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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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133/249

召喚術

「おー、自分でやっといて何だが……何とまあ無残な……」


 奥多摩島は俺の家と今俺たちが居る付近を除き、完全な焦土と化していた。

 出力抑えていたとは言え小一時間も高橋鈴木の必殺フルコースの犠牲になってたんだから当然だろう。


「佐藤くん」

「あいあい」


 島内の時間を巻き戻し全ての破壊をなかったことにする。

 この後も予定が詰まってるんだ。片付けに時間はかけてらんねえって話よ。


「よォ、次はどこ行くんだ?」

「え? お前らも着いて来る感じ?」

「用が済んだらさっさと帰れって薄情過ぎでしょ」


 ちらっと光くんを見る。


「全然問題ないです! いやホント、素晴らしいものを見せて頂いたお礼もしたいですし」

「チッ、しょうがねえ。光くんの寛大さに感謝するんだな」

「「あざーっす!」」

「コイツら……」


 まあ良い。


「次は――――……いや、着いてからのお楽しみだな。ネタバレは面白くねえ」


 小さく笑い、三人を連れて転移する。


「「「ペットショップ?」」」


 到着したのは都内某所にあるペットショップの店先。

 困惑する三人を促し、入店。


「ってか、ここって」

「高橋さん知ってるんですか?」

「あ、うん。裏関係じゃなく表でな」


 曰く、同僚の保育士がペットを飼いたいらしく色々と調べていたそうな。

 それに付き合ってる中で評判が良いペットショップとしてこの店を知ったんだとか。


「……裏の人間がやってるのか?」

「ああ、趣味でな。それより……ふむ、忙しいみたいだな」


 事前に連絡は入れてるんだが出て来ない。

 いずれ顔を出すだろうからそれまでは店内を見学させてもらおうと提案すると皆、承諾してくれた。


「うちの妹たち、定期的に犬やら猫を飼いたいってワガママ言うんですよね……」

「小学生だっけ? それなら仕方ねえよ。うちで預かってる子らも親御さんによく強請ってるよ」

「佐藤くんさんじゅうごちゃいも子犬を飼いたい欲求に襲われてるからな。子供なら尚更だ」

「三十五歳はもっと自制心持って?」


 うるせえ。


「ってかお前らはどうなんだよ? 一人暮らしなんだし欲しくねえの?」

「四六時中家に居られるわけじゃねえしなぁ」

「私は飲食関係で衛生に気を遣うから動物はねえ」


 そんな話をしていると、


「やあ佐藤くん、待たせてしまったね」


 店の奥から眼鏡をかけた初老の男がやって来た。

 面識はないが直ぐにその実力が分かったのだろう。高橋と鈴木はすっ、と目を細めていた。


「はじめまして。僕は大門一人(かずと)だ。よろしく頼むよ」

「暁光と申します」

「高橋アリスだ」

「鈴木みおです」

「とりあえずここじゃ何だし場所を移そうか」


 促され、俺たちは店の地下へと連れて行かれた。

 カワサキと同じく空間を弄ってるんだが、こっちは特に変わったものはなくだだっ広いだけの空間だ。


「さて。佐藤くんからは技を見せてくれと頼まれたんだが……生憎と僕は不器用でね。一つのことしか出来ないんだ」


 大門は男だが残念ながら少年ハートは持ち合わせていない。

 必殺技でキャッキャとかする性格ではないので、期待させては申し訳ないと注意を入れたんだろう。

 だが、


「……一つの技術を極める……カッコ良い……」


 光くん的にはポイント高いよねっていう。俺もそう。

 大門のことは強さだけじゃなくカッコ良さという意味でもかなり評価してるからな。


「んで? あんたは一体何が出来るんだい?」

「召喚術とそれに付随する技術を幾らか、だね」

「召喚術……ですか」


 イマイチ、ピンと来ない様子の光くん。

 まあ確かにイメージ的には呼び出したもんを戦わせるだけだからな。

 強い奴を従えるってのはカッコ良いがそれ以外ではあんまりカッコ良いというイメージはなかろう。


「暁くんだったね? 君は召喚術については?」

「……殆ど知らないです」

「なら簡単にだが説明しよう。生命を使役する召喚術は大きく三つに分けられる」


 一つはシバキ回して契約を結ぶタイプの召喚術。

 これは完全な主従関係で奴隷の如く使役対象を使い倒すことが出来る。自分より弱い奴が主な対象だ。

 一つは交渉によって契約を結ぶタイプの召喚術。

 こっちは契約内容に記されていないことはしてもらえないが自分より強い相手とも上手くやれば契約を結べる。

 一つは契約とかなしにただ呼び出すタイプの召喚術。

 自分より弱いのなら種族とかを指定して呼び出せるが強いのを望む場合はランダム。ガチャねガチャ。

 これは敵味方関係なく術者にだって牙を剥く。これで呼び出したのをボコって一つ目の駒にするなんて使い方も出来るな。


「僕はその内、一つ目と三つ目を主に使う召喚士だね」

「前置きはそれぐらいにしてお前さんがよく使う“アレ”を見せてやってくれよ」

「分かった。暁くん。これから使うのは三つ目のただ召喚するタイプの召喚術だ」


 大門が宙に手をかざすと虚空に召喚陣が出現し、そこから無数の亡霊が吐き出された。


「自我のない悪霊だ。一般人にはともかく裏の人間なら脅威でも何でもない」


