18.限界化
「こんにちは~」
見慣れた薄暗い雰囲気の中、とある古びた家のドアをノックする。
方向音痴の私でも、こう短期間に何度も訪れることがあればその道順も覚えることができた。
「ヒオリさん!」
出迎えてくれたのは、中学生くらいの少女。オルポード家の長女、ミリエンだ。
「や。アダルから服が完成したって聞いてね」
「はい! 中へどうぞ」
ミリエンに招かれ家の中へと入る。
狭い部屋の中、末っ子三人に手土産を渡しつつ、奥へと向かう。
間取りとしては1DKで、ミリエンとお母さんは寝室となる部屋で作業をして、食事や睡眠は家族全員でさっきの狭い部屋で済ませているらしい。
それを聞いた時、あまりに申し訳なさ過ぎて追加報酬を渡そうとしたんだけど、プレッシャーになるようだったからちょっと豪華な手土産を持参することにしていた。
お金に余裕ができたら大きな家に引っ越せるといいね。
ちなみに狭いながらも家が綺麗になっていると思ったら、働く三人の代わりに末っ子たちが家事を頑張っているらしい。アダルと同い年のダニラは下二人の姉弟の面倒を見つつ、内職もしているんだとか。まだまだ幼いのに偉すぎる。
「こっちです」
「開けるよ」
「どうぞ!」
案内された部屋のドアを開ける。
狭い部屋一面に広がる様々な生地、多くの面積を占領する裁縫道具。
そして、散らかる部屋の真ん中で異彩を放っていたのは、一着のワンピース。
「──!!」
念願の、ミレスのためだけに作られた一着だった。
濃紺をベースにしたワンピースでボタンや模様などは鈍い金色で統一されている。スカート部分にはスリットが入っていて、間からは青色が見える。枷を隠すために首元はゆったりとしていてフリルと青い大きなリボンがあしらわれている。同じく、手足の枷を隠すために両腕と全体的な丈が長い。
右眼を隠す眼帯も大きなリボンがついていて、全体的にシックなんだけどゴシロリっぽさもある。靴は作れないからと厚手の靴下までセットだった。
完璧だった。理想の服がそこにあった。
「どうですか! 頑張りましたよ!」
「……」
「できるだけヒオリさんの要望を取り入れて、お母さんと作った自信作です!」
「おーい、ねぇちゃん」
「あ、アダル。お帰りなさい。ちょうどヒオリさんに見せているところよ」
「先に家に行ったのに、遅かったんだな」
「……」
「ヒオリのねぇちゃん、生きてんの?」
「こら! なんてこと言うの!」
「……ひぃ」
「──はっ!」
幼女にぺちりと頬を叩かれ我に返った。
「あまりの良さに釘付けになってた」
一目惚れという言葉があるとすれば、これだというくらいに。
「本当ですか! 頑張った甲斐があります!」
「ミリエン、天才……ありがとう……本当に、ありがとう……」
「ヒオリのねぇちゃん、怖いよ」
ミリエンの両手を取り拝む勢いでお礼を言うと、アダルに引かれた。
「か゛わ゛い゛い゛」
「ねぇちゃん泣くなよ、もー」
アダルが呆れたようにタオルを渡してくる。
実際にミレスに着てもらったら、想像以上にやばかった。最高のアンティークロリ。
可愛い以外の言葉が見つからない。今ほど語彙力のなさを悔やむことはないだろうというほどに。
天使か、小悪魔か、この世の可愛いの全てを詰め込んだらこうなるんだと思う。可愛いの代名詞と言っても過言ではない。私がこの異世界に来たのはこれを見るためで、今までの苦労も何もかも全てはこのための試練だったのかもしれない。自分の背丈ほどもある木々を掻き分けながら森を歩き続けたのも、やっと出会えた人間に襲われたことも、幼女や魔気に当てられて頭痛吐き気の諸症状に苦しめられたことも、食料の危機に陥って森の中でロシアンルーレットをしたことも、タルマレアの人たちから監視され幼女に強い視線を送ってきたのも、危獣に命を脅かされたことも、どこぞのイケメン隊長と剣を交えることになったのも、爺やに何かを試されたことも、クナメンディアの人たちが侮蔑されているのに気付かなかったのも、全部、全部。この日、この時のために。
もしかしたら今日が私の命日なのかもしれないいや最早これは幻なのではないだろうか今までのことも全て夢で今目の前にある私の好みが具現化したような服を着ている幼女が現実な訳がないそうだ妄想に違いない妄想でなければこんなに可愛いロリが私を見上げて私の名前を呼ぶはずがないああ可愛い可愛いよミレスその波打つ長い白髪も光に照らされて時々ライムグリーンに輝く黄金の左眼も今は眼帯に隠れて見えない何も移さない漆黒の左眼とのアンバランスさも華奢で軽すぎる身体で首と四肢についた枷と身体中に巡るケロイドのような痕が痛々しくて一見弱々しく見えるのに人の何倍も巨大なモンスターを一撃で屠る強さも全部が最強すぎてつら
「……ひぃ?」
「……」
「あ、また固まってる」
「これからずっと着る服なんだろ、そんなんでどうするんだよ」
死因、幼女が可愛すぎる。




