第2話:冒険者登録は空いてるカウンターで
ー冒険者ギルドー
「地図によると、ここの建物だな。でっけえ」
三階建ての建物を眺めている俺の装いは、ジャージではなく白いシャツに青いズボン、茶色いベルト。あとアクセントに短めの黒いマントをつけている。靴はスニーカーからブーツになった。
ジャージとスニーカー、あとエロ本は服屋がサービスでつけてくれた革袋の中に入れてある。
店員のお勧めで自分が気に入ったもの、そして所持金を考えるとこれが一番いいものだった。
※服を選ぶ際の描写は野郎の着替えに需要がなさそうなのでカットしました。
「失礼しまーす」
中に入ると、ウェイトレスの制服を着た同い年くらいの女の人が声をかけてくれた。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。お食事ですか?お食事でしたらあいてる席にご案内しますね」
「えっと、食事じゃなくて、身分証の発行をお願いしたいんですけど……」
「あ、もしかして、異世界出身の方ですか?身分証の発行でしたら、奥の受付カウンターの方にお願いします」
「わかりました」
異世界人の存在がここまで周知されてると、特別感が薄れてくる。
この人たちにとって異世界人とは、たまにやって来る観光客のような扱いなのだろうか?
なにはともあれ、言うとおりに受付カウンターに並ぼうと複数あるカウンターを見ると、一つだけやけに列の長いカウンターがあるのが見えた。
そこにいる受付さんは……美人だった。そして、並んでいる人間は全員男。それだけで、行列の理由を理解した。
「ふっ、男はみんな、考えることは同じだな」
俺はカウンターの美人で巨乳なお姉さんに未練を感じつつ、その隣のメガネをかけた真面目そうなマッシュルームカットの男性が座っている受付へと向かった。
そして、荷物をわきに置いたあと、用意されている椅子へ座る。
「おや、初めて見る顔ですね。冒険者登録ですか?」
メガネをかけた受付の男性は、見た目通り真面目で丁寧な対応をしてくれた。
「いや、冒険者にはなりたいけど、まず身分証の発行かな?冒険者登録はあとでいいや」
「ああ、異世界出身の方ですね?異世界出身でもない限り、大体の人が身分証は持ってますから。冒険者になりたいのでしたら、冒険者になった時に発行される冒険者カードが身分証になりますので、手っ取り早く済ませましょう」
「それじゃあ、冒険者登録をお願いします」
冒険者カードは、運転免許書とか名刺と同じ扱いでいいのだろうか?まあ、冒険者登録で身分が証明されるのならさっさと済ませてしまおう。
「登録する前に冒険者という仕事の概要について説明しますね。冒険者とは、市民や国から依頼された人に害のある怪物、魔物と呼称される存在を倒すことを生業とする者たちです。他にも草むしりや家の中の掃除などの雑用も業務範囲内ですので、まあ何でも屋ですね」
「おお、イメージ通り」
「知恵を持った魔物の軍団、魔王軍に所属している魔物との戦いも冒険者の仕事です。話を聞いてわかるとおり、命がけの仕事になりますが、本当に冒険者登録をなさいますか?」
「お願いします!」
話を聞いて少し恐怖心がわいてきてしまったが、それは俺の中にある好奇心を覆すほどではない。手に汗握る魔物との戦い。他の冒険者仲間との共闘。それらを体験せず異世界を過ごすなど、転生し損だ。
「異世界の方はなぜ進んで命を懸けるような真似を……神様に頼まれたとはいえ……おっと、失礼しました。では少々お待ちください」
受付の男性は、カウンターの奥にある扉に入って、すぐにまた戻ってきた。水晶玉をもって。
……占いでもやるのか?
「その水晶で占いでもやるんですか?」
「んなわけないでしょう!」
真面目そうな見た目の割に勢いのあるノリツッコミ……こいつ、デキる!
「この水晶玉は、触れた人間の能力をランク付けして、その人間に向いている職業を選出してくれる素晴らしいアイテムなのです。ちなみに、職業とは戦闘における役割のことです。職業によってこの先獲得できる特殊能力の構成が変わってきます。まあ、まずは試しに触れてください」
「わかりました」
言われたとおり水晶玉に触れると、その水晶が輝きを放つ。
そして、水晶玉からホログラムのような形式で四角い画面が表示され、俺の能力が表示された。
サクライ・トウカ
力C 速度C 防御力D 耐久力C 知力B 技術C 魔力E
以下の職種から職業を選択してください
↓
上級職:【狂戦士】
下級職:【調教師】【戦士】
最下級職:【女遊び人】
「へ~、おいちょっと待て。女遊び人ってなんだ!?」
賢者に転職できるやつとはちょっと違うぞ!?
