有馬記念
無料版のアプリを起動した。
アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。
盗聴が始まった。
全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。
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「あなたが名前を付けるプロの、福永さんですね?」
「はい。先日依頼のあった子犬のお名前の件でしょうか?」
「そうです。確か昨日が締め切りだったハズですよね」
「大変申し訳ございません。先日、テレビで取り上げられてから、山のような依頼がありまして、皆さんにお待ち頂いているところです・・」
「私はもう待てませんよ。今日の5時にショップに引き取りに行くことになってるんです。その時に名前の登録をしなければなりません。名前を付けてくれるまであなたを放しませんよ」
「いやいやいや、この後重要な要件がありまして・・・」
「それじゃあ、私のこの話は重要ではないと言う訳ですか?」
「いやいやいや、そんなことは言っていませんよ。誤解なさらないでください」
「じゃあ、私の大事な子犬の名前がどれがいいのか決めてください」
・・・・・・・・・
「どんな候補があったんでしたっけ?」
「娘が気にいってるのが、ジェラルディーナなんですけど・・」
「うーーん。私の予想では3番手かなーー」
「息子が気に入ってるのが、アリストテレスなんです・・」
「ちょっと来そうもないですねー。乗ってる人は好きなんだけどねーー」
「乗ってる人?」
「いやいやいや、気にしないでください・・」
・・・・・・・・・・・
「私の一押しが、ルメールちゃんなんですけど・・・」
「いいですねーー。私の一押しはルメール騎手が乗る馬なんですよ・・」
「キシュ?」
「アーレマー、また変な事言っちゃった・・・」
「私の犬は純血種ですよ。奇種だなんて、何てこと言うんですか」
「あーりまーー。私、そんなこと言ってないですよ。貴重な品種で貴種ですよ」
「どうして時計にばかり目をやってるんですか?」
「あーりまー、もう15時20分だ、もうすぐ始まっちゃうなーー」
・・・・・・・・・
「他にはどんな候補があるんですか?」
「ボタジェとか、ボッケリーニとか・・」
「今日は、11番12番辺りでしょうか・・・」
「ボルドとかクフーシュとかは・・・」
「それ、名前くっ付けたら2番には入るでしょうね」
・・・・・・・・・・・
「もう私の家族の候補は良いですから、あなたの方で決めてください」
「そうですか。実は一押しの名前があるんですよ」
「どんな名前でしょう?」
「イクノイックスなんていかかでしょうか?」
・・・・・・・・・
「まあ、あなたなんてハレンチなことを」
ビシッ
平手打ちの音。
「あーりまー。痛」
「日曜日のこんな昼間に、行くのセックスだなんて・・・」
「アーリマー。私、そんなこと言ってませんよ・・・。15時30分、アーリマー、出走しちゃったよーー」
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「じゃあ、なんておっしゃったの?」
「イクノイックスです」
「それは、素晴らしいですわ・・・」
「・・・・・・」
「私の名前は生野ですから、この子犬の名前はイックスちゃんにしますわ・・・」
「それは良かった。なんせ、私の本命ですから・・・」
「きっと、足の速い子になりますね・・・」
・・・・・・・・・
俺は盗聴アプリを切った。
「恐らくこのおばさん、絶対知ってておちょくってたんだよな・・・」
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「あれ?、このおじさんの予想、全部当たってんじゃん。3連単で9,740円。うひょー--」
「失敗した。盗聴アプリ切るんじゃなかった。何とかこのおじさんの電話番号調べて、次のG1の予想を盗聴しなければ・・・」




