トラベル・ナース
無料版のアプリを起動した。
アプリ側が勝手に選択した電話番号につながった。相手の電話番号は表示されない。
相手は電話をしていない。盗聴が始まった。
全く知らない他人の会話。胸が高鳴る。
・・・・・・・・・・・・・
「いますね・・・」
「ホ、ホントに・・?」
・・・・・
「この部屋に入った途端、空気がどんよりと重くなりました」
「やっぱり・・・」
「除霊しないと、マズイ事になりますよ」
「・・・・・」
・・・・・
「除霊の前に、まずあなたを霊視してみましょう。その椅子に座って下さい」
「はい・・」
・・・・・
「・・・・」
「・・・・」
「・・・うっ・・・」
・・・・・
「・・・あのー、どうかしたんですか?」
「黙って!」
「・・・・」
「・・・うっ・・・」
「・・・・」
「・・・うっ・・・」
・・・・・・
「ト、トイレをお借りしてもいいですか?」
「は、はい。こっちです・・・」
・・・・・
「フー、助かりました・・」
「センセー、今のは霊と関係あるんですか?」
「・・はい。非常に深い関係があります」
「そ、そうなんですか・・。ちょっと怖いですね・・・」
・・・・・・
「・・・うっ・・・」
「センセー・・またですか?」
「黙って!」
「・・・・」
・・・・・・・
「・・・どうして、彼女に憑依した・・?」
「・・・・」
「・・・なるほど・・・」
「・・・・」
「・・・お前には同情するが、彼女にはなんの罪もない。早く解放してあげなさい」
「・・・・」
「・・・うっ・・・」
「・・・・」
「・・・うっ・・・」
「・・・・センセー、顔が真っ青ですよ・・」
「・・ト、トイレをお借りします・・・」
・・・・・・
「・・・フーー-・・・」
「センセー、大丈夫ですか?」
・・・・・
「・・もう、大丈夫ですよ・・」
「・・・何がでしょう?」
「たった今、トイレで除霊して、排水口に流して置きました」
「じゃあ、もうこの部屋には霊は居ないんですね・・」
「その通りです」
「良かった。ありがとうございます」
・・・・沈黙。
「・・通称、トイレの神様という悪霊です・・」
「はいっ?」
「あなたにトリツイテた、霊ですよ」
「・・トイレの神様・・・?」
「あなた、ずっと便秘に苦しんで来たでしょう?」
「はい・・、でもどうして分かるんですか?」
「あの霊は、下水管をつたって便秘の人間に憑依します」
「・・・・?」
「トリツカレタ人間は、便秘が軟便に変化します・・」
「はい。この1週間、便秘が解消しました」
「先程、私にもトリツイテ、腹痛を引き起こしました」
・・・・・
「と、いう事は、センセーも便秘症だったんですか?」
「・・・恥ずかしながら・・・」
・・・・・
「この後、私はどうなるんですか?」
「・・あの霊があなたの腸を改善してくれたので、便秘症はもう大丈夫でしょう」
「・・と、いう事は、あの霊は良い霊だったんですね?」
「長い間トリツカレルと、今度は軟便症に苦しめられますが、1週間程度なら良い霊という事になりますね」
・・・・・・
「・・・除霊する必要は・・なかった・・?」
「・・・あなた、もしかして軟便症を軽く見ているんじゃないでしょうね?」
「いえ、決してそう言うわけでは・・・」
「何度も、何度も、トイレに行かなければなりません。外出もままならないし、会社での業務にも支障をキタすんですよ」
「はい、料金はちゃんとお支払いします・・・」
・・・・・・・・・・
「ところで、この霊は海外にもいるんですか?」
「はい、海外では、トラベル・ナースと呼ばれています」
「排水管を旅して、便秘症を直すからですか・・・?」
・・・・・・
私はアプリを切った。
背筋がゾクリとした。
このトラベル・ナース、私の周りにもウジャウジャいるのだろうか・・・?