そんな俺の疑問に、受付の男性は正直に答えてくれた。
「女遊び人は、魅了の特殊能力を獲得できる職業ですね。この職業に適正のある人間は女性にモテたり、恥もなくヒモになれる人間だったり……もしかしてお客様、かなりのろくでなし?」
その言葉に、俺は思わず言い返さずにはいられなかった。
ちゃんと学生をしていた時も恋愛など縁はなく、不登校になってからは母親以外の異性とまともに話したことのない俺が、モテるだと?
「はあ!?美人の受付嬢のところに並びたかったけど、対面でお話しする勇気がなくて、しかたな~く真面目そうな受付男性で我慢したシャイボーイの俺が?女にもてる?ヒモになれる?寝言は寝て言え!こちとら彼女いない歴=年齢じゃボケ!」
「そんな理由でこっち来たんかい!?おかしいとは思ったんだよ!明らかに隣のエリーナさんに見惚れてたのに、俺みたいな地味な奴のとこに来るんだから!」
隣の美人受付嬢の名前はエリーナさんというのか。いいことを聞いた。
そして、俺がこの男を……正確にはエリーナさんの隣を選んだのはそれだけが理由ではない。
「隣のカウンターを選ぶことで、俺はわざわざ列に並ばずとも今そこで並んでいる野郎どもとは別の角度でエリーナさんを眺めることができるだろ!」
俺の発言に、現在エリーナさんのカウンターに並んでいる男たちはその手があったか!?みたいな顔になった。
列は約半分の長さになり、その半分はこっちに来た。
そして、目の前の受付男性のあせる声。
「おい待てやめろ!男どもがその手があったかみたいな顔をしてるだろうが!?最後尾の奴からどんどんこっちのカウンターの流れ込んできてるだろうが!?俺の仕事が増えるだろうが!?」
真面目そうな見た目とは裏腹に、仕事は嫌いらしい。
本当に、人は見かけによらないな。
「そんな攻めるようなこと言うなよ。エリーナさん、大勢の男性相手に仕事して疲れてるだろうし、そんな彼女の疲れを肩代わりできたと思えば……」
何とか男をなだめようと声をかけたがこの男、ただでさえ真面目そうな顔を表情に真剣みを出してさらに真面目そうにした後、とんでもないことを言いやがった。
「汝、やらないで済む仕事はやらずに誰かに任せるべし。俺が所属している宗教団体の教えの一つだ」
「ぜってえろくでもないだろその宗教!?」
何を信じるかは個人の自由だが、俺は絶対コイツと同じ宗教には入るまいと心に誓った。
「全く、誰かさんのせいで後がつかえてるんだ。さっさと職業を決めてくれ。あと、タメ口は許してくれ。お前を相手に敬語なんて疲れる」
「お前お客様相手に……まあいいや、そっちの方が気が楽だし。そのかわり、俺もタメ口で接するからな!」
失礼な口の利き方だが、そっちの方が俺たちにはあっている気がした。というか、コイツ見た目よりやんちゃだな。
なぜかは分からないが、コイツとは長い付き合いになりそうな気がする。
この数分で、俺たちはタメ口で話せる仲になった。
「なあ、この上級職の【狂戦士】ってどんな職業なんだ?他の職業のことも教えてくれよ」
「あー、【狂戦士】はおすすめできないな。戦闘になると理性を失う代わりに身体能力が大幅に上昇する職業だが、敵味方関係なく暴れる上に体力が尽きるまで止まらない」
「なしの方向で」
即断した。そんなリスキーな職業ごめんだ。
「それがいい。このギルドにはすでに【狂戦士】がいるんだが、そいつは敵味方関係なく暴れまくるからパーティーも組めずに独りで依頼を受けて、力尽きたら通りすがりの冒険者にギルドまで運んでもらうような生活を送ってるよ」
残りの二つも説明を聞いてみたが、【戦士】は多少身体能力が上がる特殊能力と、武器の扱いがうまくなる特殊能力が獲得できるようになるらしい。
たくさんの武器をそこそこの水準で扱うことができること以外は普通で、この職業の人間は器用貧乏になるやつが多いそうだ。
【調教師】は、動物や魔物を従わせたり、協力してもらったり、意思疎通を図ったりなどが可能になるらしい。
人との交流が苦手だったり、動物になつかれやすい人が適性を持つ職業らしい。
適性を持つ条件が心に来るものはあるが、かなり便利そうな印象を受けた。
「じゃあ、【調教師】にするか」
俺は水晶から映し出される画面の、【調教師】の文字をタップした。
すると、画面を移すのをやめた水晶からカードがとび出してきた!?
「おっと!」
慌ててキャッチしたそのカードをのぞいてみると、俺の個人情報がばっちり書かれていた。
サクライ・トウカ Lv1 【調教師】
力C 速度C 防御力D 耐久力C 知力B 技術C 魔力E
所持金―― 所持品――
特殊能力:[調教][以心伝心]
水晶からカードが作られるとか、この水晶何でできてるんだ?
魔道具的なあれか?不思議だ。
なんか話が進まなくてごめんなさい。けど話進めるのって難しくないですか!?