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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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43.解説と活路


 あれだけ騒がしかったのにあっという間に静かになった周囲。


 そしてまた、ざわつき始める。爺やの言葉を疑うように、驚きと怪訝の表情で。


 それこそ忌み子の伝承ではないものの、おとぎ話でも聞いているような雰囲気だった。まさかそんなはずはない、と。まるで、絶滅した恐竜が今の時代に生きているわけがない、とでも言うような。


 周囲のざわつきを聞いている感じだと、どうやらこの世界の魔族は大昔に滅んだらしい。よくある魔王との戦いというものはないのかな。勇者とか救世主とか。今のところRPG要素は精霊くらいか。戦争で絆を深めた血生臭い感じの精霊だけど。


 それにしても、魔族か。ここに来て馴染みのある単語が来たな。サキュバスとか吸血鬼みたいな、明らかに糧があるような種族じゃなくてよかっ──いや、魔族の中にそういった種族があるのか? ミレスちゃん、羽生えてるし、人外らしいし、魔族って言われると納得できるけど、魔族ってカテゴリーは一つなんだろうか。


「魔族、って……噓でしょう?」


 色んな憶測が飛び交う中、恐る恐るといった風に口を開いたのはフェデリナ様だった。


「フェデリナ様。“気”がどういうものかご存知ですかな」


「ええっと、人間に害のある邪気だって……」


「そう。その邪気の正体です」


 魔族という単語に触れず、“気”の解説から始めようとする爺や。そっちも気になってたからありがたいけど。


「長年の研究と古い文献を解読したところ、“気”は魔気ではないかという話があるのです」


「魔気? 魔族は滅んだはずじゃ……」


 ところどころ分からない部分があるものの、一々質問するのも水を差すようだったし、全く理解できないわけでもない。憶測で話を補完しつつ、ベアさんに視線で助けを求めてみる。

 のっそりした動作でこちらに近づくと、爺やとフェデリナ様の会話を邪魔しないような音量で、解説を付け加えてくれた。ベアさんマジ有能。


 ベアさんが以前出身地の説明のときに言っていたかつての大戦というのは、魔族と人間の争いだったらしい。長い年月と犠牲を払って勝利した人間だったけど、爪痕は大きく、文明も崩壊したに等しかったと。大戦争が終わり強大な敵がいなくなったことや、各地の国やら何やらの再建に追われたこともあり、霊術自体も衰退し大昔に比べたら今は霊術が発展していない方らしい。


「これまでも何度も危獣の動きが活発になったことがあります。ある討伐隊が、それは大きく獰猛な危獣と戦い、多大な犠牲を払いながら勝利した。辺りには濃い“気”が漂い、その中心には小さな石があったと」


 これまでの二回と似たシチュエーションだね。異形と胴長のやつ。


「その石は“気”が強すぎて触れることも叶わず、教会の最高位である術士たちにより封印され、騒ぎが収まったと言います。“気”を発生させ増加させる原因であるその石は、魔晶石と呼ばれるものではないかと」


 あの宝石みたいな石が原因で危獣が活性化して各地で異変が起こっているわけね。元凶である石は手に負えず、封印するしかなかったと。

 魔晶石とかならイメージしやすいからいいね。やっとここでゲームやらの知識が活躍できる。


「文献によれば、魔晶石は魔気が結晶化したものであり、魔族の力の源……魔力と呼ばれる、我々人間でいうところの霊力と同じものなのです。関係性を考えても、危獣は魔族と何らかの関りがあると見て間違いないでしょうな。その生態などは詳しく解明されておりませんが、一説では大昔に大戦で敗北した魔族の置き土産ではないか、とも」


 ここで魔力が来るのか。

 人間が霊力、魔族が魔力ね。ゲームやら小説やらでは魔力一本でその能力やら種類が細分化しているパターンが多かったし、複数の根源があっても、聖なる力とか神様とかが関係したような方向だったから、これはあまり見ないパターンかもしれない。

