五十歩百歩
「だからよ~パフェにはコーンフレークがなきゃダメなわけ。分かる?」
「あっても良し。なくても良し。高橋くんのこうじゃなきゃダメ! ってのはどうかと思う」
パフェは自由であるべきだと鈴木が反論する。
このままだと更に議論がヒートアップしそうだなと思いつつ、俺は言う。
「……あのさぁ」
「あんだよ?」
「佐藤くんはどう思うのさ」
「お前ら、忘れてない? 俺を呼び出した理由」
「「あ」」
互助会復帰がどうたらって話だったじゃん。
照れから話題変えて気づけば普通に駄弁ってるんじゃないわよ。いや最初に話題脱線させたん俺だけどさぁ。
「……そういやそうだった」
「……すっかり忘れてた」
俺のパフェはついに五杯目に突入していた。
何ならもう、全種類制覇しちゃろかな? って気になってるわ。
「俺としては気まずいんなら無理して戻ることもねえと思うがな」
「いや……またお前とつるむようになったわけだしさ」
「うん。それなら一緒の方が良いじゃないか」
「そうかい。んでどうすんのよ? いや俺はどうすりゃ良いわけ?」
会長に口利き、ってわけじゃねえだろ。
そもそも互助会復帰の話を持ち込んだのは会長だし。
「ほら、あたしらは使ってなかったけどグループで登録みたいな制度あったろ?」
「あー……はいはい、あったねそういうの」
PT登録的なアレね。
俺も規約とか読んだの大分、昔の話だからうろ覚えだがPT登録するとソロでは受けられないサポートとかもあったな。
確か互助会側とのあれこれはPTの代表が……ああ、そういうあれか。
立場的には互助会所属だが俺が頭を務めるパーティの一員って形だから多少は気まずさも軽減するって感じ?
「ようはクッションになって欲しいわけね」
「うん……その、迷惑かけちゃうけど……」
「いや良いよ? そんぐらい手間でも何でもねえし」
互助会側との折衝なんかぶっちゃけあってないようなもんだしな。
俺も互助会側には梨華ちゃんとかの件で借りはあるが貸しの方が大きい。
加えて俺が作った借りだって別に互助会じゃなくても出来ることだ。前にアメちゃんの靴舐めた時のようにな。
一般会員ではあるが立場的には俺のが上だから何もせんでも向こうが勝手に気を遣ってくれるだろう。
「じゃ、早速行くか」
「「りょ」」
そういうことになった。
手続きがさっさと済むよう本部に行き、受け付けで集団登録の話を持ち込むと直ぐ書類を用意してくれた。
名前住所電話番号、んで実印押せば終了なんだが……ここでドデカイ問題が浮かび上がった。
「「「……」」」
パーティ名だ。
「俺が決めて良いよな」
「あたしが決めて良いよな」
「私が決めて良いよね」
まったく同時だった。
空気がピリつく……しかし俺らはあくまで表面上は穏やかなに言葉を交わす。
「おいおいリーダーは俺だぜ~?」
「それとこれとは話が別だろ」
「そうそう。こういうのはセンスある人がつけるべきだよ」
「俺じゃん」
「あたしじゃん」
「私でしょ」
おやおや、受け付けの姉ちゃんが怖がっていましてよ?
あなたたち、もう少しその殺気を抑えられないのかしら?
「テメェもな」
「……OK。このままじゃ話が進まない。お互い候補があるならそれを挙げてみない?」
「んでどれが一番良いか決めるわけね。俺は既に一つ浮かんでる」
「あたしもだ」
「奇遇だね。私もだよ」
「なら同時に言おうぜ」
二人は頷いた。
俺たちは息を合わせ、同時に口を開く。
「佐藤水産」
「高橋運送」
「鈴木商事」
……コイツら……マジで……あー、ダメだ。頭が痛い。
でも言わなきゃならんのだよなぁ……やれやれだぜ。
「あのさぁ! 名前出すならそこはリーダーのだろうが! 何でヒラがテメェの名前主張してんだオラァ!!」
「確かに書類上は君がリーダーだけどさ。このトリオの常識人でストッパーが誰かっていうと私じゃないか」
なので実質、リーダーは自分だと鈴木はイカレタ主張をする。
「おい鈴木! 勘違いしてんな! どう考えても一番の常識人はあたしだ! あたしがトリオの良心でリーダーだ!!」
「どう考えてもこの佐藤さん以外にねえだろ!? お前ら知ってる? 日本で一番多い苗字佐藤なんだよ?」
「「それが何だよ!!」」
「民意だよ!!」
民意ではない気もするが……こういうのは押し通したもん勝ちだ。
二位、三位の鈴木高橋にゃ負けねえ。俺は全ての佐藤の想いを背負ってここに居るんだからな。
「このままじゃ埒があかねえ! おい姉ちゃん! あたしらの話聞いてたよなぁ!?」
「ふぇ!?」
「さっき挙げたチーム名で一番良いと思うの教えてくれないかな?」
「え、えっと……」
「テメェら若い子に迷惑かけてんな! ンな勢いで詰められたら正直に佐藤水産が良いですって言えねえだろうが!!」
「「はぁ!?」」
とは言え、だ。第三者に判断を委ねるというのは悪くない。
とりあえず受け付けの子は除外な。ぷるぷる震えて可哀そうだし。
「千佳さんに意見を仰ごう」
「明らか自分寄りの奴チョイスしてんじゃねえよ!!」
「……いやでも西園寺さんって結構シビアだし」
スマホをスピーカーモードに切り替え千佳さんに電話をかける。
数コールしてから千佳さんは出てくれた。
後ろから梨華ちゃんの声も聞こえるので親子で何かやってたらしい。
〈どうしたのヒロくん?〉
「いやさ、高橋と鈴木のアホが頭おかしいこと言い始めてぇ」
事の次第を簡潔に説明し、ジャッジをしてくれるよう頼む。
〈……〉
「西園寺、お前は出来る女だ。分かってるよな?」
「西園寺さん。君なら賢明な結論を導き出すと信じているよ」
「お前ら……ダメ、そういうとこがホントあかんわぁ」
露骨に圧力かけんなよ。千佳さんが困ってるじゃん。
あーあ、ホントしょうがねえ奴らだ。やっぱなぁ! 俺が居なきゃなぁ!
〈ヒロくん〉
「うん」
〈高橋くん〉
「おう」
〈鈴木くん〉
「はい」
気のせいかな? 千佳さんの声がとてもしらーっとしてる感じがする。
気のせい……ああいや、コイツらに呆れてるのか。分かる分かる。
〈――――三人は五十歩百歩って言葉をご存じ?〉
「「「え」」」
〈つまりはそういうこと。梨華とお菓子作ってて忙しいから切るわね。じゃ〉
ツー、ツーと電子音だけが虚しく鳴り響く。
俺たちは無言だった。無言で顔を合わせ、
「「「え?」」」
ど、どういうこと……?
 




