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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第二部 新興
82/240

25.反省はしています


「おれ、次に会うときはねぇちゃんよりでかくなってるって言ったけどさ、さすがに一日じゃどうにもなんないよ」


「あはは」


 呆れるというより驚いて固まる様子のアダル。私もあんな別れの挨拶をしておいて、こんなにすぐ会うことになるとは思ってなかったよ。


「な、何ですか、ここ……」


「私たちが、私たち家族が何を……!?」


 メイエン家のお屋敷を見て絶句するオルポード一家。お母さんに至っては貴族と縁がなさすぎるからか、自分たちの罪を懸命に探している。


 ミレスの服を作ってくれた時の生地が大量に余ったから家族みんなの服を作ったとミリエンから聞いていたけど、よかった。さすがに継ぎ接ぎの服でこんな屋敷に入る訳にはいかないだろうしね。あんまりテア様は気にしなさそうだけど。


「皆さんの新しい職場兼家です」


「「「「「「……え!?」」」」」」


 六人の声がぴったり重なった。







 テア様とエメリクはやることがあるからと奥の部屋に引きこもっている。屋敷の奥に立ち入らなければあとは常識の範囲内で自由にしていいと許可を貰っていた。

 さすがに屋敷内に住むのはまずいのではと聞くと、今は使われていない使用人用の部屋が離れにあるから好きにしろと言われた。そこまで掃除の手が回っているとは思わないので最初は大変かもしれないけど、あのいかにも壊れそうな家よりはマシだよね。


 一応テア様とエメリクにはオルポード家の素性を話したんだけど、廃墟のような場所に住んでいることについては特に問題ないというか、他言無用の契約を交わすなら出自や身分なんかは問わないみたいだった。むしろ貧民街の事情を知るいい機会だと言っていた。貧富の差が出ることは仕方のないことだけど、いずれどうにかしたいと思っていたと。今はベルジュロー家とのことでそれどころじゃないみたいだけど。


 ひとまず一家には応接間のようなところに座ってもらったけど、みんな委縮したように固まって動かない。何か粗相をしたらいけないと怯えているようだった。五歳のヘロラフですらそんな雰囲気を感じてはしゃごうとはしない。


 そんな家族に追い打ちをかけるようにテア様との契約を話すと、さらに言葉を失ったようだった。


「そんな、そんな好意は受け取れません……!」


「でももう契約しちゃったから。みんなも領主様の右手を切断したくはないでしょ」


 一気に青くなる六人の顔。


「ヒオリねぇちゃん、ちょっとおかしいと思ってたけど、やっぱり頭おかしいよ……」


「こらアダル、そういうことは思ってても口に出さないもんだぞー」


 確かに他人なのにここまで介入するのはさすがにお人好しというか、何様だよって感じではある。他人様の家庭の事情に首突っ込んで勝手に契約まで交わすんだから迷惑極まりない。

 あの時はもうここしかないと思って口に出してしまった。契約を急かしたテア様にも多少の責任はあると思いたい。


 でもさ、お母さんとミリエンには服のお礼をしたくてもしきれないし、できるなら次の服もお願いしたいところだし、アダルは力仕事だから疲れているところしっかり休んでもらいたいし、末っ子たちにもうんと羽を伸ばしたり遊んだりしてほしいじゃない。

 メイエン家としても口の堅い使用人は欲しいみたいだったし、ちょうどいいでしょ。

 本当に勝手なことしたのは申し訳ないと思ってるよ。


「こ、ここに住めるの……?」


「みんなは離れの方になるけどね。今までの家よりはずっと頑丈だし広いよ」


「ヒオリさん……ああ、本当に、何と……何と、お礼を申したらいいのか……!!」


 お母さん、こんなところで土下座しないでね。


 改めて住み込みでの雇用の話をすると、ついにお母さんとミリエンに泣かれた。制服や食料、その他生活必需品の支給だけでも十分なのに、給料ももらえるなんてと苦し気な声で訴えられた。とりあえず勝手なことをして怒られなかったのでよかった。

 まあ、最初はほぼ無給に近くて、出来高に応じたインセンティブらしいから、頑張って。


 あと、この屋敷で何を見聞きしても知らぬ存ぜぬを貫き通すこと、という条件については、みんなに合意を得てエメリクが契約の術をかけた。

 エメリクは一家六人、しかもほとんどが子どもということに驚いていたけど、アダルが護衛騎士という職に興味を持っていて満更でもないようだった。空いた時間にエメリクや他の騎士に剣の稽古を見てもらえるらしい。よかったね。


 お母さんとミリエンは家事が得意だから、メイドのシベラに感謝されていた。自分が鈍臭いのもあるけど毎日毎日終わらない掃除をしていて泣きそうだったと。

 そりゃあこれだけ広い屋敷だからね、一人で掃除するなんて無理がある。洗濯とか料理もあるだろうし、よくシベラ一人でやってきたものだよ。


 多少環境に慣れたところで、次女ダニラと三女パトリーもメイド仕事に参戦、一番下のヘロラフもできる範囲のことで手伝いをしているらしく、かなり仕事が楽になったとシベラに感謝された。

 こっちとしても紹介した手前、何かあったらと不安にもなったけど、みんな右手も無事だし上手くやっているみたいでよかった。


「ひぃ」


「うん。じゃあ、行こうか」


 オルポード家が心配だったから数日は屋敷にいたんだけど、大丈夫だと分かったので鉱山へ行くことにした。

 テア様が時間がないと頻りに訴えていたのは、結界の耐久の問題もあるけど、一番は私たちが揺らぐ前に契約を済ませてしまいたかったかららしい。策士だね。


 まあ、とにかく数日は余裕があるらしくて屋敷でのんびりできた。このままいたら引きこもってしまいそうなくらいには。


 鉱山へ行くのは私たちだけかと思っていたんだけど、テア様とエメリクも一緒に行くらしい。

 屋敷を抜けて大丈夫かと聞いたら、防衛として結界の術を張るしそんなに家を空けるつもりはないと言う。期待されているのか知らないけど、何かあっても責任取れないからね。


「準備はできましたか?」


「あ、はい」


 領主モードの声に振り向くと、そこには柔らかな笑みを湛えた美少女がいた。隣には眉間に皺を寄せた無口仕様の赤髪の騎士。


 エメリクはいつもの騎士のような服装に変わりはないけど、テア様も同じような恰好をしているのが新鮮だった。まだ会って数日しか経ってないけど、お嬢様というイメージしかなかったので、こうして髪を纏めてズボンを穿いて動きやすい恰好をしていると美少女というより美少年にも見えるかもしれない。


「……」


「浮気じゃない、浮気じゃないよ」


 エメリクが騎士として育ったと言っていたけど、こんな騎士がいたら目立つことこの上ないだろうな。

 というか、お嬢様スタイルの時に手を握られて、あまりか弱さを感じなかったのもそのせいか。手袋越しだったからよく分からなかったんだと思っていたけど、剣を握ったりして硬く丈夫に成長した手だったんだろうね。


 騎士として育って、今は領主として領民のことを考えて自ら行動している。尊敬しかない。


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