トカゲの恩返し
無料版のアプリを起動した。
アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。
相手は電話をしていない。盗聴が始まった。
全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。
・・・・・・・・・・・・・
{{あれ、盗聴アプリなのに動画が映ってる。どうしちゃったんだ・・・。あっ、そうか。スマホの持ち主がスマホで動画を撮影してるんだ・・・。}}
・・・・・・・・・・・・・
{{・・・一人用のテントか・・。森の中でのキャンプみたいだな。あっ、スマホの持ち主が現れた。若い女性だ。・・結構美人だな。彼女ってきっとキャンプ系のユーチューバーなんだな・・・。僕は初めて見るけど・・}}
・・・・・・・・・・・・・
{{・・いいよな・・、健康な人って・・・。僕も・・元気になったらソロキャンプしたいな・・}}
・・・・・・・・・・・・・
{{・・ああやって薪を割って・・、あっ、この人マッチ使わずに道具でヒバナを起こして火をつけたぞ。・・・これがカッコイイんだよな。・・でもマッチの方が軽いし女性には便利だと思うけど・・、まっ、ユーチューバーはカッコ良くないと回数稼げないからな・・・}}
・・・・・・・・・・・・・
{{あっ、やっぱ出たよコーヒー豆。あれってコーヒーグラインダーって言うのかな、わざわざ豆を挽いてフィルター通して、ゴミ増やして、そんで飲むんだよな・・。インスタントの方がゴミも出ないし簡単なのになーー・・。まっ、インスタントコーヒーですましちゃうとやっぱ絵になんないしなーー。}}
・・・・・・・・・・・・・
{{僕って身体弱いから、なるべく荷物持ちたく無いし・・。僕みたいな貧相な男がキャンプ場で心臓の薬飲むところなんて、誰も見たくはないよネーー}}
・・・・・・・・・・・・・
{{・・あれっ? ・・・テントの向こうの空になんか映ってるぞ・・。・・な、なに? ドローン? ってか、プロペラねーし。 ・・・ま、まさかUFO?・・・あの女性笑顔でコーヒー飲んでて気づいてないぞ・・・}}
・・・・・・・・・・・・・
{{・・あれって大きいの? 遠いのか近いのか分かんねーーし。・・あっ、ゆっくり降りて来る・・・。テントに隠れて見えなくなったぞ・・・。お、お姉さん。早く気づけよ・・}}
・・・・・・・・・・・・・
{{うわっ、出た!! テントの後ろに人と同じくらいの大きさの・・・・。ト、トカゲの顔した宇宙人・・。ミドリ色の顔・・。 あっ、お姉さんが振り返った。・・コーヒーカップ投げ出した。顔が引き攣ってる・・・。に、逃げろ!! あっ、お姉さん腰が抜けちゃった。・・ズルズルと後ろに下がって行く・・。聞こえないけどなんか叫んでる・・・。トカゲの宇宙人、どうすんの? なんか、ジッと見てるだけだ・・。こ、コエーーよーー。お、お姉さん、早く立ち上がれ・・。・・・腰が抜けて立ち上がれないんだ・・・。あっ、お姉さんの姿がフレームから消えた。}}
・・・・・・・・・・・・
{{・・うわっ! 宇宙人がお姉さんの方に向かって歩き出した。・・な、何か四つ足歩行になってる。・・うわっ、口から赤い舌だしてる・・。・・く、食われちゃうの、お姉さん・・? あっ、宇宙人もフレームから消えちゃった・・。ど、どうなるの・・・?}}
・・・・・・・・・・・・
{{・・ど、どうしよう・・。場所も分かんねーしな・・。}}
・・・・・・・・・・・・
{{・・・嫌な物見ちゃったなーー。まあ、僕にはどうしようもないし、盗聴アプリ切っちゃおうっと・・。・・な、何? この赤い舌っ・・・。と、トカゲの目が大写しになったんですけど・・・}}
{{な、なんかこっち見てる感じ・・。・・・ま、まさかこっちが見える訳ないよね・・・}}
{{・・・ん? なんか言ってる? 良く聞こえないんだけど・・・。わっ、トカゲの顔のアップ。・・なに? なんかこいつ手招きしてねーか?}}
{{・・なに? なんかメッセージが来たけど・・。盗聴アプリにメッセージ機能って付いてたの?}}
「もっと顔を近づけて下さい・・・」
{{うっ、嘘だろ・・}}
「私があなたの病気を治してあげます・・」
{{・・・・・・}}
「あなた、心臓の病気ですよね・・・」
{{・・はい}}
どうしてそれを・・。
「もっと顔を近づけて下さい・・・」
{{・・ど、どうしよう?}}
「ドナー待ちの状況で、もう8か月も待ってますね・・」
{{・・はい}}
なんで僕の情報しってんだ・・。
「さっ、早く顔を近づけて下さい。私もそれほど長くここにはいられません」
{{一つお願いがあります。そこに居たお姉さんはどうなりました?}}
「わかりました」
スマホが持ち上げられて、画面が動かされた。数メートル先には子供のトカゲの宇宙人が2人。母親らしい宇宙人が1人。お姉さんのお腹にはぽっかりと穴が開き、内臓が散乱している。トカゲの宇宙人たちの口の周りには彼女の血がべっとりとへばり付いていた。
{{う、うわわわわーーー}}
僕はあまりの恐怖にベッドの上にスマホを落としてしまった。
「私たちは心臓は食べません。こちらで調べたところ、彼女の心臓はあなたの心臓とベストマッチです。それをプレゼントします」
{{・・・い、いりません。そんなもの・・}}
「そうですか。でも、私はもう決めました。彼女の心臓を捨ててしまうのは勿体ないですからね・・」
{{・・・いりません。本当にそんなものいりません・・}}
俺はスマホを取り上げてスイッチを消そうとした。
{{うわっ、なに。スマホの画面からトカゲの手が出て来て腕掴まれちゃった・・}}
{{お願い。ヤメテ、ヤダヤダ。気持ち悪い・・・。ぎゃああーーー}}
・・・・・・・・・・・・
「ケンジ・・。気が付いたかい」
気が付くとベッドの上の僕を母さんが満面の笑みで見つめていた。
{{・・母さん。僕どうしたの・・}}
「さっき大きな声がしたから心配になって来てみたら、泡を吹いて倒れてたのよ。また心臓発作かと思って先生を読んじゃったの・・」
お母さんの隣を見ると、僕の担当医の加藤先生が優しい笑顔を見せていた。
「ケンジくん良かったね。やっと心臓を提供してくれるドナーが見つかったよ。一週間後に心臓の移植手術をします」
「えっ」
・・・・・・・・・・・・・
母さんが加藤先生を玄関まで見送って行った。
僕はそばにあったスマホを手に取った。
見ると盗聴アプリがまだつながっていて、そこには家の庭で撮ったトカゲの子供の写真が添付されていた。
思い出した・・。
3日前、日光浴の為に庭に出ていた僕の目の前で、愛犬のはにわ男子がトカゲの子供にちょっかいを出していた。もう少しで、はにわ男子に噛み殺ろされそうになっていたトカゲの子を、僕は助けてあげたのだった・・。
・・・・・・・・・・
「おいおいおい・・・、マークのおっさんよ・・・」




