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盗聴アプリ  作者: マーク・ランシット


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マッチングアプリ

 無料版のアプリを起動した。

 アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。


 全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。 


 ・・・・・・・・・・・・・


「あっ、しのぶさんですか?、先日お会いした倉田です・・」

「まあ、倉田さん。先日はとても楽しかったです。また、お電話頂けるなんて・・、すごくうれしいです」

「・・ホントですか?、しのぶさんがあまりに美人で、もう二度と会って頂けないんじゃないかと心配でした・・」

「とんでもないです。私の方こそもっと素敵な女性ひとが出来て、もう電話を貰えないんじゃないかと心配をしていました」


 ・・・・・・


「あのー-、もしよかったら、また会えませんか?」

「もちろんです。倉田さんには直ぐにでもお会いしたいです。今度の週末はどうですか?」

「大丈夫です。・・・しのぶさん。どこか行きたいところとか、食べたいものとかありますか?」

「・・・はい、あります」

「どこですか?」

「・・・ちょっと遠いんですけど・・・一泊することに・・・なると思いますが、よろしいですか?」

「・・一泊いっぱつコースですか・・、しのぶさんも結構大胆な方ですね。もちろん、僕の方は大歓迎ですよ」

「あのう・・、あくまでも一泊いっぱくコースですので・・・」

「あっ、すいません。なんか心の声なんかが、ポロリしちゃったのかなー-」

「くすっ・・、倉田さんて面白い方なんですね」

「いやー-、印刷工場で機械しか相手にしてないので、あんまり面白いなんて言われた事ないんですよ・・」


 ・・・・・・・


「新潟のXX市なんですけど、魚とお米とお酒がすごくおいしいんです・・・」

「え、しのぶさん。お酒が好きなんですか?」

「はい。日本酒が特に・・。女同士の時なんか、飲みすぎちゃって、浴衣からふとももが・・・、しっかりしなさいって、よく言われちゃったりするんです・・・」

「・・・・ゴクっ・・・・」

「・・いまのは、心の声ですか・・?」

「・・そうかもしれませんし、もっとどす黒い本能的な物かも知れません・・・」

「・・正直な方ですね・・」


 ・・・・・・・・・・


「当日は、車で迎えにいきましょう。住所を教えて頂ければ・・・」

「いえ、西荻窪駅の北口でお願いします」

「分かりました。・・・あっ、そうだ。先日、しのぶさんが忘れたハンカチ、こんど持って行きますね・・」

「ありがとうございます。それと、私と新潟に行くこと、誰にも言わないで下さいね。まだ、私たちお付き合いするか決まった訳じゃないので・・・」

「・・大丈夫です。僕は天涯孤独の身ですし、会社の人間にも言うつもりはないですから・・・」


 ・・・・・・・・・・・


 電話は切れたが、倉田という人間の盗聴は続いている。


 ・・・・・・・・・・・


 ピンポーーン。


 ガチャ。


「どちら様ですか?」

「警視庁公安部のモノです。倉田啓介さんですね?」

「そうですが、私がなにか・・・」

「あなた、マッチングアプリで、xxしのぶと名乗る女性と新潟に行く約束をしましたね?」

「えっ、何でそれを・・・」

「彼女はXXX国のスパイです。新潟に行くと、部屋に男たちが隠れていて拉致されますよ」

「・・・まさか・・・」


 ・・・・・・・・・・・


「でも、私みたいな貧乏な印刷工が、なんで拉致されなくちゃならないんですか?」

「偽札作りです。XXX国で新たに導入した印刷機が、あなたの会社と同じ機械なんですよ」

「・・・しのぶさんに限って、そんな風には見えないんですけど・・・」

「・・・逆に質問しますが、しのぶさんが、まったく魅力のない不愛想な女性だったら、2回目のデートで、新潟までガソリン代や高速代を払ってホイホイと行く気になりますか・・?」

「・・・ホイホイって・・・・」

「・・・失礼ですが、食い付くところはそこじゃあないですよ・・・」

「・・・・・・」


 ・・・・・・・・・・


「・・・なんか、納得いかないんですけど・・・、証拠みたいなものはあるんですか?」

「・・・浴衣からはだけた太ももに対する欲望が、まだ断ち切れていない的な・・・・」

「・・チゲーし、それ絶対、チゲーし・・・」

「・・倉田さん。あまり熱くならないでください・・・」

「・・なんなんですか、人をサカリのついたディープ・インパクトみたいに言っといて・・・」

「・・チゲーし、それ絶対、チゲーし・・、競馬ファン、全員敵に回すつもりですか!?」

「・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・・・


「一回目のデートで、彼女ハンカチ忘れたでしょ?」

「・・・はい。・・・でも・・」

「あれは、もう一度会うための作戦なんですよ」

「・・・・・・・」

「そのハンカチ、見せて貰えますか?」


 ・・・・・・・・・・・


「これです」

「裏側のタグを見て下さい」

「MADE IN NORTH XXXXX」

「わかりますか?」

「・・・はい・・」

「ラストクエスチョンです」

「はい」

「週末、新潟に行きますか?」

「いーえ、行きません」

「よくぞ、煩悩ぼんのうを断ち切ってくれましたね」

「公安の皆さんのお陰です」

「・・・・・・」

「でも、ここまでわかっていて、なぜあいつらを逮捕しないのですか?」

「残念ながら、日本にはスパイ防止法がないので、私たちには逮捕権がないのです・・・」

「この国は、根本から腐ってるんですね・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・・・


 私は、アプリを切った。

 実は、私もマッチングアプリで知り合った女性から、1泊旅行に誘われていた。

 56歳バツイチの工芸官{紙幣や印紙などのデザインをし、印刷するための原版を作る人}。

 彼女が忘れて行ったハンカチのタグを見た。


 MADE IN NORTH XXXXX・・・・・。


 盗聴アプリよありがとう。マッチングアプリよさようなら。

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