ハラスメントの代償
ガチャ。
ドアの開く音。
「スズキ・シオリさん。どうぞお入りください」
「失礼します」
「そこにお座りください」
「私は、総務課の吉沢です。2人だけの会話は禁止されていますので、ミムラにも同席して貰います」
「・・・・」
「お出で頂いたのは、他でもなく、あなたが労働局に直接相談されたセクハラの件です・・・」
「・・・・」
・・・・沈黙。
「済んでしまった事ですから、今さらなんですが、労務局に相談される前に、出来ればこちらに連絡して頂けてれば、事が大きくならずに済んだのかなと思うのですが・・、その辺の経緯は如何でしょうか?」
「会社の相談窓口には5回メールしてアポを取ろうとしましたが、完全に無視されました」
「それは、大変失礼しました。恐らく、担当の職員が見落としてしまったのではないかと思います・・・」
「5回もですか?」
「最近、この様な案件が頻発してまして、対応の順番が遅くなってしまったのではないかと・・・」
「メールを出し始めたのは2か月前からですよ!」
・・・・・沈黙。
「電話でなら、もうちょっと早い対応が出来たと思いますが・・・」
「電話なら10回掛けました。他で忙しいので、後から掛け直してくれと言われました」
「・・・・」
「10回目の時に、みんな仕事で忙しいんだから、個人的な事で電話して来るなと言われました」
・・・・沈黙。
「誰がそんなこと言ったんですか?」
「吉沢さん、あなたです」
・・・・沈黙。
「そんなこと言った覚えはないんですが・・、思い違いではないですか?」
「録音してあります。最初に名前を名乗りました、間違いなくあなたです」
「もしかして・・」
「証拠として提出してあります」
・・・・沈黙。
「ちょっと、失礼します・・・」
・・・・・・・・・
「吉沢が失礼な事をしてしまった様で・・、私は課長の田上です」
「・・・・」
「スズキさん。率直に聞きますが、労務局への申請を取り消して貰う為の条件を教えてくれませんか?」
「こちらに聞く前に、そちらからの条件を教えて下さい」
・・・・沈黙。
「上司と相談しなければこちらの提案は提示出来ないですね・・」
「今日の話は、それだけですか? なければ失礼します」
「ちょ、ちょっと待ってください。明日の午後には、そちらの側の弁護士との面談が始まります。その前に、解決して置きたいんですがね・・・」
「それならば、そちらの条件を先に提示して下さい」
・・・・沈黙。
「分かりました。その前に、録音とかしていないか確認させて下さい」
「どうぞ」
「ちょっとミムラ君。スズキさんが、録音していないか、スマホとかをチェックしてくれ」
ゴソゴソ、ガサガサ。
「すいませんが、ちょっとカラダに触りますよ」
・・・・・・
「課長、チェックしました。録音はしてません」
・・・・沈黙。
「ミムラ君。あの書類を・・・」
「はい」
「これが、会社側からの提案書です・・」
「ちょっと拝見します」
・・・・沈黙。
「慰労金として50万円・・・だけ、ですか・・・」
「・・・会社として出せる、精一杯の金額です」
「永井課長からの謝罪がありませんね?」
「彼からは、今後はこの様な問題は絶対に起こさないと、総務部長宛てに進退伺い書が提出されています。あなたへのセクハラの事実は認めている訳ですから、それで了承して貰えませんか・・・」
「そのコピーを頂けませんか?」
「いや、それは個人情報なんで、他人に見せる訳にはいかない」
・・・・沈黙。
「私の就業継続保証についての明記がありませんね・・・」
「就業継続保証って・・、当然、これまで通り働いて頂きますよ。何も変わる訳ないじゃないですか・・・」
「それを、保証する文書を頂けませんか・・」
・・・・沈黙。
「分かりました。直ぐに用意しましょう」
「・・・・・」
「これで、労務局への申請は取り下げてくれますね・・・」
「書類を頂いた上で、明日の朝ご返事します・・・」
ガチャ。
扉を開けて出て行く音。
・・・・・・
ガチャ。
扉を開けて、誰かが入って来る音。
「吉沢君、話は聞いていたね。直ぐに書類を作成してくれ」
「はい・・・」
「どうした?」
「あの・・、朝の打ち合わせでは、難癖をつけて直ぐに辞めさせるとおっしゃってましたよね・・・」
「上手く言い逃れが出来る様に、文章を作成してくれ。なんなら、私が過去に使ったテンプレートを送っておこう・・」
「ありがとうございます。直ぐに取り掛かります」
・・・・・・・・
ルー、ルー、ルー。 ガチャ。
「あっ、スズキさん。総務課のミムラです。今日はお疲れさまでした」
「ミムラさんもお疲れさまでした」
「今日の会話の録音、さっき送りました」
「助かります」
「それと、頼まれてた、社員の携帯番号のリストも送りましたからね・・」
「ありがとうございます。盗聴アプリを使って、会社のハラスメントの実態を録音することにします」
「あのう、私もお手伝いしましょうか?」
「ありがとうございます。でも、ミムラさんがトラブルに巻き込まれると大変なので、知り合いに頼むことにします」
「もしかして、スズキさんの義理のお父さんの事ですか?」
「・・・知ってたんですか、昨年結婚した主人の父が、反社の組長だってこと・・・」
「わたし、社員の情報を集めるのが趣味なんで・・・」
「・・・・」
「スズキさん、ひとつだけお願いがあるんですが・・・」
「なんですか?」
「田上課長の小指一本、切り落としてくれませんか・・・」




