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盗聴アプリ  作者: マーク・ランシット


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30/49

有馬記念

 無料版のアプリを起動した。

 アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。


 盗聴が始まった。

 全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。


 ・・・・・・・・・・・・・


「あなたが名前を付けるプロの、福永さんですね?」

「はい。先日依頼のあった子犬のお名前の件でしょうか?」

「そうです。確か昨日が締め切りだったハズですよね」

「大変申し訳ございません。先日、テレビで取り上げられてから、山のような依頼がありまして、皆さんにお待ち頂いているところです・・」

「私はもう待てませんよ。今日の5時にショップに引き取りに行くことになってるんです。その時に名前の登録をしなければなりません。名前を付けてくれるまであなたを放しませんよ」

「いやいやいや、この後重要な要件がありまして・・・」

「それじゃあ、私のこの話は重要ではないと言う訳ですか?」

「いやいやいや、そんなことは言っていませんよ。誤解なさらないでください」

「じゃあ、私の大事な子犬の名前がどれがいいのか決めてください」


 ・・・・・・・・・


「どんな候補があったんでしたっけ?」

「娘が気にいってるのが、ジェラルディーナなんですけど・・」

「うーーん。私の予想では3番手かなーー」


「息子が気に入ってるのが、アリストテレスなんです・・」

「ちょっと来そうもないですねー。乗ってる人は好きなんだけどねーー」

「乗ってる人?」

「いやいやいや、気にしないでください・・」


 ・・・・・・・・・・・


「私の一押しが、ルメールちゃんなんですけど・・・」

「いいですねーー。私の一押しはルメール騎手が乗る馬なんですよ・・」

「キシュ?」

「アーレマー、また変な事言っちゃった・・・」

「私の犬は純血種ですよ。奇種だなんて、何てこと言うんですか」

「あーりまーー。私、そんなこと言ってないですよ。貴重な品種で貴種ですよ」

「どうして時計にばかり目をやってるんですか?」

「あーりまー、もう15時20分だ、もうすぐ始まっちゃうなーー」


 ・・・・・・・・・


「他にはどんな候補があるんですか?」

「ボタジェとか、ボッケリーニとか・・」

「今日は、11番12番辺りでしょうか・・・」

「ボルドとかクフーシュとかは・・・」

「それ、名前くっ付けたら2番には入るでしょうね」


 ・・・・・・・・・・・


「もう私の家族の候補は良いですから、あなたの方で決めてください」

「そうですか。実は一押しの名前があるんですよ」

「どんな名前でしょう?」

「イクノイックスなんていかかでしょうか?」


 ・・・・・・・・・


「まあ、あなたなんてハレンチなことを」


 ビシッ

 平手打ちの音。


「あーりまー。痛」


「日曜日のこんな昼間に、行くのセックスだなんて・・・」


「アーリマー。私、そんなこと言ってませんよ・・・。15時30分、アーリマー、出走しちゃったよーー」


 ・・・・・・・・


「じゃあ、なんておっしゃったの?」

「イクノイックスです」

「それは、素晴らしいですわ・・・」

「・・・・・・」

「私の名前は生野いくのですから、この子犬の名前はイックスちゃんにしますわ・・・」

「それは良かった。なんせ、私の本命ですから・・・」

「きっと、足の速い子になりますね・・・」


 ・・・・・・・・・


 俺は盗聴アプリを切った。

「恐らくこのおばさん、絶対知ってておちょくってたんだよな・・・」


 ・・・・・・・・


「あれ?、このおじさんの予想、全部当たってんじゃん。3連単で9,740円。うひょー--」

「失敗した。盗聴アプリ切るんじゃなかった。何とかこのおじさんの電話番号調べて、次のG1の予想を盗聴しなければ・・・」

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