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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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9.まさかの新発見


「あー、足がぱんぱん、しにそう」


 ひとまず満足するほど水を飲んだあと、ミレスを抱えたまま水溜りに膝丈ほどを沈めた。ひんやりして気持ちいい。

 ここで問題となるのは、ミレスを水につけても腐敗しないかということ。せっかくの命綱であり清潔の生命線であるこの水域が汚染されるのだけは避けたい。


 とりあえず、別の場所で試してみよう。


 重い腰を上げ、水辺近くの砂利にそっとミレスを下ろしてみる。両足が地につく。その周囲に特に変化はない。

 これはもしやいけるのでは?

 そう思い、ミレスから両手を離したときだった。


「Oh……」


 ミレスの足元からじわりと黒が広がっていく。思わずミレスを抱え上げた。

 石はまるで焼け焦げたように元の色を失い、周囲にはぼんやりと黒い靄がかかっている。


 この子が一体何をしたというの神様。こんなんじゃまともに地面を歩けたもんじゃないわ。

 

 初めて出会ったときのことを思い出し、思わず溜め息を吐いた。これまでどうやって生きてきたんだろうか。歩けば周囲は腐蝕し、触れればグロテスクな痣を生み。それ故か呪いだなんだと忌み嫌われてきたのか。

 何とも悲しすぎる。


「でも、まあ、これなら何とか」


 ミレスと契約(仮)してからは呪い的なものは軽減されているようだし、なぜか私と接触している間は影響がないみたいだからとりあえずどうにかなりそう。


 ミレスを再び抱えて水溜りに戻る。そっと片足を水につけてみても何も起きない。そのまま膝下辺りの水深まで進んで、屈んでみる。ミレスの足首まで水に浸かっていても特に変化はなかった。

 とりあえず私がミレスを抱っこしていれば問題ないようだ。


「冷たい? 大丈夫?」


 腰を下ろせばちょうど半身浴のような状態になった。ミレスは胸元まで浸かっている。

 ふるふると小さく首を振るミレス。可愛いな。


 そういえば、着ている布濡らしちゃった。私も洗うつもりで服のまま入ってるけど。


「このまま洗ってもいい?」


 ミレスは大きな瞳をぱちぱちと瞬かせて、少しの間のあとに、こくりと頷いた。


 何となく、だけど。こちらの言葉が通じるまでのラグがあるんじゃないかと思っていたけど、もしかしたら自分に向けた言葉だと思わなくて一瞬止まっちゃうのかな。あの男たちの様子からして酷い扱いを受けていたようだし。まともなコミュニケーションなんて取れたことないんだろうな。

 いつからそうなったんだろう。生まれつきそんな体質だったから忌み子として捨てられた? 生贄か何かで負の感情からその力を身につけた? 奴らの口振りからは前者に近いような気がするけど。


 そんなことを考えながらミレスの髪の毛を洗っていった。鳥の巣のように絡み合った髪の毛も、少しずつ溶かしながら水洗いするだけでも大分マシになった。

 特に拒否されないのをいいことに、次は手足を洗う。こっちも相当汚れていたのかすぐに周囲の水が濁っていった。


 ついでに四肢に繋がる金属製のような輪っかが外れないか試してみたけど、びくともしなかった。あんな力を持っているミレスがそのままにしているくらいだし、さすがに無理か。

 じっくり観察して分かったことだけど、輪っかにはそれぞれ文字のようなものがぐるりと刻まれていて、封印や力の制御といった枷のようだった。普通の人間の力ではどうもできそうにない。


 次に本人に許可を得て、着ていた布も可能な限り洗った。一日やそこらでついたものじゃないこびりついた汚れはどうにもならないけど、少しはマシだと思う。


 幼児とは言えさすがに裸は申し訳ないので、布が乾くまでは私の上着を着てもらう。その時に一緒に顔や身体の汚れを落とそうとして驚いた。

 長い髪の毛に隠れて見えなかったけど、顔には光を失った右眼の周囲に、四肢と身体には疎らにケロイドのような膨隆した痣があった。突き破りそうなほどに活発に動いていたグロテスクな血管はいつの間にか鳴りを潜め、妙な痣だけが残っている私の左手と似ている。活発に動いているとき特に痛みも何も感じなかったけど、これが全身を巡っていたらきっと気分はよくない。


 今が何歳だか分からないけど、この歳にして壮絶な人生を送ってきたんだな。


 と、悲観的な気分になっていたら、背中を洗おうとした手に何かが触れて思考が止まった。


「ん……?」


 肌より硬い、石よりは柔らかい何かがある。


「えっ」


 思わずぐるりとミレスをひっくり返すと、その背にあったのは──


「──羽?」


 黒い羽だった。コウモリのような一対の羽。小さく左右差のあるそれは、どう見ても背中から生えている。髪の毛のボリュームが多くて気がつかなかった。身につけていた布もローブみたいになっていたし、多少膨らみがあっても気に留めなかったんだと思うけど。


「ミレスちゃん、もしや人間でない……?」


「……ん」


 小さく頷く幼女。心なしか落ち込んでいるように見える。


「なるほどなぁ」


 これでホラー展開はほぼ消えたと思っていいでしょうか。これはどう見てもファンタジー路線でしょ。まあ、ゲームの中でも異世界転移でも、元の世界とは違う世界ってことに変わりはない。あんな能力を見せられたんだしもはや人間でも人外でも関係ないよね。


「何の種族なの? 吸血鬼? サキュバス? ひっくるめて魔族?」


「……」


 無言なのは言いたくないのか自分でも分からないのか。何となく後者の気がするけど。できれば魔族がいいなあ。慢性貧血気味で血をあげてしまったら自分が倒れてしまいそうだし、渡せる精力なんてものはない。

 あと人間じゃないということは、幼くして生贄や供物として捧げられた線はなくなったかも。それから私より年上説も浮上した。

 少しだけ惜しみつつも、この水浴びイベントで心の片隅でほんの少しだけ懸念してたショタの線は消えたことには感謝する。

 今更性別が違ったところでミレスへの気持ちや対応が変わるわけでもないんだけど、ほら、やっぱりモチベーションというか、何というか。見た目だけでも幼女だと嬉しさもひとしおだよね。


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