センサー人間
無料版のアプリを起動した。
アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。
相手は電話をしていない。盗聴が始まった。
全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。
・・・・・・・・・・・・・
「田中君、法学部の鈴木さんと付き合ってるってホント?」
「だ、誰に聞いたんだよ」
「そんなことどうでもいいの。付き合っているかどうかを知りたいの」
「・・・・・」
「やっぱり本当だったのね・・」
「本気なの?」
「・・・・」
「ねえ、本当のこと教えて・・」
「・・・ああ、本気だ、現時点で一番好きだ・・」
「・・・・・」
「分かったわ、じゃあ、さようならね・・・」
「良いのか?」
「良いも悪いもないじゃない。もう私の事、好きじゃないんでしょ?」
「いや、そんなことはない」
「どういうことよ、ズルい人ね」
「鈴木さんの事は、98.667ポイント好きなんだ」
「・・・?」
「そして、君の事は、98.666ポイント好きなんだよ」
「わずか0.001ポイント差なの?」
「ああ・・・」
{{ナニこれ。面白いことになって来たぞ}}
「わずか0.001ポイント差の好きなんてどうやって計測出来るの?」
「僕の身体には好き好きセンサーが縦横無尽に埋め込まれているんだ」
「好き好きセンサー?」
「ああ。僕の父さんが開発した特別なセンサーだ」
「田中君はそのセンサーに命じられるままに恋をしているの?」
「それだけじゃないよ」
「どういうこと?」
「好き好きセンサーは物理的なセンサーなんだ」
「・・・?」
「僕の脳には、チョメチョメセンサーという心の動きを計測する別のセンサーが埋め込まれているんだ」
「チョメチョメセンサー・・、誰が名付け親なの?」
「話の本質はそこじゃない。そのチョメチョメセンサーの数字が、君の方が低いんだよ」
「・・・?」
「まだ分からないのか。好き好きセンサーは物理的センサーって言っただろう。つまり、身体の数値は君の方が圧倒的に優れているんだよ」
「つまり・・」
「ナイスボディーってことだ・・」
「あまり嬉しくない情報ネ」
「特に父の開発したセンサーなので、胸の大きさに重点が置かれている・・」
「つまり田中君のお父さんは・・」
「胸フェチ」
「そのセンサーの一般的な信頼性がかなり失墜した感じがするけど・・」
「そんな事はない。調節用のボリュームがついてるから、対象者の好みに対応出来るんだ」
「それで、私の数値が低いというチョメチョメセンサーは、主に何を計量しているわけ?」
「例えて言うと、カワイイ仕草とか、甘えて来る感じとかに敏感に反応する」
「鈴木さんは大学一のブリッ子だから、その数値が飛びぬけてるわけね」
「そうなのかな?」
「じゃあ、試して見ようか」
「いいよ」
「田中君のことダーーイチュキ。笑ってくれたら、チズル、クニョクニョしちゃうからー-」
「す、スゴイ。チョメチョメ指数が5ポイントあがった・・」
「5ポイント?」
「うん、5ポイント」
「さっき、私は98.666ポイントじゃなかったっけ」
「いいの、いいの。合計点が100にならなくても、僕は気にしないから」
{{あんたが気にしなくても、チズルちゃんは気にするだろうが・・・}}
「・・・それで、現時点では私の方を好きになったの?」
「もちろん」
「分かれる前に聞きたいんだけど、そのチョメチョメセンサーを作ったのは誰?」
「僕のかあさん。父とは4年前に別れちゃったけど・・」
{{おれには関係ないことだけど、ひとつだけ言いたい。そもそも、好き好きセンサーとチョメチョメセンサーだかの、名前逆だろー-。夫婦仲が悪くて調整出来なかったのか知らんけど・・・}}
「田中君、いままでありがとう。さようなら。もう電話、掛けてこないでね」
{{だよねー、こんなイーカゲンなセンサーに縛られてる男なんかと付き合うのムリだよねー}}
「チズル・・、なんだよ。折角、いままでで一番好きになったのに・・・」
{{だけど、世の中にはいろんな人間がいるんだな・・、もういいや、盗聴アプリ切っちゃお・・}}
ウウウウーーー。ウウウウーーー。
{{なんだ、サイレンか?}}
「ただいま、隣国がミサイルを発射しました。防衛省の発表によれば、ミサイルはここに向かっています。着弾は2分後の予定です。みなさん、直ぐに校舎の地下に逃げて下さい」
キャーー。キャーー。ウヲーーー。
「田中君、何してんの。早く校舎の地下に逃げなくちゃダメでしょ」
「チズル、こっちに来てくれ」
「田中君、何、こんなところで服を脱いだりして・・・」
{{おい、田中。死ぬ前にHしたいんかい}}
「な、何。そのスーパーマンみたいなスーツ。胸の文字はTだけど・・」
「ミサイルは、後30秒で着弾します・・・」
「チズル。僕は飛べるんだ」
「えっ、じゃあ、ミサイルを捕まえて、どっかに持って行ってくれるの?」
「きゃっ」
「チズル。一緒に逃げよう」
ジュワッキ。
{{オイ、オイ。お前、母校を見捨てて逃げるんかー--い}}




