感謝の気持ち
有料版のアプリを起動した。
指定した電話番号につながった。相手は電話をしていない。
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「小父さんこんにちは。今日は父の為に、わざわざ来て下さってありがとうございます」
「ああ、アキトくんだね。ずいぶん大きくなったね。いま何歳かな?」
「17になりました」
「17歳か・・・。じゃあ、高校二年生か・・・」
「・・・・」
「・・ん・・、小父さん、何か計算ミスしたかな・・・?」
「・・あの・・、病室にご案内します・・・」
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「あー-、ウエキさん。どーも、福岡からわざわざ来て貰ってすみませんね・・、ハーハー・・」
「いやー、わたしらこそ、あれだけお世話になってて、お見舞いにも来ないですいませんでした・・」
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「実は、ハー、ハー・・・、お二人に、・・ハー、ハー・・、お願いがありまして・・・」
「なんでしょうか?」
「ハー、ハー・・、息子のアキトの事なんですが・・」
「はい」
「お二人に、未成年後見人になって頂けないかと・・・」
「えっ、私たちにですか・・、まっ、先代には大変お世話になりましたし、私たちでお役に立てることであればそうさせていただくことは、やぶさかではないですが・・・」
「・・あ、ありがとうございます。・・ハー、ハー・・、それでは詳しい事は、こちらの弁護士さんと話して下さい。・・ハー、ハー・・」
「じゃあ、別室で・・・」
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「初めまして、ヘタカ弁護士事務所の黒木と申します」
「・・・・・」
「簡単に状況だけご説明させて頂きますと、お二人が修行された、銀座うなぎ屋ドン兵衛は、ご主人のご病気で現在閉店中です。担当医のお話では、あまり長くはないとのことです」
「相続人は、長男のアキトくん一人ですが、まだ17歳のため、未成年者の監護養育,財産管理,契約等の法律行為などを行う、未成年後見人が必要となります・・」
「奥さんはどうしたんですか?」
「お二人が福岡に引っ越された10年前に、別の方と結婚されてます」
・・・・・・
「他に身寄りは・・?」
「いらっしゃいません」
・・・・・
「アキトくんを福岡の家に引き取るという事ですか・・?」
「いえ、アキトくんは高校を辞めて、別の料理店で修業をしています。やって頂くのは、財産管理等の法律行為だけですね」
「・・つまり、実質的には名前を貸すだけですか?」
「その通りです」
「それぐらいであれば、大丈夫です・・」
・・・・・・
コツコツコツ。
病院を出て、外を歩く二人の靴音。
「あんた、来る前に調べたんだけど、あのうなぎ屋ドン兵衛、銀座の一等地にあるでしょ。土地代だけでざっと2億円以上するみたいよ・・」
「・・ホ、ホントか・・」
「これだけあれば、私たちの借金返して、田舎でのんびり暮らせるわよ・・」
「博多の店が流行り病で潰れた時は、心中するつもりでいたからな・・」
「やっと、私たちにも運が向いて来たわね・・」
・・・・・・・・・
私はアプリを終了した。
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3か月後、うなぎ屋ドン兵衛の主人、武田鉄太郎が亡くなり、ウエキ夫妻は晴れてアキトくんの未成年後見人となった。
東京某所、xx不動産。
「あー、ウエキ様。お待ちしておりました。こちらにどうぞ・・」
「あのー、お願いしていた銀座うなぎ屋ドン兵衛跡地の売却の件なんですが・・・」
「はい、調査しましたところ、2億5千万で買い手が見つかりました」
「に、におくごせんまん・・・」
「必要書類と印鑑証明はお持ちですか?」
「も、もちろんです」
「はい、確かに・・・。こちらでしばらくお待ち頂けますか?」
ガチャ。扉を開けて出て行く音。
・・・・・・・・・・
「あんた、これで借金返してのんびり出来るね・・・」
「今の仕事は辞めて、田舎でのんびり・・・・」
・・・・・・
「毎日、パチンコってかー--」
「よっしゃー-」
ガチャ。
扉を開けて入って来る音。
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「ウエキ様。誠に残念なのですが、たった今、未成年後見監督人の方から電話があり、この契約は不成立となりました」
「み、未成年後見・・かんとくにん・・?」
「はい。未成年者の後見人が違法な事をしないか監督する方です」
「それって、誰なんですか?」
「ヘタカ弁護士事務所の黒木様です」
「う、うっそー-」
・・・・・・・・・
私は盗聴アプリを切った。
私はヘタカ弁護士事務所の黒木ショータロー。
依頼者が、ウエキ夫妻を未成年後見人に指名したいと言って来た時から、彼らの現状を調べ上げた。
10年前に博多に店を構えた頃は、さすが銀座の店で修業したことはあってかなりの客を集めていた。
ケチがついたのは、夫婦そろってのパチンコ好き。
仕入れも仕込みもサボった為、味は落ち、流行病が追い打ちを掛けて、昨年8月に倒産。
現在は別の店で働いて、何とか繋いでいる状態だった。
二人には説明していなかったが、未成年後見監督人には弁護士事務所という法人もなることが出来る。
相続人のアキトくんが法律上の成人である18歳になるのは、あと1月後。
アキトくんも相続税を払う為に、あの店は売却しなければならない。
生前。
依頼者の武田鉄太郎氏、アキトくん本人とも話し合い、残った財産をどうするか決めた。
ほとんどをアキトくんの将来の為に貯蓄し、500万円をウエキ夫婦にあげることにした。
この金額では、二人にしてみれば、ただの焼け石に水かもしれないけれど・・・・。
私のこれまでの経験からして・・・。
武田鉄太郎氏が、事情を知りながら、なぜこの二人を未成年後見人に指名したのかという理由に気付き、この500万にこころから感謝する事が出来るなら、・・・・・二人はきっと立ち直る事が出来るだろう・・・。




