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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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6.幼女SUGEEE


 幼女の名前を認識した途端、触れている部分からさらに何かが身体に流れ込んできた。今度は熱いほどのそれは、息苦しさを伴い流れ込み続ける。

 窒息しそうなほど長く続いているのに、苦しさはあれど息が止まることはなかった。


「──っはぁっ」


 幼女とのファーストコンタクトで感じた頭痛や吐き気のときと同じく、突然息苦しさから解放される。どちらかというと空気を送り込まれていた感じだったのに、外気を吸って楽になった。


 気づけば今まで以上に距離を取っている男たち。彼らが恐れている幼女を抱えているためか、近づいてくる様子はない。かと言って引き返してくれるでもなく、このまま見逃してくれそうにもなかった。

 仮にこの場から逃げ出したとして、また追ってこないという保証はない。


「ミレスちゃん、殺さない程度に攻撃ってできたりする……?」


 こうなったら幼女頼みだ。

 ほら、さっきの名前のやり取り、精霊とか異種族との契約っぽかったし。

 ホラーも好きだけどどっちかというとファンタジー的な展開を希望したい。


「……て」


「て?」


 単語レベルしか発さない幼女とのコミュニケーションはやや難易度が高いけど、これまでの仕事での経験でも生かしてどうにかするしかない。


 男たちを指差す彼女の細腕、そして身に纏う布の間から見えた首にも手足と同じような枷と鎖が繋がっていた。首と四肢を鎖で繋がれている光景が頭を過って沸々と怒りがこみ上げてくる。


 こんなにも小さくやせ細った幼女を、厄災だか何だか知らないけど大の大人が寄ってたかって虐げるなんて。


 手を伸ばす。幼女と同じように、男たちに向けて人差し指を突き出した。


「ヒッ」


 男が顔を引き攣らせ身動ぎした、その時だった。


 抱えた小さな身体から“何か”が伝わってくる。既視感を覚えるその“何か”は私の身体を巡り、突き出した指先へ駆け抜けた。


 一瞬のできごとだった。


「ガァッ!!」


 気づけば男の左上腕から血が流れていた。まるで何かに射抜かれたように穴が開いている。男が流血と痛みで腕を押さえても、止めどなく血は溢れる。そしてその空いた穴から黒い靄のようなものが出てきて、左腕を包んだ。


 ぼこり、ぼこり。私の左腕と同じような赤黒い痣と蠢く血管が現れ、まるで皮膚を突き破るかのように動き回り──。


「ヒイィイィッ」


 ぼとり、と。男の左腕が地に落ちた。


「あああああああああぁぁぁぁぁああ!!」


 千切れた腕からはさらに黒い靄が増し、どんどん黒く変色していく。腕の周囲の草木は枯れていった。


「ひっ」


「呪いだ……っ!」


「こっ、こっちに来るな!」


 男たちは慌てふためき、中には腰を抜かした奴もいた。左腕を失くした男は痛みのためか失血のためか地に伏している。残った腕から流血はしておらず、黒い靄が纏わりついていた。


 幼女、凄すぎんか? 呪いと称されるのも頷けるわ。


「にっにげっ」


「まっ、待ってくれ!!」


 男たちは次々と逃げ出し、片腕を失くし倒れた男と、立ち上がれず尻を着いたまま後退しようとしている男だけが残った。

 取り残された男の顔は血が引き、恐怖に怯え、涙を浮かべている。


「ば、化け物……!!」


 手足に力が入らず、その場から動けない男の抵抗は見苦しいものだった。好き勝手やろうとして逆にやられたらこのザマだ。吐き気がする。


「……行こう、ミレス」


 罵倒するその口を塞いでやりたい気持ちもあったけど、他の厄介事が絡んでくる前にこの場を去る方がよさそう。逃げた男たちが救援を連れてくる可能性も否定できないし。どうせここに残った二人は追ってこないでしょ。

 






「はぁ……助かった」


 ミレスを抱えたまま座り込む。


 あの場から大分離れたからさすがに大丈夫だと思いたい。追手が来る様子もないし。


 木に背を預けて目を閉じる。ミレスと契約らしきものをしてから体力が回復していても、精神的な疲れは取れない。それに、あの場所から随分走ったり歩いたりしたためHPゲージは振り出しに戻っている。


「ありがと、ミレス」


 そういえば感謝を伝えていなかった。色々なことが一気に起こりすぎてそんな余裕もなかった。


 大人しく腕に抱かれている幼女はこちらを見上げている。相変わらず無表情で何を考えているのか分からない。可愛い。


 結構な距離を歩いたのに大した重量を感じさせない幼女は、一体どうなっているのやら。就学前くらいだとしても、見るからに低栄養でやせ細っていたとしても、それなりの体重があるはず。

 両腕を上げ下げしたり、高い高いの要領で身体を持ち上げたりしてみても、到底見た目には及ばない重さだった。触っている感触はあるし、重さが全くないわけじゃない。家にある枕とかクッションくらいの感じ。

 百歩譲って幼女が羽のように軽かったとしても、首と四肢についた金属製のような輪と鎖はさすがにこんな重さじゃ済まないはず。


「どうなってんの……?」


 まあ、本人に聞いたところで返事が返ってくるわけでもなく。


「これからどうしようね」


 幼女の神秘性について考えるよりも、まずは今後のことで悩んだ方がよさそうだ。


「ほんと、ここどこなんだろ」


 そういえば目を覚ましてから結構時間が経っているはずだけど、まだ日が暮れる様子がない。ここが異世界だったら地球とは形や周期も違うかもしれない。あとはここがゲームの中だった説だと、イベントをこなさないと時間経過はしないかもしれない。


 ゲームだった場合、ホラー展開なら呪いを解くとか目的があるはずだけど、看板が立っているとかそういったメモがあるということもない。村人から得られた情報も、幼女が忌み子らしいということくらいだ。手掛かりがなさすぎてクソゲーすぎる。


「ミレスちゃん、何でもいいから情報ください……」


 幼女に懇願してみても無駄だということは何となくわかっていたけど、それくらいしかやることがない。考えても分からないんだもの。

 ミレスが口数少ないのはゲームの設定なのか元々こういう子なのか。

 何にせよここにいても何も始まらない。結局は自分の足で進むしかないわけで。


「……行きますか」


 まあ、一人より遥かにマシだよね。自分の運のなさと無力さを嘆くより、強キャラの幼女と行動を共にできることを喜ぼう。

 それにしても幼女強すぎんか。通訳機能をつけてくれたり暴漢どもを攻撃してくれたり。あと一番は精神的にありがたすぎる。金髪碧眼から白髪金眼ロリに宗旨変えするわ。


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