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盗聴アプリ  作者: マーク・ランシット


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38/49

スタバじゃないのよフロバだよ

 無料版のアプリを起動した。

 アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。


 相手は電話をしていない。盗聴が始まった。

 全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。


 ・・・・・・・・・・・・・


「先輩、ちょっとお茶して行きませんか?」

「おお、いいね。丁度コーヒーが飲みたくなって来たところなんだ。スタバにでも行こうか」

「それが、これから行きたいのはスタバじゃなくて、フロバなんですけど・・」

「風呂場? お前、まさかゲイハードだったのか?」

「違いますよ先輩。Front and backs で略してフロバなんです」

「Front and backs ? 聞いたことないな」

「抹茶の専門店らしいです。先月、ロンドンとパリに出店して、東京は秋葉原が第一号店らしいです」

「抹茶専門店ね・・」


「ほら、あれです」

「おっ、入口に和服の美人が立ってる。いい感じだな」


「お帰りなさいませご主人さま、お二人ですか?」

「はい、二人です」

「それでは、ご主人様、どうぞこちらへ」


「ご主人様って、ここメイドカフェの一種なのかな?」

「アキバなんで、それ風にアレンジしたのかもしれませんね・・」

「12番と13番の席へお座り下さい」


「何だこれは、ラーメンの一蘭方式で仕切りのついたカウンター席か」

「でも、襖みたいでいい感じの個室になってますね」

「じゃあ、田中先輩。しばしのお別れですね」

「ああ、伊藤君。飲み終わったらまた会おう」


 ガラ。


「田中先輩。このちっちゃめの襖を開けると、話が出来ますね」

「おお、顔だけ見えてイイ感じだな」

「先輩。カウンターの前の簾を上げると、日本庭園が見えますよ」

「ホントか? おお、これはスゴイ。超イイ感じだな」


「ご主人様。ご注文はお決まりですか?」

「おお、超美人の和服メイドの登場だ」

「先輩。正面の映像は本物ではなくて液晶モニターなんですね」

「でも、本物みたいに見えるぞ」


「えー-と。僕は抹茶ラテを下さい。先輩はどうします?」

「俺は折角だから、抹茶のホットにしてみるよ」


「先輩。この抹茶ラテ、甘さ控えめで大人の味ですよ」

「・・・・・」

「先輩。どうかしたんですか?」

「シッ。静かにしろ」

「えっ?」

 

 スーーー。

 小さめの襖をさらに開ける音。


「うわっ。和服メイドが正座して、お茶を立ててる」

「・・・・・」

「先輩、緊張して顔が引き攣ってる感じだな・・・」


「どうぞ・・」


「あっ、画面下からスゴイ器に入った抹茶が出て来たぞ」


 ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。


「あっ、先輩。一気に飲み干しちゃったぞ。しかも飲んだところをテッシュで拭いてる」


「結構なお手前で・・」


「正面の和服メイドが、器を回収して画面の外に消えて行ったぞ」


 くにょくにょ。

 先輩が和菓子を頬張る音。


「先輩。どうでした?」

「うん。なんか、スゲー心が洗われた感じがする」

「小窓から見てただけですけど、本格的な茶道の世界でしたね」

「俺、これからはスタバやめて、フロバにする」

「僕も、今度は抹茶ラテやめて、抹茶のホットにします」


 ・・・・・・・・・・・


 俺は盗聴アプリを切った。


 パチパチパチ。

 パソコンを操作する音。


「あった。Front and Backs 正式名 Front and Back side of 1000 houses か・・・」


「なになに・・。茶道の三千家の二つ、表千家と裏千家がタッグを組んで世界に茶道を広げる為に作った抹茶カフェチェーン。現在、ロンドンとパリ、日本では秋葉原に第一号店が開業したばかり・・・」


「これ、意外と当たるかも知れないな・・・」

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