰って着替えるか」


 転移で帰宅しシャワーを浴びて私服にチェンジ。

 朔ちゃんは学校なので当然のことながら居ない。

 同居し始めてそんな時間も経ってないのに一人が寂しく感じるあたり……俺って結構な寂しがりなのかもしれん。

 今も自然と誰か暇な奴居ないかなってスマホの電話帳漁ってるし、


「あん? 互助会からか」


 互助会からの呼び出しだ。用件を書いてないあたりそこそこ重要な案件っぽいな。

 あっちは俺の勤務状況も把握してるから今日、俺が臨時で休みを貰ったことも知っているはずだ。

 連日のハードワークで疲労困憊だが今ぐらいの時間なら直ぐ来れると判断したのだろう。

 休みの日に面倒なと思わなくもないが予定もないし……しょうがねえ。


「「お、佐藤じゃん」」


 転移で本部に向かうとラウンジで勇一と真央の有馬兄弟に出くわす。

 基本的にだらだら異世界ライフを満喫してるコイツらが本部に来るようなことはまずない。


「ひょっとしてお前らも会長から呼び出し受けたのか?」

「おうよ。今日はバイト休みだから遊びに行こうぜって話してたらいきなりだよ」

「ってそう言うってことはお前もかよ佐藤」

「おう」

「「何となく読めて来たな」」

「ああ」


 異世界関連だろう。

 有馬兄弟のと奥多摩のとで二例しかないが、逆に言うと二例もあるのだ。

 であれば三度目、四度目があっても不思議ではないだろう。


「よくぞお越しくださいました。どうぞこちらへ」


 話をしていると案内役が現れ俺たちを促した。

 促されるまま向かった先は……医務室。厳重に人払いがされているようだ。


「それでは私はこれで」


 ここから先は俺たちだけってことか。

 兄弟と頷き合い、中に入ると会長が俺たちを出迎えてくれた。


「用件は?」


 真央が切り出すと会長は小さく頷きカーテンのかかったベッドの前まで行き足を止めた。


「既に察しはついていると思いますが異世界案件です」


 曰く、奥多摩の山中で空間異常が確認され人を向かわせると人間が一人倒れていたのだとか。

 ……また奥多摩か、とは思わない。以前、大規模な空間異常が発生して異世界に塗り潰された場所だからな。

 見えない部分でまだ歪が残っている可能性は十分にある。

 もしかしたら異世界関連の人や物が流れ着きやすい場所になってしまったのかもしれん。


「俺と真央が呼ばれたんは同郷かどうかを確かめるためか」

「んで佐藤はもしもの場合に備えての暴力装置、と」

「ええ」


 有馬兄弟は名の知れた神々とも渡り合えるほどの実力者だ。

 しかも今が天井ではない。まだまだ成長の余地を残している。

 まあ元の世界で互いの種族の最高戦力やってたんだから当然だろう。

 とは言え何が起きるか分からないのが異世界関連の事象だ。

 もしもに備えて俺を呼んだ会長の判断は間違っていない。


「そこに件の異世界人が?」

「ええ。発見時、瀕死でしたもので」


 臭い物に蓋。そこで殺すことも出来ただろうにそうしなかったあたり昔の互助会とは違うんだなって。


「治療を施しましたが失われた体力までは戻りませんからね」

「ちなみにそいつ、性別は?」

「女性です。ああ、服を着てないとかそういうハプニングはありませんからね?」


 勇一の問いにピクリと反応する俺だったが直ぐに釘を刺された。


「では心の準備はよろしいですか?」

「ただ確認するだけなのにそんなもん要らねーよ。なあ真央?」

「おう。ちゃっちゃと終わらせようや。予定があるんだよこっちにも」

「分かりました」


 会長がカーテンを開く。

 ベッドに眠る金髪の美女を見た瞬間、俺は絶句した。

 その美しさに? いや美人だがそれよりも何よりも“ある身体的特徴”に目を奪われたのだ。


「「すげえ、生エルフだ……ラノベとかに出て来そう! めっちゃアガる!!」」

「ちょっと待てお前らの世界にもエルフ居たよね?」


 駄弁ってる時にエルフ秘伝の薬草がどうとか言ってた記憶あるぞ。


「「あ、そうだった」」


 ……コイツら日本の文化に染まり過ぎだろ。

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[一言] 白人を見かけて「やっべ、外人だよ外人!」ってなってた、日本に来て10年以上の外人さんの話思い出したw
[一言] >少しでも奴の弱みを握ろうという友情だ 友情とは一体……
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