堂々師匠ヅラ
「……よォ、待たせたか?」
お盆休み四日目。
今日も特に予定はなかったのだが高橋、鈴木からお呼びがかかったので指定されたファミレスに。
「ううん。ってか佐藤くん……」
「何かあったのか?」
心配そうに俺を見る二人。
そうか。俺自身はもう、気にしてないと思ってたんだがな。
「……いやさ、昨日カワサキん家に行ったんだよ」
「「うっへ」」
「おい待てや。露骨にイヤそうな顔すんな。話振ったんはお前らだぞ」
「いやだって……あんな頭のおかしい女の話とか……ねえ?」
「ああ。絶対ロクでもねえよ。すまん佐藤、キャンセルで」
「俺の辞書にクーリングオフなんてねえんだよ。最後まで俺を心配しろ! ちやほやしろ!!」
チョコ、イチゴ、バナナの王道パフェをそれぞれ一つずつ頼み、お冷を呷る。
三つ頼んだが別にコイツらの分ってわけじゃない。全部俺が食べる。
「そもそもの発端は一昨日さ。墓掃除してたら閻魔が来てよぉ」
「待って。閻魔? それは何かの比喩じゃなくて……」
「ああ、ガチの閻魔大王。まあ閻魔は重要じゃねえからスルーしろや空気読めねえな」
「話を聞いてもらう側の態度かテメェ」
「閻魔連れて観光してたらカワサキにバッタリ出くわしてさぁ、遊ぶ約束を取り付けられたの」
「それでカワサキの家に行ったわけだね」
昨日のことを順々に並べ立ててやると、
「……彼女じゃん」
「……何? お前ら付き合ってんの?」
途端にしらーっとした感じに。
まあ分かるよ? こんな話聞かされてもってさぁ。コイツらも俺と同じで恋愛経験ゼロだからな。
「そうだよ、それだよ」
「「どれだよ」」
「普通の彼女出来たこともねえのにだよ? 真っ当なカレカノの休日みたいなことをカワサキでやっちゃったんだよ」
捨てちまったんだよ。心の童貞を。
「俺はそういうん興味ねえから? みてえなスタンスで遊んで来たけどさぁ」
何だかんだ仄かに憧れてたんだよ。
それをカワサキ……カワサキで消化しちまうとか……何度か経験あるなら別に良いよ?
「でも初めてって特別じゃん」
「……めんどくせえ女子かコイツ」
「女子に失礼でしょ」
わお辛辣。
「カワサキのことは嫌いじゃないけどさ。俺のピュアな部分が抱いてた夢が気づけば散ってたってのが……」
「鈴木~ちょっとこの店空調効き過ぎじゃね?」
「そりゃ君が露出しまくりだからでしょ」
「聞けや」
それはともかく高橋の格好はグッドだと思う。
高橋の武器であるムッチムチの太ももが強調されたショーパン。背中ガン開きのキャミ。
良いよ~目の保養になるよ~。
実年齢的にはちょっとと思わなくもないが見た目若いし問題ねえだろ。
「……変な目で見るな」
「ふぉふぉふぉ、かつて教えを授けたわしとしても鼻が高いわい」
「突然の師匠ヅラ……ちなみに私は?」
「グッド」
鈴木のそれは高橋とは真逆の清楚系。
夏なので薄着ではあるが無駄な露出は皆無。
下は足首あたりまである黒の落ち着いたフレアスカート。
上はライトブルーの爽やかなシャツの上にカーディガン。このカーデが個人的にポイント高い。
薄いから透け気味で良い感じに肌が見えるのだ。露出が少ないからこそ……ドキっとするよね。
「そ、そう……それは良かった」
「しかしだからとて調子に乗るなよ! その道に終わりはないのだからなァ!!」
「「だから何その師匠ヅラ……」」
あ、パフェ来た。
「話ずれたが今日の俺はちょっとセンチ気味なわけだ」
「センチな奴がパフェ頼むか?」
「それも三つも……ああでも、見てたら私も食べたくなってきた。すいませーん! デラックスパフェお願いしまーす!!」
「だから、な? そんな俺のために何かしてやっても良いと思うんだが? フレンズだろ?」
「友達だろ、とか言い出す奴ってロクなのいねえんだよなぁ……あ、そういやお前ロクデナシだったわ」
て、テメェ……!
