4.望まぬ再会
「■■■■■!」
何と私を襲った趣味の悪い男たちが走ってきた。しかもさっきの二人だけではない。四人増えている。
私一人捕まえるのにこれはまた大掛かりなことで。
そもそも、たかが一人のためにこんな遭難しそうな森の中を探し回ったのか。
集落に若い女性がいないとか? あ、よくある黒髪黒目が珍しいという理由のほうかもしれない。
それを裏づけるかのように、明るい茶髪や濃い緑・紺色の髪がほとんどだった。彩度は高くないものの現実ではなかなか見かけない色ばかりだ。
これは本当に異世界転移なのかもしれない。
嬉しくない。せっかくの異世界なのにこんな事件性のある物語は望んでいない。
唯一の救いは幼女だけど、後ろの彼女は好意的に思えない、というより何を考えているのか分らない。今のところグロテスクな痣以外はこれといった危害はないとはいえ、ファーストコンタクトを考えると味方と断定もできない。
「■■■■■■■■」
「■■■■■■■」
相変わらず訳の分からない言葉を話している男たち。あの下卑た笑みを思い出し背筋が凍る。
しかし予想に反して男たちは私の方を見て怯えたような表情をしていた。
いや、私じゃない。私の後ろにいる、幼女を見ている。
「■■■■■■■■■■■■■■」
「■■■■」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
男たちの内後ろにいた四人が、ナイフや棒、斧を突き出しこちらにゆっくりと近づいてくる。慎重に、機を伺っているようだった。
せっかく逃げ切れたと思ったのに。これならさっさと幼女を刺激してでも攻撃してもらえばよかった。
いや、幼女に害を加えるなんてできるわけない。金髪碧眼ではないとはいえ、貴重な幼女だぞ。
自分でも気色悪いことを考えながら、屈んだまま幼女を背に隠した。
すると、何かが背中に触れた。男たちから目を離すのはまずかったに違いない。でも、ほとんど反射的に振り返ってしまった。
幼女と、目が合う。歪な血管が浮き出る左手に、幼女の小さな手が触れる。
漆黒の右眼も黄金の左眼も堪能できないまま、それは急激に襲ってきた。
「うっ、ぁ……っ!」
幼女と会ったときの症状を遥かに超える頭痛と、吐き気。
痛い痛い痛い痛い。
「ひっ──」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
頭が、わ、れ──。
「う、あ、あ、あ、あ」
何かが、入り込んで、くる。
「っぁぁぁあああああああああ!!」
頭の中に、数字か、図形か、声か、何か分からない”何か”が──。
「──っぁ」
それは突然の終わりだった。
緊張していた糸がぷつりと切れたように、苦痛から解放され、地面に両手をつく。いつの間にか目と口から流れ出ていた液体を袖で拭い取る。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
息も絶え絶えに霞んだ視界に幼女を捉える。
彼女は変わらず無表情のままで、意図は掴めない。
「■い■さ■■して■■■■■■」
「ど■■ても■■■■■よ」
幼女との接触の間、男たちはやや後退したようで、最後に見た位置より少し離れたところにいた。
「■■■れる■■早く■■ま■うぜ」
「■あ■うだな」
再びじりじりと寄ってくる男たち。先ほどまでと違ったのは、ぼんやりと彼らの会話が聞き取れそうだということだ。
逸る気持ちを抑え、なるべく息を整える。
「ねぇ!」
私が突然大声を出したことに驚いたようで男たちは歩みを止めた。
「私の……言葉、分かる?」
幼女に向けたのではない。
振り返り、もう一度問う。
「私の、言葉、分かる?」
「──あぁ」
やっぱりそうだ。幼女との接触後、男たちの話し声が徐々にクリアになっていった。
言葉が、通じるようになってる。