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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第二部 新興
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6.見解の相違


「こんなの、安すぎます!」


 あ、そっちね。さっきの呪文が金額で、それが安いと。


「あの角の危獣が報告にあった危獣より凶暴で強いとは言え、国の規定だ。これでも頑張って釣り上げた方だ」


「それに、貴女も知っているでしょう。我が国は害獣と危獣の被害で財政状況は厳しく、取り分けこの地はその影響が強いと」


「でも……! あの危獣は討伐者に大怪我を負わせたんですよ、それを十近く全て……しかもそれ以上に強い危獣なんて、こんなにも命に関わるような危険な目に遭っているのに……!」


 幼女が強過ぎて全然危険でも何でもなかったし、討伐証明部位の回収もやってくれたから何の苦労もなかったけどね。


「危険な割に報酬が安いと言うのは聞いていたし、大丈夫ですよ。それより何て書いてあるんですか?」


 査定書を持ったまま、指を差しつつ説明してくれるお姉さん。

 内訳は、五割ずつ。バッファローは危険だけどまだ何の被害も出ていなかったこと、鳥や犬の危獣の方が町にとっては害を成していたため、と。本来なら九割以上はバッファローの報酬になるくらい危険な危獣らしい。まあ見るからに異様な相手だったからね。他の危獣とは比べ物にならない危険そうなのは同意。


 そして、金額。

 フェデリナ様たちと泊まった宿は知らない間に会計が終わっていて、この町に来たヒスロ便も先に支払ってくれていたのでこの国のお金を知らない。宿屋の食堂で通貨や物価についても話を聞いたはずなのに、色んな話でごちゃごちゃになったからか、金額を言われても今一ピンと来なかった。アラサーだからとかそういう問題じゃない。鳥頭すぎる。


 読み書きできない上に通貨も知らないなんて怪しいことこの上ないけど、優しいお姉さんは教えてくれた。

 町で売られているパン一つやここで泊まれる宿の値段を聞いて、何とか頭の中で計算をしてみる。


「え、ということは……」


「ほら、あんなに危険な危獣を討伐してくださったヒオリ様も困っています!」


「結構いい値段だね」


「そうでしょう! ……え?」


 これなら多分宿に十日は泊まれるし、贅沢をしなければ十分に食べていける。十日の間にまた同じように稼げばいいし、何なら貯蓄もできそう。あんまり持ち運ぶ手段もないから、ある程度は使ってしまわないといけないけど。

 前の町とこの町には欲しいバッグが見当たらなかったのでスルーしていたけど、次に大きな町に行ったらバッグを買いたいな。お金どころか身の回りの物を入れる場所がないし。


「オレが言うのも何だが、これはいい値段じゃないぞ? そっちの姉ちゃんみたいに怒ってもいいくらいだ」


「貴女がいくら強いとは言え、苦労したでしょう。金額については私たちにどうすることもできませんが、文句の一つや二つくらいは受け入れますよ」


「いやいや、国の決まりなんでしょ? だったら仕方ないじゃないですか。確かに安いのかもしれませんけど、だからってあなたたちが誹謗中傷を受けていい訳じゃないし」


 安い報酬に文句があるなら制度を定めている国に訴えるしかない。それに苦言を呈されたのではとんだストレスだ。ここは国の行政機関とそういったことも受け付けているのかもしれないけど、多分部門違いでしょ。

 まあ国が重税を課して民が苦しんでいるようなパターンも有り得るけど、色々な意味で私には関係ないし。


「ヒオリ様……優しすぎて騙されないか心配です」


「ああ」


「気をつけてくださいね」


 どうして三人して心配そうな目を向けるかな。


「とりあえず、これで大丈夫です」


 最後まで暴言を受け付けようとした男性二人だったし、本当は罵られたいだけかとも思ったけど、どうにか報酬を得ることができた。受付のお姉さんは「本当にいいんですか? 後で覆したりできないですよ? これ、本当に安いんですよ?」と何度も確認して不承不承といった感じだったけど。


 受け取った報酬は思った以上に軽かった。袋の中身を覗き、一枚だけ取り出す。


 掌サイズほどの長方形のそれは、紙粘土のような、プラスチックのような、軽くて薄い札だった。ラミネートカード、いや下敷きみたいな。爪で弾くと高い音が出そう。よく見ると文字のような何かが刻まれている。

 聞けば、これがこの国──世界の通貨らしい。勝手に金貨とか銀貨とか銅貨みたいなものだとばかり思っていたから、紙幣のような扱いに驚いた。

 文字でも書いてあるけど、色味で価値が変わるんだとか。灰色っぽいのが一番安く、次に青、黄色、赤、白の順に高価になると。若干の形状や刻まれている文字・装飾などは変わるものの基本的にはどの国の通貨も同じようなもので、この通貨の上に聖貨があり、聖貨はどの国も共通らしい。


 袋の中身は赤、黄、青が数枚だった。赤札って聞くとそんなにいいイメージがないけど、これは喜んでいいんだよね。


 そういえばフェデリナ様から貰ったお金は使うつもりがなかったから中を見なかったけど、ちょっと中身を確認するの怖いな。この袋より小さくてそんなに重さを感じなかったんだけど。聖貨を渡そうとした爺やを一緒に止めてくれたくらいだし、聖貨は入ってないと思うんだけど。


「本当は白札数枚貰ってもおかしくないんですよ」


「呼び方それでいいんだ」


 さっきは呪文にしか思えないカタカナの金額を話していたのに。


「これ、もう一回読み上げてくれます?」


「イクスエダァレザロウェリィロゥフレゥブですか?」


 うん、呪文にしか聞こえないよね。翻訳機能ちゃん、よろしくお願いします。念じながら幼女の頭を撫でる。


「やっぱり六エダァ三ロウェリィ四レゥブは安いですよね……」


 お、少し分かるようになってきた。もう一息。


「勉強のためにもう一回」


「六赤三黄四青……」


「よし、ありがとうございます」


 これで十分だよ、という意味を込めて幼女を撫でる。

 これ以上翻訳すると「日本円にすると約○○円」とか言い出しそう。通貨を日本円換算しても日本と物価は違うだろうし、この国の通貨でどのくらいの物価なのか分かったほうが二重変換しなくて済むし、支払いとかも楽そう。

 言い方がちょっと赤巻紙の早口言葉みたいで面白いけど。


「えっと……?」


「え、ああ、これからも依頼受けるならせめて金額くらいは読めた方がいいかなって」


「それはそうですけど……」


「金額には納得してますので」


「……そうですか」


 何で不満そうなの、お姉さん。


「そういえば、これで通行止め解除されますかね?」


「そうですね。報告のあった危獣は恐らくこれで全部だと思いますので……あとは周囲の安全が確認できたら、早ければ明日中にでも許可が下りるかと」


 早くても明日か。今日はここに泊まるしかないね。臨時収入で比較的懐は潤っているし。


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