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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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124/249

嘘偽りのフルコース

「ああ、騙されないで鬼さん!?」

「それは英雄おじさんの卑劣な策略なんだ!!」


 子供らが拳を握りスクリーンに向かって叫んでいる。

 開始数分でハデスの娘を除き皆、心情的にはこちら側についてしまった。


(まあ無理からぬ話か)


 今、画面の向こうでは英雄が負傷した鬼に化けて別の鬼に偽情報を流していた。

 混乱の最中であることに加え英雄自身の演技力のせいで鬼はすっかり騙されてしまっている。


『もう良い喋るな! おい、コイツを早く救護所へ!!』


 救護所は急遽設置されたものの方が多い。

 つまり英雄らも急設されたそれらの位置情報は把握していないというわけだ。

 まんまと一つ、救護所を割り出した英雄は連れて来た鬼を気絶させるやそれを火種にして一切の躊躇なく救護所と物資を焼き払った。


(中にはそれなりに有益な情報があることは分かっていようが)


 速度を選んだのだろう。

 即座に離脱した英雄はまた別の場所で同じことを繰り返した。

 しかし先ほどと異なる点が一つ。


『き、気をつけろ……連中、鬼に化けてこちらの拠点の割り出しを行っている……』

『何だと!?』

『直ぐにこの情報を流せ! そして警護に向かわせるんだ!!』


 まさか目の前に居る鬼がそうとは思わないだろう。

 判断が早過ぎる。情報が割れる前に見切りをつけて逆に自分から情報を流しおった。

 利点は幾つかあるがバレるタイミングを自分で設定出来るのは大きい。


(……話を持って行った相手も上手かった)


 頭が回る者であればここで打てる手もあった。

 例えばそう、敵でない証明のために情報を持って来た鬼にトドメを刺すなどな。

 致死レベルのダメージを負いそうになれば勝手に転送されるので味方であるならリスクはない。

 何せ目の前の鬼はボロボロなのだから。戦力的な意味での損失も軽微だ。


『おい、どこへ行く!?』

『もうロクな戦力にはならないが限界ギリギリまであちこちに情報を触れまわ……ッ……る!!』

『しかし、その怪我なら救護所へ……』

『馬鹿! 事によっちゃ既に運び込まれてる患者や物資も避難させないといけないんだぞ!!』


 足手まといを増やしてどうする?

 それなら弾き出されるまで動き続けた方が効率的だと言われると鬼は心打たれたように頷いた。


『これ以上人間に好き勝手されてたまるか! お前も甘っちょろいこと言ってないで頑張れ!!』

『おぉ! よく言った! その通りだ!!』


 こ奴、ホント病的なまでに口が達者だな。


「クッ……オジサンめぇ……!」

「でも梨華ちゃん、佐藤さんだって無傷じゃあない」


 物陰に隠れ変身魔術を解除した英雄を見て暁少年が言う。

 確かに彼の言う通り、英雄は決して浅くはない傷を負っている。

 制限がなければ一瞬で治癒出来たのだろうがハンデがついた今は回復に割くリソースも無尽蔵ではない。


(追い詰められてはいる、追い詰められてはいるが……それも予定通りだろう)


 今のリソースでも全快させることは出来る。

 にも関わらず最低限の治療しか施していないのは他にリソースを回したいからだ。

 断言しよう。英雄らはそう遠くない内に討ち取られる。しかしそれがこちらの勝利であちらが敗北かと言えばそれは違う。


(そもそもの勝敗条件が違うのだ)


 これはこちらの見通しの甘さだろう。

 見直した防備体制で攻め入って来る敵を退けられるか。それを確かめたかった。

 しかしあちらはどれだけこちらに痛手を負わせられるかしか見ていない。

 こちらは当初、彼らを敵の本軍と見ていたがあちらはハナから尖兵として動いている。

 目を見張るような戦果は望まず徹頭徹尾、嫌がらせしかしていない。


(……これまでの常識が足を引っ張っておるな)


