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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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109/249

ぼくとさとうのなつやすみ

(……子供らを抜きにして本当に良かった)


 昨日はホント、酷かった。

 大人のあんな醜態は見せられんわ。ゲロの後はもう全員、開き直って滅茶苦茶だったもん。

 クッソ楽しくはあったが子供の教育って意味では最悪だ。


(っと、着いた着いた)


 ご立派な一軒家の前で立ち止まり、インターホンを鳴らす。


「やあ、いらっしゃい佐藤くん」

「お邪魔します」


 少しすると社長が出て来て俺を出迎えてくれた。

 お盆休みも残すところ今日と明日の二日。

 昨日の疲れもあって今日はゆっくりするつもりだったんだが、社長に誘われてしまったのだ。

 断わっても良かったが何やら俺に相談があるとのこと。

 興味をそそられたので野次馬根性で誘いを受けることにしたのだ。


「さ、あがってあがって」


 リビングに通される。人の気配を他に感じないので奥さんと娘さんは居ないようだ。

 少しすると冷えた麦茶とお茶菓子を持って社長がリビングに戻って来た。


「あ、柏餅……良いチョイスじゃないですか」

「お褒めに預かり光栄だよ。ま、遠慮なく食べて頂戴よ」

「ありがたく」


 麦茶で軽く喉を潤してから柏餅に噛り付く。

 ……何でだろうな。おやつとして常備しとくほどじゃねえんだ。

 でも何か時々、無性に食べたくなるよね柏餅。気付けばスーパーに走ってる時あるわ。


「そいで俺に相談ってのは?」

「うん……僕さ、連休初日から家族を連れて僕の実家に帰省してたんだよ」


 社長は明後日から仕事なので昨日東京に戻って来たが奥さんと娘さんはまだ向こうに居るらしい。

 旦那の実家に留まりたいっていうのは義実家との関係が良好な証だろう。


「確か北海道でしたっけ? 今の季節は良いですねえ」

「そういう君もお母さんのご実家が東北とかじゃなかった?」

「ええ、秋田ですね。夏はこっちで盆のあれこれあるんで顔出しませんが年末は基本、顔見せに行ってます」

「君って案外、親戚づきあいとかちゃんとやって……ってそうじゃない」


 おっと、話が脱線しちまったな。

 軽く頭を下げ、続きを促す。


「僕の郷里は北海道って言っても田舎の方でねえ。ぶっちゃけやることがないんだ」

「? はあ」

「妻と娘はのんびり出来るって言うけど僕ぁ、何かしてないと落ち着かない性質だからさ」


 何時もの帰省では友人と遊んだり、映画館に入り浸ったりしていたらしい。

 が、今回は友人とスケジュールが合わず尚且つ映画館も混み込みだったとのこと。


「んで手持無沙汰になっちゃったもんだから手慰みに昔の私物漁りを始めたんだよ」

「ほう?」

「僕のお袋は物持ちが良くてねえ。僕の物もかなりとっといてくれててさ」


 昔好きだった漫画やゲーム、玩具なんかもあって久方ぶりに童心に帰ったと社長は笑う。


「それでさ、ふと思ったんだ。今の子はどんな遊びしてるんだろうって」


 思い立ったら即行動が信条の社長だ。即、調べ始めたらしい。

 ゲームなんかはその進化に感心するだけでさして興味を惹かれなかったらしいが……。


「……玩具がさ、めっちゃ楽しそうなんだこれ」

「はあ、まあ今の玩具は滅茶苦茶進化してますからねえ」


 俺と社長ですら結構な差があるんだ。今の子供と比較すりゃ尚更だろう。


「君だからぶっちゃけるが僕は最新ホビーがすっごく欲しくなったんだ。遊びたいんだよ。心ゆくまで」

「はあ……じゃあ買えば良いじゃないですか」


 社長なんだから当然、金はある。

 家に入れる分と一定額の貯蓄分を除けば好きにして良いというのが奥さんのスタンスらしいから好きに使えるしな。

 玩具が欲しいなら買えば良いだろう。高いのでも高級クラブで飲むよりよっぽど安くつく。


「恥ずかしいじゃないか。良い歳したオッサンがさ」

「別に恥ずかしくはないでしょ。大人が玩具で遊んで何が悪いってんです?」


 大人になっても玩具で遊ぶさ。いや変な意味でなくてね?

