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盗聴アプリ  作者: マーク・ランシット


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コンビニのアルバイト

 無料版のアプリを起動した。

 アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。

 全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。


 ・・・・・・・・・・・・・


「アブラムシ君はクエートからの留学生ですね」

「あのー、私のナマエは、アブラヒムです」

「あっ、それはすいませんでした。でもあなたの履歴書の名前がアブラムシになっていたんで・・・」

「本当ですか?・・・あ、ホントだ。すいませんでした」

 ゴシゴシ。ペンで修正する音。


「日本語が本当にお上手ですね。どこで勉強したんですか?」

「小さい時から日本のアニメを見て来たんで、自然に覚えました」

「それはスゴイですね。ちなみに英語とかも喋れるんですか?」

「はい。あとフランス語とスペイン語も出来ます」

「本当ですか。それは凄いですね。じゃあ、コンビニなんかでアルバイトなんて止めた方が良いんじゃないですか?」

「いえ、私はここでバイトがしたいんです」


 ・・・・・・沈黙。


「正式なお名前は、アブラヒム・スクンデット・モハメッド・アリ・ナシクッタ・マシソヨ・ハジェリ君ですね?」

「ソーです」

「なんか少し韓国人の血が入ってるんですか?」

「아니요(いいえ)」

「そうですか。でもなんか入ってそうな気がするのは私の勘違いですかね・・・」


 ・・・・・・沈黙。


「留学先が東京外語国語専門学校の韓国語学部というのも・・・。もしかしてK-POPのファンなんですか?」

「이건 아니에요(いいえ違います)」


 ・・・・・・沈黙。


「年齢が32歳・・・、ですね」

「なんかモンダイありますか?」

「い、いえ。全く問題はありません。ただ・・・」

「ただ、なんですか?」

「怒らないでくださいね。・・・留学するには、・・・ちょっと年齢が・・。あっ、それはアブラムシ君の自由ですからね・・」

「私のナマエはアブラヒムです。今度間違ったら・・コロ〇よ」

「えっ・・・」


 ・・・・・・沈黙。


「・・・現在の住所が、千代田区内幸町1-1-1で、帝国ホテルの特別スイートルームとなってるんですけど・・・、本当にここに住んでるんですか?」

「暮らすミダ」

「はいっ?」

「그렇습니다.((クラスミダ)) (はいそうです)」

「・・・結構な家賃ですよね・・?」

「私はもっとフツーのアパートに住みたかったスムニダ。デモ、わたしのオモニ(母)がアンゼンの為にここに住むニダと言ったスムニダ」

「・・・でも、ここのバイト料では、焼け石に水ですけど・・」

「ワタシは、オカネの為にアルバイトするつもりはナイデス。日本人の勤勉な仕事ぶりを学びたいです」

「そうですか。それならこちらがどうこう言う事ではないですね。いつから働けますか?」

「明日からでも大丈夫です」

「来週からになりますね。希望の時間帯を教えてください」

「ナカムラさんは何時から何時までのアルバイトですか?」

「中村?」

「はい。女性の方です」

「ああ、中村のぞみですね・・」

「はい」


 ・・・・・・・沈黙。


「すいませんが、個人情報は教えられません」

「100万円でどうでしょうか?」

「はいっ・・・?」

「200万円出しますので教えて下さい」


 ・・・・・・・沈黙。


「も、もしかしてあなたがバイトしたいのは彼女が目的なんですか?」

「すいませんが、個人情報なので教えられません」


 ・・・・・・・沈黙。


「その話をする前に、ちょっと聞いてもいいですか?」

「なんでしょう?」

「あなたの後ろにいらっしゃる、やたらと体格のいいお髭のおじさんたちはお知り合いですか?」

「はい。私のボディーガードになります」

「あの5人の人たちは、あなたのバイト中はずっとここに居らっしゃるんでしょうか?」

「もちろんです。ボディーガードですから・・・」


 ・・・・・・・沈黙。


「・・それは困りましたね・・」

「何がでしょう?」

「それほど広くはないコンビニの中に、5人の屈強なサングラスの男たちが何も買わずに怖い顔していると、若い女性たちにはちょっと入りにくいかなーー・・・って思うんですけど」