 英雄らは好き勝手暴れているがその実、地獄と極楽における重要箇所は一切狙っていない。

 最初の極楽落としからしてそうだ。極楽の中心地を落とされでもすれば事だろうが落とされたのは辺境。

 防衛と言ってもリソースは無限ではない。満遍なく兵を配置するなど不可能だ。

 それゆえどうしたって浅く薄い箇所は存在する。そしてそこを狙われても痛手がないかと言えばそれも違う。

 敵を退けた後、復興に人・物・金を割かねばならないのだから。


(被害を受けることを前提にしてどうするかを考えろと言いたいのだろう)


 例えばそう……橋だ。狙われるのが分かっていて守り切るのは不可能。

 しかし戦争が終われば再度橋をかけねば生活が立ちいかないような橋があったとしよう。

 壊されるのが織り込み済みなら、あとはどれだけ早く低いコストで再建出来るかに工夫を凝らすべきだ。


(ううむ……凝り固まった価値観とは厄介よなぁ)


 あの世での戦いが起きた際に二度目、三度目があるという意識がなさ過ぎた。

 場所が場所ゆえ長期戦にはならぬだろうと。あの世に攻め入る時点でリスクのある行動だからな。

 事実ハデスも電撃作戦、奇襲じみたやり方で速攻を仕掛け本命……私の持つ権能奪取のみに心血を注いでいた。

 仮に失敗していたなら英雄に襲撃はかけずにギリシャに撤退していただろう。

 そしてその後の政治的なやり取りで傷を最小限に抑え、しばらくは大人しくしていたはずだ。


(悪意を求めておいて、敵側が理性のある存在だと考えていた私の落ち度だな)


 多くの悪を裁いて来た地獄の閻魔なら分かっておったろうに。

 これまで裁いた悪人の中には常識的な損得を度外視した者も数多く存在した。

 その手の者らは徹頭徹尾、自分の中のルールに沿って動いている。

 リスクがあるからなどという理性的な判断はしない。


(ハデスの侵攻を許した時点で幻想は霧散した。特別視するのは止めろと言いたいのだな?)


 分かってはいたつもりだ。だからこそ改めて防備体制をという話になったのだからな。

 だが、捨て切れていなかった。あの世は特別な領域であるという幻想を。

 定命ならざる者の欠点だな。中々価値観が変えられないのは。

 英雄らは見事、それを突いてみせた。指揮を執っている他の十王らも早い段階で思い知らされただろう。

 しかし、現段階では有効な手を打てないから翻弄され続けている。


(演習の相手にかつての悪童らを抜擢したのは正解だったな)


 決定的な事態に陥る前に、問題点を幾つも洗い出せた。


「! 英雄おじさんたち、いよいよ進退窮まったみたいだね」


 目まぐるしく変化する戦況。

 これまでバラバラに動きテロっていた英雄らは一所に追い詰められていた。

 確かにそろそろ限界……いや違う。リアルタイムで尚且つ、その目を見ることが出来たから気付けた。

 甚大な消耗を強いられているのは確かだ。しかし目が死んでいない。

 何だ? あの状況で何が出来る? もう大した術技は使えないはずだが……。

 焦燥が胸を焦がす。何か、大事なものを見逃していると。


(自爆? だが、あの状態で自爆したところで……)


 イタチの最後っ屁程度にしかならないだろう。

 だというのにあの不敵な笑みは……。


『万策尽きたか』

『みたいだね』

『んじゃやるか』


 三人は笑顔で頷き、叫んだ。


『『『ハデス様に栄光あれぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!』』』


 予想通りの自爆。しかし、その規模は想定していたそれを遥かに上回るものだった。

 包囲していた軍勢が全て消し飛ぶほどの威力。あそこまでの威力を出すリソースは一体どこ……。


「……そういう、ことですか」


 サーナ嬢が盛大に顔を引き攣らせながらポツリと呟いた。

 遅れて私も思い至る。そして同じように盛大に顔が引き攣った。


(ひ、人の心……)

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと回復したサーナちゃんのSAN値が下がった
[良い点] 鬼も悪魔も上司の命令で罰や試練を与えている。つまり閻魔様からの依頼でやらかしたおっさんたちもこれらと同類と言っても過言ではないんですね() [一言] 鬼!悪魔!英雄!!!
[良い点] ハデスの手下達がやった事を何乗も重ねてやりやがった…悪辣過ぎる
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