 昔ならいざ知らず価値観の多様化した今の時代に大人だからとかってのは……ねえ?

 いや大人らしく分を弁える必要がある場面ならそうするべきだろう。

 玩具の例で言えば数量限定で子供を押しのけて、とかならそれは恥ずかしいと思うがそうじゃないなら好きにすれば良い。


「そう、そこだよ! 君のそういう図太さを見込んで声をかけたんだ!!」

「あれ? ディスられてる?」

「佐藤くん、僕と一緒に玩具買いに行こう。そして一緒に遊ぼうじゃないか!」

「えー……オッサン二人はOKなの?」

「一人だと人目が気になるけど横にそういう目を気にしない図太いのが居ると頼もしいじゃあないか」


 そんなもんかねえ……?


「ってか恥ずかしいならネットで買えば良いじゃないっすか」

「分かってないなぁ! 玩具ってのはねえ! 店で胸躍らせながら選ぶのが醍醐味でしょうに!!」

「めんどくせえ……でもまあ、俺も話してて興味沸いて来たし良いっすよ。付き合いましょう」

「流石は佐藤くんだ。僕の柏餅もあげよう」

「ざっす」


 柏餅うめえ……。


「……そういやうちの部に趣味でホビー動画上げてる子居たような? 都合が合いそうなら来てもらいます?」

「いやいやそれは流石に申し訳ない」

「俺は?」

「いやほら、佐藤くんは……ねえ?」


 何やねん。


「公私の区別がしっかりしてるじゃないか。

公の場なら社長として僕をしっかり立てて自分は一歩引いて距離を保ってくれる良い部下だ。

でもプライベートなら最低限の礼儀以外は遠慮なしじゃん。親戚のオッサンかってぐらいの遠慮のなさじゃん」


 まあ、はい。


「今日だって気分が乗らなかったらバッサリ断ったでしょ?

来てくれたのは大方……あれだ、僕の相談ってのに好奇心擽られた野次馬根性ってとこでしょ」


 大当たりだよ。


「そんなだから誘う方としてもパワハラとか気にしないで居られるけど……他の子はさぁ」

「ああ、プライベートでも気ぃ遣っちゃいますよね」

「まあ井上くんみたいな無礼講でマジ無礼かますタイプの子も居るには居るけど」

「アレは例外です。俺でさえあん時は肝を冷やしたんだから。あ、これセーフなんだって後で胸を撫で下ろしましたもん」

「ハッハッハ、そういうわけだからさ。僕も気を遣って遊んでくれるより気兼ねなく遊んでくれる方が良いし」

「分かりました。でも、ちょっと情報聞くぐらいは良いでしょ?」

「勿論。今でもホビーで遊んでる子の生の声は参考になるだろうしね」


 どうせ遊ぶなら楽しく遊びたいしな。先達の声は重要だ。


「ちなみにどこの玩具屋行くんです?」

「テキトーに近場の家電量販店とかデパートの玩具売り場回ろうかなって」

「了解。んじゃ早速……」

「ああ、善は急げだ」


 茶と菓子を放り込み、俺たちは社長宅を後にした。

 車を出してくれることになったのだが、自分が誘ったからと社長が運転手を買って出てくれた。

 後部座席に座り流れる景色を眺めながらふと思った。


(べろんべろんに醜態晒すまで飲んだ翌日に、子供の玩具で遊ぶ中年かあ……)


 わりとマジでロクでもねえな。子供のお手本にゃなれんわ。

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[一言] ろくでもなくない大人なんか、つまらん奴しかおらんので、 佐藤さんぐらいがサイコー!
[一言] 酒飲んでハーレムプレイした翌日にオッサンと連れ添って玩具を大人買いしに行く、これが主人公の姿か……?
感想一覧
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