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捕食者

 お盆休み五日目の八月十六日。

 俺は早朝から実家の庭でジジババを含む先祖と対面していた。


【朝早くからすまんのう】

「いやそれは良いけど……最終日ぐらいゆっくりすりゃ良いのに」

【わしら連休最終日は家でまったりする派じゃからな】


 うんうんと頷く先祖たち。

 生者の俺からすればそうだが極楽に居る死者は365日休みみたいなもんなんだがな。


【おばあちゃんたちとの別れを惜しんでくれるのは嬉しいけど、また来年会えるんだし……ね?】

「分かった分かった。とりあえず送り火焚くからさ」


 本来は夕方にやるもんだが、もう帰るってんだからとりあえず形だけは整えんとな。

 ちゃちゃっと送り火を用意して、やり残しはないかと最終確認。

 全員が頷いたのを見届け、転移であの世の門まで飛ぶ。


【ちょっぱやよなぁ】

【世界最速の男だぜぃ】

【ありがとうね英雄くん。ここからは自分たちで行けるから】

「ああ、じゃあ気を付けて」


 極楽行きの道に向かって歩き出したご先祖を見送ってから実家に帰還。

 時刻は朝の五時を少し過ぎたところ。このまま二度寝したいが既に予定が詰まってるんだな。


「来たか……入って良いぞ!!」


 インターホンが鳴り、俺がそう答えると動きやすいトレーニングウェアに身を包んだ鈴木が縁側にやって来た。


「おはよう佐藤くん、今日はよろしくね」

「ああ」


 これから俺たちは食材の狩り(ハント)に向かう。

 何でって? 新築祝いだよ。昨日そんな話が出たけど、どうせやるなら派手にってことになったのだ。

 だもんで食材も普通に買うのではなく自らの手でってわけよ。

 そして裏の人間がわざわざ狩りなんて言葉を使うんだ。獲物も当然、普通じゃない。


「佐藤くん、リストは?」

「バッチリ。百以上はある。空振りもあるだろうがこんだけあるならそれなりの数はゲット出来んだろ」


 化け猫、化け犬、年月を経たり瘴気などに触れ異形化する動植物は多々ある。

 そしてそういう奴らの中で元は食材になり得るのは大概、美味い。市販の高級食材よりも遥かに。

 とは言え一般人の舌にも合うわけじゃない。美味く感じるものはあっても普通の人間の身体にゃ有毒だからな。

 言うなれば超人規格の食材ってとこか。まあ裏の人間でも実力如何ではやばいのもあるが俺らなら大抵のもんはいけるだろう。


「他所の国のも混ざってるが……俺が居るからな。バレへんやろ」


 今回俺たちが狙うのは“化け魚介類”だ。指定したのは鈴木である。

 以前、俺が言った「デッケエトラフグとか捌くの見てみたい」というのを覚えていてくれたからだろう。


「まあバレても君なら問題視はされないでしょ」

「かもな。それで、先ずはどこ攻める?」


 リストを手渡した途端、鈴木の目が料理人のそれに変わった。

 ……いや違うな。料理人兼食いしん坊の目だ。ギラつく食欲で俺まで腹減って来るわ。


「……コイツにしよう」

「了解」


 善は急げ。俺は早速、某県のとある深山に転移した。

 山中に出た途端、ピリリと肌が焦げ付くような感覚が俺たちを歓迎してくれた。


「……このレベルのを放置してんのか」


 今居る山を含め、複数の山に跨り巨大な異界が形成されている。

 俺たちはまだ中に踏み入っちゃいないが仮に一般人がこの山に入れば即座に取り込まれるだろう。

 女王級の中でも危険度は最高クラスと見た。


「そりゃまあ、こんなとこに来るのは登山家ぐらいだろうしね。

ほっといても大規模な被害が出るでもなし。それなら貴重な人材を危険な化け物相手に消費したくはないでしょ。

入山禁止の札掲げてそれで対策完了ってことにする方がコストも抑えられるし」


 それもそうだな。

 個体の強さって意味では最高クラスでも人類への脅威って意味じゃそこまででもないか。

 まあそのお陰で俺たちがご馳走にありつけるんだから感謝せんとな。


「行くか」