 霊力ってどちらかというと和風、というか幽霊やら死神やら死後の世界みたいなイメージだから、ちょっと違和感があるんだよね。私もそんなにたくさんのゲームをやったわけじゃないし、ただの偏ったイメージかもしれないけど。


「つまり“気”とか、あの石……魔晶石を取り込むなんてことができるミレスは、魔族なんじゃないかってことね」


「……うむ」


 魔族自体は滅んだらしいし、ミレスは唯一の生き残りなんだろうか。だから封印されて、タルマレア周囲の国に伝承として残ったのかもしれない。危険な魔族、ここに眠る、みたいな。

 でももしそうだとすると、この子物凄く年上なのでは……。


「じゃあ私が比較的魔気ってのに平気なのは?」


「ふむ。仮説にすぎぬが、お主の霊力が赤子同然だからかもしれぬな」


 この世界の人間は生まれながらにして僅かな霊力を持ち、成長するにつれその力は増すらしい。この世界には精霊の力である霊力の素──霊気が存在し、生きているだけで霊気に触れる環境にある。霊気を取り込み霊力へ変換する能力は、以前ベアさんから聞いた話にあった素質が関係すると。


 霊気と魔気は相性が悪く、反発し合うがゆえにその影響も大きいらしい。霊力があるから“気”を感じられるし、不調にもなると。霊力が強ければ“気”を押し返すようなこともできるし、逆に言えば霊力がなければないほど“気”の影響は減る。

 だけど、この世界に生きている人が持つ霊力は十分“気”に当てられるほどで、ある程度影響がないのは生まれたての赤ちゃんくらいらしい。それでも長時間“気”に触れるのもよくないみたいだけど。


「なるほどねぇ」


 霊力を持った人間から生まれた子は遺伝的なものなのか知らないけど霊力を持っているし、霊気のある環境で育てば自ずと霊力も増えると。そのどれにも当てはまらない私には霊力がないのは当たり前だね。残念、ちょっとは霊術とか使えるって期待してたのに。

 でも全然ないわけじゃないみたいなんだよね。この世界の赤ちゃんくらいには微々たるものだけど、あるにはあると。


 もしかしたら空気とか食物に含まれているのかもしれない。そういった霊気のある環境で過ごせば、元々そういう構造のない身体でも霊力が身につくとか。

 何にしても、皆無ってわけじゃなくてよかった。これで全く霊力が感じられなかったら不審者どころか生きているのか怪しまれそうだし。


「私に霊力がなさすぎるから“気”がある程度平気で、“気”を持つこの子と一緒にいても大丈夫ってことね」


「そう考えるのが妥当でしょうな」


「仮にこの子が魔族だとすると、タルマレアに追われるだけには収まらないよね……?」


 もし、かつての大戦で滅んだ魔族が生きているとなったら。


「下手をすれば全世界が敵に回るでしょうな」


 なんてこったい。

 まさかローイン隊長、ここまで見透かしていたわけじゃないだろうな。


「しかし、お主はその幼子を信頼し、その幼子もお主に懐いておる」


「はい」


 後者は願望だけど、前者はそう。


「ならば、この世界の英雄になれる可能性もありますぞ」


「え?」


 一転して、話が変わる。そんなことがあるんだろうか。


「“気”の原因となっておる魔晶石……あれを完璧に対処できるのは、今のところその幼子しかおらんからな」


「あっ、なるほど」


 魔族だからこそ、その力の源である魔晶石を取り込むことができるし、ミレス自身戦闘力もあるから危獣討伐もできる。私もある程度は“気”に耐えられる。


 これはチャンスなのでは?

 そう都合よく今までみたいな危獣にエンカウントできるわけじゃないだろうけど、危獣騒ぎの元凶たる石を壊して回れば、世界的にいいイメージになるのでは。


 一気に希望が見えてきた。うまくいけば、陽の当たる道を堂々と歩けるかもしれない。

 見てろよ、イケメン隊長。いつかいい意味でミレスを有名にしてやる。封印しなくてよかったって、分からせてやる。


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