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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第二部 新興
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17.ここ数日の出来事


「さて、お仕事お仕事! ヒオリ様、改めまして。マルウェンから応援に参りました、ノエリーです。よろしくお願いします」


「あ、こちらこそ」


 慌ててお辞儀を返す。

 そういえば名前は知らなかったな。ノエリーさん、名前も可愛いね。


「あの、よろしくお願いします。ノエリーです。早速ですが仕事は……」


「ああ、ロベスだ。よろしく。こっちを頼めるか?」


 受付のお姉さんとお兄さんは話しながら仕事モードに入っている。邪魔するのは悪いので、大人しく査定を待つことにする。


 しばらくすると、いつものようにおじさんが謙りながら査定書を持ってきた。さすがにある程度どのくらいの金額か読めるようになったので、今回も了承して報酬を受け取る。


 そっと出ていこうとしたところ、忙しい中こちらに気づいて頭を下げる笑顔のノエリーさんと片手を上げる強面のロベスさん。二人の好感度が上がったのは言うまでもない。



 エコイフで情報収集をしつつ危獣を狩ったりしつつ過ごすことさらに数日。色々な変化があった。


 まず、ノエリーさんとロベスさんがとても仲良くなっていた。男ばかりの職場に入った紅一点、モテないはずがない。ノエリーさんが満更でもなさそうなのが若干釈然としなかったけど。


 次に、職安に特化したこのエコイフでの仕事事情。


 モンスターの死骸を処理する仕事は、異臭と肉体労働に見合わない金額からやりたがる人がいないらしい。そんな条件を告げた上で元気よく立候補してくれたのは、六人姉弟の一人、アダルだった。


 元々子どもを雇ってくれるところが少ない上、身なりもみすぼらしいとなればもっと仕事は限られる。

 件の仕事は、特に年齢制限もなく、査定をする際に鑑定士が魔気を封じ込める術をかけているので魔気に毒されることもない。

 アダルとしては命の危険もなく単に肉体労働をするだけで報酬がもらえるならと喜んでいたけど、その額を知って驚いていた。子どもが到底一日で稼げる額ではないらしい。それほどやりたがる人がいないんだね。

 対して、エコイフとしてはやる気があって低賃金とそれに見合わない労働という条件をのんでくれるなら、猫の手も借りたいところだった。


 ということで、アダルを紹介したところ、「嬢ちゃんにも人の心があったんだな……」とロベスさんにしみじみと言われた。

 子どもなのによく働くと職員みんなが感心していたし、当の本人も「これでお金がもらえるならもっと頑張るよ!」と生き生きとしていた。モンスターの死骸処理の仕事だけど。


 そしてあの家族ことオルポード一家。

 驚きは取っておきたいので製作過程は見ていないんだけど、ミレスの服は着実に進んでいるらしい。お母さんもすっかり体調が良くなりミリエンと一緒になって服の製作をしていると聞いた。これは楽しみだね。


 それから顔色も肉づきも良くなったのに服装が一向に変わらないのを聞いたところ、「まだ着られるから」と返事が返ってきた。私が最初に服の契約金として渡したお金もあるのに、家族みんな慎ましく暮らしているらしい。

 アダルがエコイフで働いているお陰で差し入れもしやすくなったので、これ幸いと色々押し付けている。

 毎回驚き喜ぶ顔が新鮮で、「ねぇちゃん、ありがとう!」と満面の笑みで言われたらそりゃあもうご飯も奢っちゃうってもんですよ。

 ショタは範囲外なので人並みにしか心動かされなかったけど。これがロリだったらミレスに怒られていたかもしれない。


「ひぃ」


「んぐっ」


 ちょっとだけ疚しいことを考えていたからか、突然呼ばれて舌を噛んだ。


 気づいたら周りに人だかりができていた。

 腕の中の幼女が困ったような顔をしている。気がする。


「この子があの時の……!」


「ああ、あの時は本当にありがとうございました……!」


「あなたのお陰で主人が……!」


 拝むレベルで前のめりになっている町の人たちに、見覚えはないものの心当たりはあった。

 多分、結果的に助けることになった人たちだ。


 というのも、街道や林の中など見つけ次第モンスターを屠っていたところ、ちょうどその場に人がいたというだけに過ぎない。人助けをしようとやったことではないし、偶然の副産物でしかないんだけど、命を救われた側としてはそうは思わないらしい。


 私が面倒くさがったのと幼女の顔を見て触れ合いたいという欲望のせいで、町の外ではほとんどフードを被っていなかった。そのせいでミレスの容姿も武器でもある黒い枝も見られてしまって隠し通せなくなった。

 今では開き直って町の中でもフードを被らずにいるせいで、こんなことになっている。


「おお、黄金に輝くその瞳は太陽のようだ……」


 ちなみに幼女の右眼は見えないらしいので、若干の抵抗として光を失った右眼とケロイドのような痕が残る頬は布で覆っている。大きめの眼帯のような感じ。


「……ひぃ」


「ああ、ごめんね」


 忌み嫌われ虐げられたことはあっても多くの好意を向けられたことはなくて戸惑っているんだろう。

 可愛い幼女の頭を撫でながら、断りを入れて人だかりの中を進んでいく。


「すみません、先を急ぐので」


 足早に通り過ぎていけば、わざわざ追ってくるほどではない。


 出店で売っていた甘味を摘まみながら呆然としていたけど、そういえばミレスの服を受け取りにいく途中だった。


 いつものように危獣の討伐報告のためエコイフを訪れたところ、働いていたアダルから服が完成したと聞いた。そのため手土産でも買っていこうと寄り道をしたあと、小腹が空いて摘まみ食いをしていたらどんどん人が集まっていったのだった。


 この子が町の人に受け入れられたことが嬉しい反面、ちょっと寂しい。

 まあ、右眼や首・四肢の枷は隠しているから、ちょっと髪色が珍しい霊術に長けた幼女、くらいに認識されているんだろうけど。

 この国にいる人たちを見ていると、色素の薄い髪色は見かけても、白髪はいないようだった。あとは討伐者がほとんどいないから霊力の有無を知られることなく過ごせていることも大きい。

 だから多分、ミレスと忌み子が結びつかないんだろうと思う。


 いいことなんだろうけど、結局隠し切れていないからな。タルマレアの調査隊やフェデリナ様の時みたいに、ある程度戦える人からしたら怪しいと思われるだろうし、あんな風に純粋に感謝をされることなんてないと思う。


「ま、服を受け取ったら町を出ますかね」


 どうせ長期滞在するつもりはない。ミレスの服を受け取ったら町を出よう。


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