 ・・・・・・・沈黙。


「おい。お前たち、笑え」

「にーーー」


 ・・・・・・・沈黙。


「・・・・・」

「どうですか、これで怖くないでしょう?」

「い、いや。正直余計にブキミな感じがしますね」


 ・・・・・・・沈黙。


「売り上げの事を心配してるんでしょうか?」

「まっ、それもありますけど、妙な評判が立ってしまうと・・・」

「・・・でも、ぶっちゃけ売り上げが上がれば問題はないんでしょ?」


 ・・・・・・・沈黙。


「1日50万円補填して貰えれば、大丈夫かと・・」

「分かりました。給料から引いて下さい」

「いや、あなたのバイト料では補填出来ません」

「分かりました。口座に振り込みます」


 ・・・・・・・沈黙。


「あの、私からの提案なんですが、5人の方の服装なんですが、学生服、背広、ジャージ、着物、女装をして貰っても良いでしょうか?」

「もちろん構いません」

「それは良かった。後はターバンを取って頂ければ大丈夫です」

「女装の者は化粧もした方がいいですね」

「少し濃い目でお願いします。なんせここは新宿二丁目なので・・・」


 ・・・・・・・沈黙。


「300万で如何でしょう?」

「えっ?」

「中村のぞみの勤務時間の件です」

「分かりました。小切手で良いですか」


 サラサラサラ。小切手を書く音。


「確かに・・。それでは来週の火曜、水曜、木曜の15時から23時まででお願いします」


 ・・・・・・・6人が出て行く音。


「店長。シフトが違うんで知らないんですけど、中村のぞみさんてそんなに美人なんですか?」

「まあそうだね。ある女優にそっくりなんだよ」

「女優なら美人に決まってるじゃないですか」

「イトー君は、若いから知らないだろうけど、昔おしんというテレビドラマがあってね・・」

「あっ、なんか聞いたことあります。スゴイ視聴率だったんですよね」

「おしんは世界中で大評判になってね、中東のでも人気があったんだよ」


 パチパチパチ。スマホをいじる音。


「おしん・・。あっ、これだ。タナカユーコ、確かに中東の人からしたら典型的な日本美人ですね」

「こっち」

「えっ、イズ〇ピンコ?」

「恐らく中東の超金持ちにすれば美人は見飽きてるんだろうね・・・」

「・・・・」

「そっくりなんだよこれが・・」

「そのために300万円払ったんですか?」

「その上に毎日50万円の保証金・・」

「あるところには・・、というかいるところにはいるんですね、色んな人が・・」

「イトー君。そんなこと言ったらイズ〇ピンコさんに失礼だよ」

「す、すいません」


 ・・・・・・・沈黙。


「店長。そう言えばサウジアラビアのモハメド君も来週からアルバイト始まるんですよね」

「そう。彼も5人のボディーガードがいるから、店の中ゴッチャゴチャになると思うよ」


 ・・・・・・・沈黙。


「もしかして、店長遊んでるんですか?」

「新宿二丁目のコンビニで、毎日オカマとゲイと酔っ払いばかり相手してれば、真面目になんかやってらんねーよ。イトー君。これオーナーへの口止め料の10万円」

「えっ、こんなに貰ってもいいんですか?」

「もしばらしたら、あんたも同罪だからね」

「もちろんですよ」


 ・・・・・・・沈黙。


「店長、また中東のボンボンが来てくれませんかね・・・」

「おしん様様だよね・・・」


 ・・・・・・・・・・


 俺は盗聴アプリを切った。


「新宿二丁目のコンビニか・・・。来週行ってみようかな・・」

「ひげ面のオカマか・・。投稿しちゃおうかな・・」


「・・・て、いうか。中村のぞみちゃん、うちの店に引き抜こうかな・・」


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