神戸ハイボール
無料版のアプリを起動した。
アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。
相手は電話をしていない。盗聴が始まった。
全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。
・・・・・・・・・・・・・
「はい、こんにちは。バーテンダーの宮崎ユーコがお届けするユーチューブのお時間です。今日は氷を使わないハイボールをご紹介したいと思います」
{{ あ、この人ユーチューブ見てるんだ。プロのバーテンダーが作るハイボールか、面白そうだな。}}
「これから夏に向けてゴクゴクと飲める美味しいハイボールです。では早速作って行きましょう。この氷を使わないハイボールは、通称 ”神戸ハイボール”と言われています」
{{ なになに、神戸ハイボールってか、しゃれた名前だな。俺は栃木の田舎もんだから魅かれちゃうなーー。}}
「ご用意頂きますのは、ギンギンに冷やしたサントリーの角。そしてウィルキンソンの炭酸。これはペットボトルではなくてガラスの瓶のものです。190ミリ、これをまるまる1本使います。この量がとっても大事です。それから、レモンピールを香り付けに使います」
{{ レモンピール? なんじゃ、それ。ま、後からインタラカンタラで調べよう。}}
「グラスをご用意頂きます。しっかりと冷やした大き目のタンブラー。薄手のものを使いましょう。こちらに角を75ミリ注ぎます。ちょっと濃いなと思われるかも知れませんが、これが黄金比のお陰でウイスキーの甘みが引き出されてゴクゴクと飲めてしまうハイボールになるんです。そして炭酸一本。この炭酸の注ぎ方にご注目ください。なるべく早く一気に注いであげます。そのために炭酸の瓶を回します」
ドボドボドボッ・・・。
{{ ぬぬぬぬ。音だけ聞いても、一気に注いだ感じだな。作るときはグラスの大きさを確認しておかねネバなんネ~な。}}
「そして、レモンピールで香りを付けます。これで完成です。びっくりするくらい美味しいハイボールです。どうか皆さんも試してみて下さいね・・・」
・・・・・・・・・・
俺は盗聴アプリを切った。そして、その神戸ハイボールを飲むための準備をした。
数日後。
「おい、おやじ。なんで冷蔵庫にウイスキーを瓶ごと冷やしてんだよ!」
「うるせー。今夜初めての神戸ハイボールを飲むための準備だよ」
「こ、神戸ハイボール? それには、業務用のサントリー角の5リットル瓶が必要なのか?」
「うるせー。こ、コスパの為にデカいの買って来たんだよ」
・・・・・沈黙。
「5リットル瓶である必要がないなら、ちっちゃな瓶に小分けして冷やせよ。おかげでスイカが風呂場の湯船に浮かんで茹で上がってんじゃねーかよ」
「うるせー。たまにはあったかいスイカもうめーんだよ」
・・・・・沈黙。
「それに、あのデッケー空のグラスを3個も入れやがって、俺のビールも湯船で熱燗になってんじゃねーかよ」
「うるせー。ヨーロッパじゃビールは常温で飲むんだよ。それをちょっと人肌にしてやっただけじゃねーかよ」
・・・・・沈黙。
1時間後。
「おい、おやじ。例の神戸ハイボールってのはうまかったのか?」
「うるせー。冷蔵庫に入ってた納豆と餃子のお陰で、銀座発祥の神戸ハイボールが、納豆と餃子の香り漂う下町風の、水戸ハイボールと宇都宮ハイボールになっちまったじゃねーかよ。く、く、く・・」
「な、泣くなよおやじ・・」
・・・・・沈黙。
「わかったよ。俺がおやじ専用の冷蔵庫を買ってやるよ」
「ほ、ホントか」
「その代わり、俺のビールは入れさせて貰うからな・・」
「おー、それくらいお安い御用だ」
1か月後。
「おい、タカヒコ。お前、俺の業務用の角瓶飲んだだろ」
「あ、ごめん。昨日会社の友達が来たんで神戸ハイボールを飲ませてやったんだよ」
「そ、そうか。それならしょうがないな、それで評判は良かったのか?」
「ああ、スンゲー旨いって喜んでたよ」
「それは良かった」
・・・・・沈黙。
「あのー、おやじさ。友達が言ってたんだけどさ・・」
「な、何をだ?」
「あの冷蔵庫の中の他の酒の事なんだけどさ・・」
「ああ、焼酎の事か?」
「ミロのビーナス風の瓶に入ったやつ」
「ああ、パコパコ村の麦焼酎の "いいちち" だな」
「それと、もろあれの形の瓶に入ったやつ」
「ああ、パコパコ村の芋焼酎の "いいち〇こ" だな」
「それと、ミロのビーナス風の女性がピースマークしてる瓶に入ったやつ」
「タカヒコ、あれはピースマークじゃないぞ。2の意味だ」
「2?」
「同じくパコパコ村のエロ焼酎。 "2回、どう?" だ」
「エ、エロ焼酎って・・・なに?」
お酒をよく知らない青少年の為。いいちちといいち〇こは、麦焼酎 いいちこ の、そして 2回、どう?は、大分産麦焼酎 二階堂 のパロディーです。 念のため。




