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【書籍化】主人公になり損ねたオジサン【12/10発売】  作者: カブキマン
本編

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君と初めての

【……、……】

「食事の準備が終わったんですね? ありがとうございます」


 風呂から上ると廊下でドラム缶みてえなロボットとバッタリ。

 確か朝、茶を出してくれたのもコイツだったか。


(……どうやって茶を淹れたり飯作ってんだろ)


 ロボの見た目はクラシカルの極みだ。

 ドラム缶ボディに電球っぽい目、マジックハンドみたいな腕と昭和のメカ感がぷんぷんする。

 意図してそういうデザインにしたんだろうが一体どうやって細かな作業をしているのか。

 カワサキが労うように頭を撫でるとロボは二、三度目をチカチカさせて去って行った。


(か、可愛い……)


 キュンときた。今日一日カワサキにベタベタされてたけどロボに一番胸がトキめいたぞ俺。

 愛嬌もあって家事も出来るとかあの子、無敵やん。

 軽くカワサキにジェラってしまいそうだ……。


「では行きましょうか」

「ああ」


 和室に向かうとテーブルの上には豪勢な料理が並んでいた。

 メインは天ぷら。ぶっとい海老天やぷりぷりしたタコ天、ワカサギなども良いが……。


(個人的には旬のものを使った野菜天。特にあれ、しし唐!)


 しし唐とコーンのかき揚げかなあれは?

 見た目だけでもう味が想像出来ちゃう。美味いって絶対あれ美味いって。


(白飯もホカホカで……うん? あの小鉢は……)