「鈴木! お前は違うよね? 俺に優しくしてくれるよね?」
「まー……とりあえず聞くだけ聞くよ。何して欲しいの?」
「思い出の上書きだ」
「思い出の上書き?」
「ああ。俺がむか~し密かに考えてた彼女とやりたいことリストがあるんだがやってくれね?」
「ちょ」
さぁっと顔を赤くする鈴木……ああ、いやそういうことじゃない。
「安心してくれ健全なやつだから。キスさえもな。流石にダチつってもそこまでは頼むほど俺もアホじゃない」
つーかリストん中にそういうのそもそも入ってないしな。
ホントこう、何気ない日常の一ページみたいな? そういうのばっか。
「ま、まあ? それぐらいなら……」
「……アホ言ってんな。つか佐藤よ~テメェ、忘れてねえか?」
「急に不機嫌になるじゃん。何だよ?」
「用があるからあたしらはお前を呼び出したんだろうが」
…………そういやそうだったな。
「マジ忘れてたのかよ……」
「悪い悪い。話してる内に気持ちが昂ってな……で、俺に用って?」
「実は、さ。前々から互助会復帰の打診されてんだわ」
「具体的に言うと佐藤くんの怪しい授業を見学に行った時からだね」
怪しい授業言うな。
「ってかまだ復帰してなかったのか……」
「そう簡単に出来るもんじゃねえだろ」
「……そうだよ。一度は不義理を働いたわけだし」
不義理、ねえ。
ぶっちゃけ俺ら全員が所属してた頃の互助会相手に義理感じる必要あるか?
「今でこそ正常化してっけどあの頃はクソじゃん」
訓練にかこつけて排除されそうになったりな。
まあでも、そういうことされると逆に燃える性質なんだがね。
反骨ハートに火が点いて嫌がらせに対する報復が楽しくなるっていう。
ラインを見極めながら連中のストレスを蓄積させてくのがたまらねえんだ。
まあそれはともかくだ。
「不義理かまされてもしょうがねえだろ」
裏切る動機があるかないかで言えばありありだ。
「そういう意味じゃ今の会長だって腐敗の元凶の一人とも言えるしな」
会長は当時でも互助会では上の方に居た。
にも関わらず腐敗を是正出来なかったんだから偉そうに言う権利はない。
「それは、まあそうだけど」
「……お前、そういうとこドライだよな」
「当時の俺らからすれば暴力も権力も圧倒的に上の大人だからな。そら査定も厳しくなるわ」
更に言うなら今の互助会上層部全員がそう。
「そもそもからして正常化……クーデターの流れを作ったのだってアイツらじゃない。俺だぜ?」
「……そういや君、何でそんなことしたの?」
「そこ、あたしも気になってた。腐敗の是正とかとは無縁の男じゃんお前」
「まあそうね。あと正確にはクーデターってより互助会そのものをぶっ潰すつもりだったし」
「「はぁ!?」」
当時の会長が寵愛してた大幹部の一人。そいつを殺ったのが始まりだった。
何で殺ったかっつーと敵対組織――真世界、混沌の軍勢と内通して情報を流してたからだ。
連中の思想に呼応しそうな奴をそれとなく調べて情報を渡し、その代わりに金銭ともしもの場合の立場の保障を……。
つまり、高橋と鈴木が目をつけられたのもそいつのせいなのだ。
「……最終的に決めたのはお前らだけどよ」
ガキの俺に納得しろってのは無理な話だ。
だから俺はそいつを殺し、そこから始まる流れの中で互助会そのものを潰そうと目論んだ。
それを察知し慌てて俺に接触してきたのが今の会長たちだ。
んで説得の結果、プランを修正してクーデターに方針転換したわけだ。
つまり今の会長たちは後から乗っかって来ただけ。
一応、クーデターが盤石になったのは会長らの伝手やらもあったが元々そういう計画を立ててたわけではないからな。
「……お前、あたしらのこと好き過ぎだろ」
「大好きに決まってんだろ馬鹿」
「「んな!?」」
決定的な決裂。永遠の別れ。
二度とは会えないと思っていた友とまた道が交わったからだろう。自分でも驚くほど素直に言葉が出てしまった。
(顔真っ赤……人のことは言えねえか……俺も多分、似たようなもんだろうし)
パフェの味がわからねえぐらい今、かなり動揺してる。
「普段ちゃらんぽらんなくせに」
「そういうとこだよ佐藤くん」
「……るっせえ。お前らは……その、どうなんだよ?」
目が見れない。恥ずかしさで死ぬ機能があれば三十回はくたばってるぞ俺。
「好き、だよ。ああ、お前と一緒に居るのは最高に楽しい」
「私も大好きさ。もう二度と、離れたくはない」
「……そ、そうか」
「……照れんなよ。何か変な空気になるじゃん」
「そ、そうだよ……ちょ、ほら! 何か言いなよ!!」
あークソ! 良い歳こいた大人が何やってんだろうな! ……悪い気分ではねえ、けどさ。




