31.お礼と言う名の真実
評価やブックマークありがとうございます…!とてもモチベーションが上がります!
あと今更ながら誤字報告ありがとうございます…!(昨日気がつきました…)
「……っぅ」
地面に手と膝をつき必死に吐き気と眩暈と戦う。
きもちわるい。
「ぁ……ぅぇっ」
屋敷を出る前に食べた物が大分消化していたみたいでよかった。吐き気はするけど内容物までは出て来なさそう。
どれだけ叫んでも止まってくれなかったのに走りを止めたということは、問題点は近くなんだろうけど、そんな気力は残っていない。
黒い枝が背中を摩ってくれているけど感謝の意を伝えることすらできない。今までで一番グロッキーだ。
「……ひぃ」
「……ッは、ぁ」
「……ごめ、な、さ」
謝る幼女にもまともに答えることができず、とりあえずその頭を軽く撫でた。
今度は事前に知らせてほしい。
というか、何だったんだあれは。触れる黒い枝は便利だとは思っていたけど、そんな使い方があるとは。
荷物持ちとか索敵機能は分かるよ。私が困っているところを手伝うというか補ってくれる能力だし。
でもさっきは疲れていただけで具体的な対策を思い浮かんでいた訳ではなかったのに、あんなことになるなんて。ミレスの感情だけでなく思考も育っているということかな。黒い枝を足代わりにするなんてよく思いつくね。
「……ふぅ」
しばらくすると大分気分も良くなったので周りを確認してみる。ランプのない状態では真っ暗で何も見えないけど、さっきまでのジェットコースターの随伴症状とは違う気分の悪さがあった。むわっとした温風のような、そしてじっとりと嫌な汗を掻くような感じはいつぞやの洞窟と似ている。
傍らに立っていた幼女を抱え、ランプで先を照らす。元々灯りがないから暗いのと、多分魔気が充満しているんだなと感じた。
幼女が指差す方向へ足を踏み出す。抵抗感や気分不良は残るものの、進めないというほどではない。
グルイメアでの異形の危獣やヒスタルフの林の祭壇のような、身体が拒否している感覚はあるけど、まだマシだ。ここに来るまでの危獣の数や影響なんかを考えると、大したことない訳はないんだけど。
それもこれも幼女のお陰か、魔気に耐性がついたお陰か。
ゆっくりながらも前に進むと、ランプが照らす先にきらきらと光る鉱石が見えた。これが精霊石とか資源となる鉱石なのか、宝石類なのか、とにかく綺麗なものだなと思いながら歩く。
そして数メートル進んだ先、石や砂の壁が立ちはだかった。どうやら行き止まり──というより鉱山作業の最深部のようだった。辺りにピッケルのようなものや採掘で使いそうなグッズが散らばっている。
「この、さき」
「これ以上進めないけど……」
「……ひぃ、て」
「手?」
幼女を抱いているのとは違う手を見る。初めて会った時のように前方に手を伸ばすのかと思いきや、どうやら違うらしい。
持っていたランプを肘に掛ける。示されるままに幼女の前に手を出すと、小さな幼女の手が重なった。思わず軽く握ってしまう。小さくて柔らかい。可愛い。
そんな不純なことを考えていると、幼女から“何か”が伝わってくる。久しぶりの感覚に感動すら覚えていると、幼女は残った片手を岩の壁に向かって伸ばした。凄くあれだ、契約者と従者っぽい。
ファンタジー要素に二度目の感動をしていると、周囲に黒い靄が集まってきた。ランプの明かりが視線より低いせいで全ては見えないものの、いつものように幼女が黒い霧を吸収しているのだろうということは分かった。
今までと違っているのは私が一緒にいるということ。そして幼女の小さな手から伝わっては身体を巡り、幼女の手へ戻る“何か”。
熱いような、冷たいような、擽ったいような、痛いような、形容し難い感覚を味わっていると、しばらくして幼女の手が離れた。
名残惜しさを感じつつもランプで周囲を照らすと、黒い霧が消えていた。いつの間にか気分の悪さもなくなっている。
「ミレスちゃん、終わったの?」
「ん」
「さすがミレスちゃん! ありがと~!」
ぐりぐりと抱き締めて頭を撫でると幼女が身動ぎした。もう可愛いし最高。
幼女の両脇を支えて上に掲げると、ガシャッと金属製のようなものが地面に落ちる音がした。下を向くと、見たことのある枷が落ちている。
急いで幼女の足に視線を向け、スカートを捲ると、片足から枷が消えていた。
「……っ!」
もう片方の枷にも、大分ヒビが入っている。
「ミレスちゃん……!」
「ん」
泣きそうになりながら幼女を抱き締めた。
やっぱり間違ってなかったのかもしれない。魔気を取り込んでパワーアップすれば、枷が外れる。
確実に目標の一つに近づいていることが嬉しかった。本当に、夢じゃない。全ての枷を外せるまで頑張ろうというやる気が溢れてきた。
「よし」
ひとまず今の問題を片付けよう。鉱山の件が終わったら、枷を外す旅に出るんだ。
魔気に関してはこれと言って障害もなく解決してしまった。
あとは危獣か。ここの魔気が消えたからと言って鉱山の外にいる多くの危獣が消えたり撤退したりすることはないだろうから、地道に倒すしかないのか。枷を外すための経験値だと思えばやる気も出るけど。
というか、鉱山の中には全く危獣がいないのは何でなんだろう。坑道はそこまで大きくないからいても困るけど。
「さて、問題はここから出るまでだけど……」
入り口まで結構な距離があることは分かっている。走ると体力的にもどのくらいかかるのか分からないし、あの黒い枝のジェットコースターは勘弁したい。思い出しただけで気分が悪くなる。
悩んでいても仕方がないのでひとまず来た道を戻っていると、急に周囲が明るくなった。原因を探せば、坑道のランプがついているのに気づく。思わず身構えた。
『すごいすご~い! あんな魔気を一気に消しちゃうなんて!』
光の玉がぶんぶんと飛び回る。
「何だ、あなたか……急に灯りが点いたからびっくりした」
『アタシが点けてあげたのよ~』
大人しく待っていてくれるとは思ってなかったけど、ここに来てくれるとは予想外だった。
『どこも嫌~な雰囲気が漂っててうんざりしてたのよね~。これでこの辺りはゆっくりお散歩できるわ~。お礼にそのコのこと教えてあげるわ~』
「それは嬉しいんだけど、ちょっと待っててくれる? まだやることが残ってて……」
『え~。どうせすぐに終わんないんでしょォ、イヤよ~』
気まぐれというかちょっと身勝手だな。少しは折れてくれてもよさそうなんだけど、多分無理か。幼女のことを教えてくれるだけでありがたいんだし。
機嫌を損ねて情報が得られないことだけは避けたいので、とりあえず出口へ向かいながら話を聞くことにする。
「この子の──ミレスのこと、どのくらい知ってるの?」
『知ってるというかァ、分かることだけね~。そのコは半霊半魔の混血よ~』




