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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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51.違和感の正体


 部屋を出ると、扉のすぐ隣に立っていたベアさんと目が合った。額も腕も血の跡がなくて少しほっとした。


「代わります」


 一言だけ告げてフェデリナ様から私を受け取ろうとするベアさん。その時に二人の手が少し触れたかと思えば、勢い良くフェデリナ様の手が離れた。


「っじゃあ、よろしくね」


 顔も見ずに階段を下りていくフェデリナ様。残された私と腕の中の幼女、そしてベアさん。


「何かあったんですか?」


 人目につくと面倒なので、幼女の黒い枝を納めてもらってベアさんに掴まる。


「……いえ」


 絶対あの時のせいじゃん。


「何か、すみません」


「貴女のせいではありませんので」


 あの感じ、嫌悪感ではないような気がするんだよね。気まずいとか恥じらいもあるんだけど、もっと別のことというか。

 とりあえずこの状況の方が若干気まずいか。一応裸を見られた相手だし、フェデリナ様の元刺客らしいし。


「……まあ、そのうち普通に戻るといいですね」


 迂闊に下手なことを言えず、無難な言葉を口にするしかなかった。







 ベアさんに支えてもらいながら食堂へ向かうと、端の方でフェデリナ様が手を振っているのが見えた。先ほどとは違い、いつもと変わった様子はない。

 席に着くと、見知った顔がちらほらいてすでに食事をしていた。さすがに全員だと食堂の一部を占領してしまうからか、全員で十人くらいだった。聞けば、爺やを含め残りの人たちは別の用事があるらしい。ご苦労様です。

 フェデリナ様と私が向かい合うように一番端に、フェデリナ様の隣にベアさんという席順。陰キャなので一番端なのは精神的に嬉しいね。


「何か食べたいものはある? 適当に頼んでいるけど」


「ありがと~。どうせメニューも読めないしこっちの料理も知らないから」


「話せるけど字の読み書きはできないのよね。不思議ね」


「言葉が通じるだけでもありがたいよ」


 最初に暴漢たちに会ったときのことを思い出しながら膝の上の幼女を撫でる。ここでは黒い枝は出さないでね。


 日本語とこの世界の言葉は互換性があるけど、タルマレアの調査隊の人たちといたときは片仮名が通じなくて何度か言い直していた。これ日本語だと何て言うんだっけと悩んだこともしばしばあった。

 だけど最近は翻訳機能がバージョンアップしたお陰か、簡単な単語なら横文字も通じるようになってきた。ありがたい。


 異世界転移・転生モノでアルファベットやら英語が普通に使われていることに違和感があったけど、語り手側の翻訳機能が優秀だったと考えたら納得できた。語り手側に都合のいいように訳されるんだから横文字たくさんでも別におかしくないよね。

 ファンタジーモノで、名詞はともかく日本で聞くような形容詞や和製英語が出てくるのはやっぱり少し違和感があるけど。


「お、お待たせしました」


 給仕さんが料理を運んできた。やっぱりどこかおどおどした印象があるのは何でなんだ。


 その人は料理をテーブルに置くと、さっと身を翻して姿を消した。


「これ、おいしかったわよ。これも」


 次々と運ばれてくる料理を目の前の取り皿へどんどん置いていくフェデリナ様。確かにおいしいけど、食べるの間に合わないから。こっちは寝起きだから。


「おい、あれ」


「ああ」


 食堂は多くの人で賑わっていたもの、さすがに真後ろの声くらいは聞こえる。潜める気もない酒の入った言葉なら尚更だ。


「堂々と食ってんなよなぁ」


「メシがまずくなるぜ」


 明らかにこちらに聞こえるように野次を飛ばす男たち。そいつらだけでなく、よく見れば周囲の目線が集まり、それがいい雰囲気ではないことは鈍い私でも分かった。お呼びでないというか、招かれざる客というか。

 せっかくまともな食事にありつけたのに、おいしさも半減だ。

 というか、何でだ。私たちが何をしたっていう。


 悶々としながら食事を続けるものの、フェデリナ様たちは何も気にしていない様子。直接的な罵倒も増えてきたのに何でそんな普通にできるんだ。


「気にしないで。いつものことだから」


「え?」


「そうそう」


「いちいち気にしたらキリがないっすよ」


 私が困惑しているのを察したのか、フェデリナ様が口を開いた。旅団の人たちも同様に口にする。


 いつものことって、アウェーな雰囲気が? 罵倒されるのが?


 隣や近くに座る旅団の人たちも気にせず食事を続けている。豪快に掻き込みどんどん皿が空になっていく様子は見ていて爽快だけど、周囲はそれが気に食わないようだった。


「オイ、聞こえてんだろ?」


「無視すんなよ」


「クナメンディアのくせにオレたちと同じ場所でメシ食ってんじゃねぇって」


「空気まで不味いわ」


 ケラケラと笑う声、怒気。

 完全に私たちが悪者な雰囲気の中、その言葉で思い出した。フェデリナ様たちと初めて会った時、ベアさんが言っていたクナメンディアという国の評価を。


 ああ、なるほど。それで宿の人たちの様子が変だったのか。一緒に食事をするとか、部屋まで同じとか、信じられないわけだ。フェデリナ様自身も、そう思っていたと。あのお婆さんがフェデリナ様たちのことを聞いたのも、私の話を聞いて驚いていたのも、クナメンディアという国が持っている悪評のせいだったのか。

 クナメンディアの扱いが酷いということは聞いていたけど、ここまでとは思っていなかった。初めて差別を実感した。


「……はぁ」


 溜息しか出ない。大の大人がこんな幼稚な虐めみたいなことを……いや子どもだからって許されることじゃないけど。


 色々な国を旅して、その間ずっとこんな扱いを受けていたのかと思うとムカつく。フェデリナ様も、他のみんなも、いい人たちなのに。悪化する周囲の野次も気にせず食事を続けているけど、こんなの、慣れるものでもないし、慣れていいものではない。


 文句の一つでも言いたいけど、フェデリナ様たちが冷静にしているのに私が行動を起こしては意味がない。

 でも、それでいいのかな。フェデリナ様たちは何も悪くないのに。


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