13.不可解<楽しみ
「これからもどうぞ、どうぞ、ご贔屓に……!」
胡麻を擂るおじさんに説明を求めることも叶わないまま、若干の恐怖を覚えつつエコイフを後にした。
強面のお兄さんは最後まで固まったままだった。
手にした報酬は、結構な金額だった。何と白札が入っている。一枚だけど、あの受付のお姉さんの話からすると結構な価値があるみたいだったから、これは嬉しい。
あとは赤と黄色が何枚か。どちらもそれなりの価値なので懐が一気に潤った。
内訳としては危獣の数と危険度が三割、残りの七割は被害に応じてとのことだったけど、多分あの騎士さんと儚い美少女がお偉いさんだったんだろうなという印象。詳細は教えてくれなかったけど、貴族か何かで、白い石のネックレスには家紋でも入っていたのかもしれない。
私たちの今後の行動でもしかしたら家に傷がつくかもしれないので、返却したいところ。ないとは思うけど、家を背負うなんてとんでもない。噂のこともあるし、話が大きくなって逃走に不利にならないとも限らないし、面倒事にならないうちに縁を切っておきたい。
「かと言って捨てる訳にもいかないしな……ね、ミレスちゃん」
「……ん」
ネックレスを見て態度を急変させたおじさんを思い浮かべる。何かと火種にしかならなそうだった。
「ま、ひとまずそれは置いておいて、買い物に行きますか!」
「ん」
どうにもできないなら保留して、とりあえず楽しいことをしよう。
ということで、早速やってきたのは鞄店。
本当は服屋に行って幼女を着飾りたいところだけど、容姿がバレるのはまずいし、きっとあれこれ欲しくなるに決まっている。収納する場所もなければ時間も足りない。
色々見て回ったけど、所謂ショルダーバッグやハンドバッグ、ポーチなどが多く、探し物がなかなか見つからなかった。旅行グッズが置いてあるような店も少なく、どうしようかと悩んでいたところ、商人や討伐者といった層を相手にしているらしい店を見つけることができた。
店の中はとにかく容量と頑丈さを売りにしているバッグがたくさんあった。どれも魅力的ではあるけど、一番の目的はリュック。両手が使えるし、両肩で負荷が分散されるし、旅と言えばこれだよね。
「何かお探しで? お父さんへの贈り物かな」
にこやかにお店のおじさんが話し掛けてくる。予想範囲内だけど、私が欲しがっているとは思わないらしい。確かに、いくら旅用とはいえ、店の商品は機能性を重視しているからか女性が好みそうなデザインではないけれども。
いい加減、子ども扱いにも慣れてきたな。
「自分用です。旅をしているので。軽くて大容量のものはありますか?」
「それは失礼しました。それでしたらこちらに……」
元の世界では店員さんに声を掛けられるのが嫌で視界に入らないようにしたり全力で話し掛けないでオーラを出したりしていたけど、ここは異世界。自分が思うよりいいものがあるかもしれないし、背に腹は代えられない。
「じゃあ、これにします」
「お買い上げありがとうございます」
店員さんのオススメで見繕ってもらい、その中でも軽くて大きなリュックを買うことにした。見た目はシンプルで、防水・防火機能もついているらしい。
店員は普段は激重、自分の霊力を通せばあら不思議、とても軽くなるという防犯を兼ねた超便利なタイプを激推ししていたけど、ごめん。霊力ないから私にとってはただの罰ゲームなんだよね、それ。
ついでに機能性重視でブーツも購入。こちらも防水・防火仕様。服はフェデリナ様から買ってもらったものだけど、靴はそのままで、もうかなりぼろぼろだったからちょうどよかった。
あとはハンカチとか水筒とか、必要そうなものもあったので一緒にお会計。
店員さん、最初は子どものお使いを見守るような対応だったのに、最後は謙るような言動に変わっていた。総額で結構なお値段したからね。
買ったものを中に入れて、それでも容量の空いた軽いリュックを背負う。うん、肩も痛くないしいい感じ。
「小腹も空いたし、せっかくだから出店で何か買いたいな」
ずっと気になっていたんだよね。元々祭の出店とか好きなタイプだった。それにこの世界の料理、多少癖があったり見た目とは印象が違う味がしたりするけど、全然食べられないって訳じゃない。まあ一種の宝くじだ。
いい匂いに惹かれて歩いていくと、串焼きの店があった。相変わらずこの世界の野菜は原色だったり蛍光色だったりと食欲を削る色をしている。肉はおいしそうな茶色なのに。
「すみません、これ二本ください」
「はいよ。灰札六枚だよ」
「はい」
お金を渡して焼き立ての串焼きを受け取る。大きな肉と交互に挟まる青と蛍光ピンクに目を瞑ればとてもいい匂いでおいしそう。
少し歩いた路地裏で人気のないことを確認。ミレスのフードを脱がせる。
幼女は私が支えなくても黒い枝を使って胸に掴まってくれていた。
「はい、ミレス」
「……?」
「食べなくても生きていけるかもしれないけど、食べたら害になるわけじゃないんでしょ? だったら、おいしいって思うものにも出会えるかもしれないじゃん。それに、一緒に食べると私がよりおいしく感じるから」
不思議そうに見つめてくる幼女に説明すると、差し出した串焼きを受け取ってくれた。
じっと肉を見つめると、小さな口でぱくりと齧りついた。
「おいしい?」
「……ん」
「苦手な味ならちゃんと言うんだよ」
「おい、しい」
「それならよかった」
味覚がないわけじゃないんだよね。それなら一緒に食事も楽しめるし、貢ぐ対象が増えて願ったり叶ったりだ。稼ぐ方法が幼女の力だから当然の権利とも言えるけど。
その容姿から串焼きの肉一つでお腹いっぱいと言ってもおかしくないくらいだったけど、意外にもぺろりと一本平らげた幼女は何だか満足そうに見えた。
ブクマや評価だけでなく感想までありがとうございます!
今月は毎日更新できると思いますのでお付き合いいただければ幸いです…!