「うん」


 揃って異界に侵入する。

 途端に百鬼夜行かってぐらいの数の異形が俺たちに群がるが、


「邪魔だよ」


 鈴木の斥力によって頭や胸を穿たれ屍を晒す。

 雑に斥力を放てばただ吹っ飛ばすだけだが照準を絞るとそれは脅威の貫通力に変わる。

 的を絞れば絞るほど出力も跳ね上がるので針の穴ほどまで絞った時の貫通力はマジにやばい。

 俺も鈴木との最終決戦では穴だらけにされたっけな。


「狸とか猪も混ざってるけど、どうする?」

「…………今日は使わないけど一応、確保お願い」

「りょ」


 食えそうな異形の死骸だけを異空間に放り込み、先に進む。

 有象無象が懲りずにまた襲って来るが鈴木の張った斥力バリアに阻まれ皆悉く跳ね飛ばされた。

 そうして歩くことしばし。ようやっと、目的地に辿り着く。


「本命のお出ましだ」


 巨大な滝つぼが割れ“そいつ”が姿を現した。


【ふぇふぇふぇ、これはこれは活きの良い人間がお出ましだよぅ】


 全長数十メートルはあろうかという巨大鰻だ。

 ここまで来るともう鰻ってか大蛇、もしくは龍の怪異みたいだな。

 粘ついた視線を向けて来る巨大鰻、奴の目にはさぞ美味い餌に見えているのだろう。

 俺たちが異形化した動物を美味しく感じるように、異形もまた俺たちのような力ある人間を美味く感じるのだ。

 普通の人間よりも栄養価が高く味も美味い……弱い奴はともかく強いのは積極的に超人を喰らおうとする。

 今この状況は言うなればレア食材VSレア食材――――みたいなもんだな。


「よう鈴木、あれで蒲焼何人分作れるよ?」

「……年単位で店を賄えそうだね」

「おいお前、涎垂れてんぞ」

「そういう佐藤くんこそ」


 裏の人間は基本的に大食漢だ。

 考えてみれば当然だろう。普通の人間が使わないエネルギーも使ってるわけだしな。

 そして強者ほどよく喰らう。超人の構造を簡単に説明するなら、だ。

 見えない貯蔵庫があると想像してくれ。そして強い奴ほどそのタンクはデカイ。

 喰らえば喰らうだけその見えないタンクにエネルギーが貯蔵されていきそこが満タンにならないと腹が満たされないのだ。

 だから俺らはタンクへの道を閉ざす術を身に着けてる。というかそこそこの強さの奴もそうだ。

 強い奴は何時まで経っても腹が満ちないしそこそこのは食費的な意味でな。

 しかしタンクへの供給を閉ざさねば際限なく食べられるわけで……つまりはまあ、何だ。


「す、鈴木ぃ……腹が、腹の音がとまらねえよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「ああ! ああ! 私もさ! 蒲焼白焼きひつまぶし!!」

「う、う巻き卵ってのもあるよな!?」

「あるね! 天ぷらや唐揚げも美味しそうだ……刺身も、ありだね!」

「てっさに似てるんだっけ!?」

「うん。私も一回しか食べたことないけどあれはあれで……ひひ」

「へへ、こんだけの図体だ……色んなもんを作れるよなぁ」

「そうだねえ」


 顔を見合わせ、笑う。


「「へ、へへへ……うへへへへへへへ……」」

【き、貴様ら! 喰うつもりか!? この妾を!! 何たる不遜かァ!?】

「「ごちんなりまぁあああああああああああああああああああああああっす!!」」


 数分後、化け鰻は無事食材へと転職を果たしてくれた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 清楚系美女がだらしねぇ顔してると思うとちょっと興奮する。 てか鈴木と高橋があまりにも女子として振る舞うのに慣れてるの性癖がバグりそうになるぐらい好き。
[一言] スカイフィッシュを虫取あみで捕まえて、陸で食えるワカサギだ!って喜ぶヤカラの未来が見えるw
[一言] 大きいウナギって大味だって聞いたことあるんですけど化け物はまた別なんですかね。というか、山なのにウナギなのか……
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