 流石に千、万と集まれば弱い奴らはどうしようもないが百ぐらいなら簡単に片付けられるだろう。

 そんなものを呼び出してどうする? 光くんは不思議そうに首を傾げているが本番はここからだ。


「暁くん、スイミーは知っているかな?」

「スイミー? あの、国語の教科書に載ってるアレですか? 僕が目になろうっていう」

「知ってるなら話は早い。弱い力も上手く束ねてやれば強大な敵を退けることも出来る。こんな風にね」


 大門がタクトを振るうように手を振ると無造作に呼び出され続けている亡霊が一か所に集まっていく。

 言葉にならない怨嗟をまき散らしながら“中途半端”に混ざりあっていく亡霊。


「名付けて“暴走召喚”。呼び出した悪霊をわざと雑に混ぜ合わせることで暴走状態にしてある」


 制御しているのは最低限。どんどん指向性のない力が高まっていく。

 力は膨大だが元が自我のない低級の亡霊の集まりだからな。その力を扱えているわけではないので使役は容易い。

 そして混ぜ合わせる方の技術も習得は容易だし相手が低級の亡霊で尚且つ完璧を求めていないので行使も容易。

 重要なのは“雑”にやることだ。完璧にやると完全に合一して亡霊の“格”が上がり自我が生まれてしまうからな。

 説明した通り暴走召喚は難易度の低い技術の組み合わせだが……難易度に反してその破壊力は尋常ではない。


「何か的が欲しいな」

「あいよ」


 俺も召喚術は使える。ただ呼び出すタイプのそれでそこそこ強そうな化け物を呼び出し縛り付ける。

 具体的な強さとしては中堅どころが数十人集まってようやくといったところか。


「往け」


 歪なレギオンが弾丸として撃ち出される。

 耳をつんざくような怨嗟をまき散らしながら化け物に衝突。化け物を跡形もなく消し去ってしまった。


「さて、どうだろう?」


 大門が問うと、


「……クッソ、カッケーじゃねえか」

「……映えって意味でも実用性って意味でもかなり得点高いよこれは」

「か、かかかかカッコ……カッコ良い……ッッ!!」


 高橋鈴木はさておき光くんが喜んでくれているようで何よりだ。

 でも、まだまだこんなもんじゃないぜ?


「期待して良いぜ光くん。このオッサン、まだまだすげえの隠し持ってるからよ」

「!?」

「……よく分からないが、まあ期待に応えられるよう頑張るよ」


 大門は軽く引いていた。すまんね、後日ちゃんと埋め合わせすっから。

【おまけ:オジサンのオリジナル技】


「今度こそ貴様を滅し我が大願を果たそうではないか」

「……これで三度目。いい加減テメェの骸骨ヅラは見飽きたぜ」


 三度目になるハデスとの対峙。佐藤はもう飽き飽きしていた。


「相も変わらず神を神とも思わぬ不遜な態度を取る!!」

「…………そうだな。敵とは言えお前さんはギリシャ神話の大御所。確かに不敬だった」

「何?」


 ハデスが目を丸くする。

 初対面の時から傲岸不遜な態度を貫いていた佐藤だ。

 ハデス自身、悪態を吐いたが佐藤がその態度を改めることはないだろうと思っていた。

 だからこそシュンと項垂れる佐藤にどうしようもなく“嫌な予感”を覚えた。


「前回の敗北の後のお仕置きとかさ。ひでえよな。正直、反省してる」


 二度目の戦いでハデスが敗れた際、トドメを刺される前にハデスは凌辱を受けた。

 全身の自由を奪われ操り人形にさせられた挙句、


『チン×! ×××! ×××!!』


 冥府の王が卑猥なポーズで卑猥な発言をする動画なるものを撮影させられたのだ。

 そしてそれをあちこちに拡散するのを見せつけられてから殺された。


「つっても言葉じゃ伝わらねえよな? だからよ、行動で示そう」

「何を――――!?」


 ハデスの視界が暗転。

 視界が開けた時、そこには澄み渡る青空が広がっていた。


(仰向けに倒された? それに、この空はオリュンポス? いや待て、身体が……!?)


 強制転移させられたそこがどこかは直ぐに分かった。

 オリュンポス山。正確には異界化したオリュンポス山。十二神が住まうギリシャ神話における聖域だ。

 その聖域の大地と己の肉体が中途半端に融合させられている。

 混乱するハデスをよそに状況は加速する。


「数々のご無礼」

「っがぁああああああああああああああああ!!??!」


 跳躍した佐藤の膝が大地と一体化したハデスの腹に突き刺さる。


「まことに、まことに」


 佐藤の両手がハデスの肩あたりに叩き付けられる。


「すんませんっしたぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 フィニッシュ。佐藤の頭がハデスの顔面に振り下ろされた。

 一度目の衝撃でオリュンポス山を軋ませ、二度目の衝撃で罅を入れる。

 そして三度目の衝撃によりハデスと共に聖域オリュンポス山は砕け散った。


「――――これこそ日本が誇る最上級の謝罪“DOGEZA”だ」


 それは世界最強の土下座であった。

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[一言] オリュンポス「解せぬ」 ほんま周囲を慮る心ないんやなって
[良い点] おっさん共ノリが学生化してるから、実質的に今時の若者といにしえの若者との比較になってる。 今どきは驚き方も丁寧さが垣間見える。
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