 とろろ……丼にしろってことね。明太子とネギやらの薬味と一緒にどうぞってか。

 良いね良いね。汁物はメインが揚げ物だからさっぱり系の冷や汁か。

 漬物も美味そうだ……いかん、そこまで腹が減ってたわけじゃないのに急激に食欲が……。


「さ、食べましょう」

「おう」


 腰を下ろし二人揃って両手を合わせいただきます。

 まずは見た時から気になっていたかき揚げに箸を伸ばした。


「……ウッマ!!」


 当たりだったらしい。ほろ苦さと共にピリつく辛さが襲って来た。

 しかしそこにコーンの甘さが加わることでマイルドになり見事、俺に大ダメージを与えてくれた。

 良いコンビだ。感じるぜ、お前らのチームワークをよ……ふふ、立派なもんじゃねえか。


「ふふ、それは良かったです」

「いやー、あのロボすげえな。毎日あの子にこんな飯作ってもらってるとか……贅沢者め」

「ああ、ロボ太ですか。贅沢者って言われてもあの子を造ったの私ですし」

「まあそうだけど……」

「それに家事を教えたのも」

「……教えた?」

「ええ。単純に料理に必要な知識を入力するだけでも普通に美味しい料理は作れるんですがね」


 ロボ太はあくまで自分の世話をするロボで他所に売り出すものではない。

 なので何もかもを自分好みにするためには、カワサキ自身が直接家事を教え込む必要があったのだと言う。


「自分の舌を完全に満足させられるのは結局、自分ですからねえ」


 ……コイツ、家事も出来るんか。

 いやロボ造れるような器用さがあれば料理ぐらいは簡単だろうが。

 んでも台所に立ってる姿が全然想像出来ないもん。


「意外だな。お前、食とかには興味ないと思ってたわ」


 何だろ。あのー、錠剤とゼリーみたいなんで補給完了とかやってそうじゃん。


「忙しい時はそういうもので済ます時もありますが、普段はちゃんと食べてますよ。

何をするにもまずは心身が満たされてないと。まあ時には敢えて飢えることも必要ではありますが」


 コイツはコイツで色々考えてるんだな……。


「なるほど。しかし心身を満たすにゃ金が必要だろ? お前何で稼いでんの?」


 金が全てとは言わんが金で満たされるものも多い。

 食なんかは特にそうだろう。今食卓に出てるのも全部、お高いのっぽいし。

 コイツほどの実力なら裏の仕事で楽に億万長者になれるだろうが……カワサキの存在を知ったのはあの時が初めてだ。

 見目麗しくて力もあるとなれば名が通ってても不思議じゃないんだがな。


「表も裏も建築関係が主ですね」

「ほう? にしちゃあカワサキなんて名前とんと聞きゃしねえが……ああ、裏の方でな?」


 建築関係――表の方はともかく裏の方は納得だ。

 この屋敷を見れば分かる。拠点としての完成度が抜群に高い。

 並の人間じゃ万揃えようともここの霊的防御は抜けんだろう。


「ああ、それはそうでしょう。佐藤さんは東の人間ですし」

「……ってことはお前、元は西――京都の?」

「はい。生まれも育ちも京都なので」


 納得だ。裏には幾つも組織がある。

 規模で言えば互助会はかなりのもんだが大勢力と呼ぶに相応しい組織は他にもある。

 中でも京都は独特な立ち位置だ。

 京都は表でも裏でも日本における政治、文化の中心地だった場所だからな。

 霊的な立地と相まって今でも強い影響力を持っているのだが……何つーかあそこ閉鎖的なんだよ。

 今京都を支配してるのは遷都の際に東へ行かなかった退魔組織の流れを汲む連中だったか。

 完全に断絶してるわけじゃないが他所との繋がりは必要最低限でロクに情報も流れて来ないんだ。


「何かさ。あそこ年々、内側に閉じてってねえ?」

「ええ。強みも弱みも何時かの復権のために徹底して秘匿してますからねえ」

「……復権?」

「表はともかく日本における裏の中心を京都に戻したいみたいですよ」


 ……初耳なんですけど。


「互助会が裏を席巻しているのが大層、お気に召さないようで」

「えぇ……?」

「その元凶である佐藤さんのこともどうにかしたいみたいですよ」

「元々敵が多い方ではあるが……京都の連中にまで狙われてんのか……」

「排除せよとの声もありますがそれは現実的じゃありませんからね。何とか取り込もうって声の方が大きいですよ」

「よし、この話題止めよう。折角の休日が台無しだ。飯飯、飯を楽しもう」


 都合の悪いことは忘れ食事に専念する。

 一時間ほどで食事を終え、歯を磨いた後は夜の鑑賞会だ。

 俺が知らない原作のアニメや漫画もカワサキは当然のように全部、所持していた。

 カワサキは弁が立つので解説を聞きながらの視聴は楽しく、気付けば俺はすっかり夢中になっていた。


「なあカワサキ、これって……寝てる」


 テレビ放送版を見終え劇場版を視聴していたのだが、カワサキは寝てしまっていた。

 俺の肩に身体を預けすやすやと眠るその顔は子供のようにあどけない。

 遮音の術式を展開しテレビから聞こえる音がカワサキには届かないようにしてやった。

 ……こんな顔で寝てる奴を起こすのは忍びないしな。


「解説は起きてからで良いか」


 視聴を再開しようとしたところで俺はあることに気付いた。


「……」


 朝、手土産片手に自宅へ訪問。その後は(宇宙戦艦で)ドライブへ。

 夜、帰宅してから一緒に風呂に入って一緒に食事。

 その後は私室で二人だけの映画(も含む)鑑賞会。


「……完全に彼女との休日じゃん」


 こういう普通のカレカノみたいなことを俺は今までやって来なかった。

 はじめて、はじめての経験なのだ……。


「はじめての相手が……カワサキ……ッッ!!」


 俺は泣いた。

まさかカワサキの話が100話目になるとはのう……

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主人公になり損ねたオジサン 12月10日発売

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― 新着の感想 ―
[一言] カワサキのロボやメカ談義にも付き合える。巨大ロボバトルにも付き合える。 もうベストカップルでは?
[一言] (他ヒロインとのフラグ)死んだんじゃないのォ〜〜?
[良い点]  カワサキ、好きです。
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