9.一途なんです信じてください
二次元にこういう子がいたら絶対に推しになっていたと断言できるくらいには好みのタイプだった。年代としては中高生くらいだろうか。もう少し年齢が若ければ何も言うことはないくらい。
今まで金髪碧眼が性癖だったけど、本当に好きなのは銀髪青眼だったのかもしれない。
「いや嘘ですごめんなさい一番好きなのはミレスちゃんで──あっ、すみません」
騎士さんから鋭い眼光が飛んできたので思わず謝った。冗談を言っている場合じゃないことは理解してます。
「……あの」
か細い声だった。震えていて小さなそれは、騎士さんから発せられたものではないと分かる。
「ありがとう……ございました」
「あ、いえ。無事ならよかったです」
弱々しいながらも声までも綺麗で、全体的に儚い印象だ。顔色が悪いことを抜きにしても今にも壊れてしまいそうで、守ってあげないと、という庇護欲をそそられる。
まあ、この状況からすると当たり前かもしれない。どこかのお嬢様が刺客に襲われ、挙句、モンスターに殺されそうになったとしたら顔面蒼白にもなるよね。全部想像だけど。
とりあえず見た感じ、シンプルなドレスには土なんかの汚れしか見当たらないのでほっとした。
「お礼をしたいのですが、急いでいるもので……」
「お気になさらず。それより怪我はないですか?」
何となく敬語で対応しておくことにする。貴族とかだったら嫌だし。
「大丈夫です……あの、これを」
儚い美少女からそっと差し出されたのは、小さな白い石がついたネックレスだった。混じり気のない綺麗な白い石、接続部には細かい模様が彫られ、装飾が施されている。
「怪我がないならよかった。お礼なら本当に大丈夫ですよ」
何となく高価なものだと思い、遠慮しておく。
すると、騎士さんが指を口に当て、指笛のようなものを吹いた。
どこからともなく地響きが聞こえたかと思うと、比較的ほっそりとしたヒスロがやってきた。
これは確かに馬みたいだな、なんて思っていると、
「困ったときはこれを使ってください」
と、儚い美少女に手を包まれた。
ひんやりとした、けれども決して柔らかかったり細かったりするわけではないその両手に気を取られていて、先ほどのネックレスを握らされたと理解したときには、彼女は騎士さんに抱えられながらヒスロに乗るところだった。
呆気に取られていると、具合の悪そうな美少女が儚げに微笑む。
「──では、また」
そして騎士さんがヒスロを蹴るように合図すると、颯爽と林道を走り去ってしまった。
「……な、何だったんだ」
好みのタイプの女の子に現を抜かしていたら台風のように消えた。
彼女たちが襲われていた理由も、騎士さんが魔晶石を持っていたらしい理由も分からないまま、惨殺現場に残された私たち。
あっという間の出来事に呆然としていると、現実に引き戻すかのように幼女が服を引っ張ってきた。
「……ひぃ」
「大丈夫、ミレスちゃんが一番だよ」
あまりにイベントが駆け足すぎて、現実逃避のような言葉が出てきた。
「……ほん、と?」
「……え!?」
今、何て? ほんと、って? 本当に一番かどうか確認したの? この子が? 何で? 私の一番かどうか確認した? え、待って、どうしよ可愛すぎるんですけど!?
「もちろん一番だよ!!」
「……ひぃ、すぐ、うわき、する」
「!? え、いや、フェデリナ様とかさっきの子は可愛いけどそれはそれこれはこれというか……!?」
こんなに話してくれたことに驚けばいいのか、単語レベルがアップしたことに驚けばいいのか、物事を予想以上に理解していることに驚けばいいのか、自分の感情が芽生えたどころかしっかり持っていることに驚けばいいのか、もう分からない。
というか、これは立派なヤキモチなのでは……!?
「か゛わ゛い゛い゛……ミレスちゃんが一番だよ……」
「ほん、と?」
「う゛ん゛」
ほら、米派で毎日白飯を食べていても、たまにはパン食にしたくなるじゃない。でも白米が一番なんだよ。多分そんな感じ。
普段、主食食べない派だけど。
とにかく、ミレスが一番だよ、と念じながらその幼い身体をぎゅうぎゅうと抱き締めた。
それに応えるようにぎゅっと服を掴んでくる幼女が可愛すぎて仕方なかった。




