汚れつちまつた悲しみに
「……時間操作、便利だなぁ」
壺の中に漬けたイカの様子を確認しながら鈴木がしみじみと呟いた。
時刻は夜の七時を少し過ぎた頃。もう七時間ぐらい食いっぱなしだが俺も皆もまだまだ余裕だ。
屋上に場所を移して今から海鮮BBQでド派手に食おうってぐらいにはな。
「私も覚えたいけど、見た感じ無理そうなのが残念だ」
「おい鈴木、しっかりしろ。佐藤に毒されてんぞ。時間への干渉とかそんな簡単に出来るもんじゃねえ」
まあそうね。
劣化を加速させる技術とかはあるけど、あれは別に時間を操作してるわけじゃないし。
本当の意味で時間に干渉して加速させたり巻き戻したりする技術もあるっちゃあるが大がかりな仕込みが必要だ。
飯のために使うとかコストが最悪過ぎる。遊びでサッカーしたいだけなのに土地買って競技場作るようなもんだ。
「指パッチン一つでやってのけるコイツが異常なんだ。何だお前、化け物か?」
「ちょ、ちょっと高橋くん!!」
ほろ酔いだった千佳さんがギョっと我に返るがそれを手で制する。
「別に良いよ。その手のことは言われ慣れてるし」
一人になってから……随分と戦った。
戦えば戦うほど強くなる俺を見てマジにビビってる奴なんざ山ほど居たよ。
(それこそ、千佳さんもな)
言われるまでは気付かなかったが高橋と鈴木が居なくなってからは一番、近い場所に居たからな。
どんな戦いであろうと勝利し強くなり続ける俺にビビるのは当然だろう。
何せ神ですら恐れてるんだ。人間が恐怖を抱くのも当然だ。
千佳さんはその負い目があるから高橋の言葉に反応したんだろうが、
「そもそもの話、俺がそんなん気にするタイプに見える?」
「「見えない」」
「そ、それは確かにそうだけど……でも……」
知らん奴に何を思われようが別にって感じ。
千佳さんは別枠だが、そもそも気付いてなかったし告白された時点では千佳さん自身折り合いつけてたからな。
今普通に受け入れられてるんならオールオッケーじゃん? としか思えん。
「千佳さんはさぁ、真面目過ぎるんだって」
頭髪や加齢臭のが百倍気になるわ。
「しかしあれだな。結果だけ見ると……あたしらは足手まといだったのかもしれねえな」
「あ~?」
「だってそうだろ? お前は勝つのに今足りねえ分を補って勝ってたわけじゃん?」
まあ、そうねえ。
「群れるほどに成長幅が小さくなるってことじゃねえか。
実際、西園寺と二人になってからの成長幅はあたしらが居た時よりデカかった。
んで一人になってからは……言わずもがな、だ。この世のどんなものよりも強くなっちまった」
うん? あれこれひょっとして拗ねてる?
ちらっと千佳さん、鈴木を見やる。千佳さんは分かり易く曇ってて……鈴木は気にしてないように振舞ってるだけっぽい。
「馬鹿かお前は」
「んだよ……その言い草は……」
唇を尖らせる高橋を笑い飛ばす。
「力に価値がねえとは言わんさ。実際、俺は俺の強さありきで色々押し通してるからな」
今の俺の立場、幸せは力ありきだ。それは認めよう。
じゃあ俺にとって力が至上かつったらそれは違う。大事なのは力を使った先にあるものだ。
「こうしてお前らと楽しく酒を酌み交わせる。おい、これ以上の幸せがあるかよ?」
ないね。最強なんてものがこの幸せの上に立つことは宇宙が滅びたってありゃしねえ。
だから足手まといだとか枷だとか見当違いの自虐はやめてくれよ。
「俺、お前らが居るから幸せなんだぜ?」
「「「――――」」」
フッ……半端なくハズイ。
言い切った後に途方もない恥ずかしさが襲って来た。
言った方も言われた方も顔真っ赤じゃん。つーか前もあったよなこういうの!
あんときも切っ掛け高橋じゃなかったか? 何なの? 高橋は羞恥発生装置なの?
「な、何か変な空気になっちゃったわね」
「お、おう……鈴木、イカはまだなのかよ? 早く焼こうぜ! あたしもう我慢出来ねえよ!!」
「……そうだね。そろそろ良いだろう」
熱した網の上に壺から取り出したイカを乗せると凄まじく食欲を刺激する香りが漂い始めた。
が……ダメ……! これじゃ誤魔化せない。
俺も千佳さんも高橋も鈴木も、口にはしていないが恐らく同じことを考えたのだと思う。
全員が同時に手元の酒を取り、
(――――こういう時は……酒ッッ!!)
一気。しかもただの一気じゃない。
アルコール耐性を極端に低下させたのだ。
これまでも酔うためにやってたが今回はこれまでのそれとは段違いの早さでアルコールが回っていく。
「「「「あひゃひゃひゃひゃ!!」」」」
数分と経たず俺たちはへべれけモードに突入していた。
羞恥心? 何それ? もう何もかもが楽しくてしょうがない。箸が転がるだけで笑える。
「そーいやさー……」
「あぁ……?」
「佐藤くぅん、言ってたよね~」
「あにがよ~」
「カレカノみたいなことやらせてってさ~」
「お~言ったな~」
「やらせてあげてい~よ~?」
「ま、マジか!?」
「うん……たしょう、えっちなのもゆるしたげる」
おいで、と両手を広げる鈴木。俺はノータイムでその胸に飛び込んだ。
よしよしって頭撫でて? そうリクすると鈴木は優しく俺の頭を撫でてくれる。
「よしよし……佐藤くんはいい……いい子かなー? いい子ではないけど好きだよー」
あ~良い……良いです……ギュっと強く抱きしめて顔を首筋に押し付けるの。
ラブなハグって感じが……って痛い!?
「おいおい、ンな貧相な乳じゃ佐藤が可哀そうだろうがよ~」
「あ~ん? デカけりゃ良いってもんじゃないでしょうよ~」
「つまりはバランス。ほらヒロくん、こっちこっち」
高橋に引っ張られたかと思えば今度は千佳さん……首が取れた。
が、首が取れた程度で佐藤くんは壊れないので即座に再生した。
転がった俺の生首が火花になって消え去るのがちょっとシュール。
「ヒロく~ん? 私のおっぱいどー?」
「……さいこう」
あと、何だろ。やっぱり母親だからかな。包容力を感じる。
鈴木がタメのしっかり系彼女だとすれば千佳さんは年上の甘やかし系彼女的な母性を感じる。
「最高? 決めつけるのはえ~だろ~がよ~」
「ちょ、高橋くん引っ張らないでよ!」
「そういう西園寺さんこそいきなり何するのさ~」
ぐいぐいと俺を奪い合う三人。しかしそんなことはどうでも良かった。
三方向から乳が押し付けられる最高のシチュに俺は完全に酔いしれ……。
「「「う゛」」」
う?
「「「……~~~!!!?」」」
ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁああああああああああああ!!?!!
今日もゲロの降りかかる




