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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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37.Ver.1.2


「そういえば、他の人たちと合流したあとはどうするの?」


 少し前を歩くフェデリナ様に声を掛ける。

 とりあえず協力はしてくれるらしいけど、具体的なことは何一つ決まっていない。爺やが止めようとしてくるし建設的な話ができない。爺やを説得できる手札もなければ、そもそもそんな権利もないと思っている。彼らの仲を引き裂いてまで協力してもらいたいとは思ってないんだけど、フェデリナ様が頑として聞き入れないから私が口出しできることでもないし。


「そうね。ひとまず情報収集かしら。タルマレア側の動向を探って、彼らとは別の方角へ向かいましょう」


 私一人ではどうにもできないことなので、その辺はとてもありがたい。

 でも一緒に逃げ続けるわけにもいかないし、何か策を講じないと。この世界で生きていくために常識とか物価とか知りたいことはたくさんあるけど、ひとまずこんな危険な森から抜け出して一息つける街に行きたい。さすがに街中で、しかも他国でいきなり攻撃してくることはないだろうし。

 森を抜けることができたら、ある程度の情報をもらってフェデリナ様たちとは別れるつもりでいよう。ここから出て人里まで下りられるだけでもありがたいし。


「合流するまでどのくらい、というかこのまま行くと森を抜けるのってどのくらいかかりそう?」


「もう少し歩けば安全区域の待機組と合流できるわ。そこから一般領地まではヒスロを飛ばせば一日もかからないわよ」


「ヒスロって?」


 言葉の前後からして乗り物かな。そういえばこの森での移動手段は漏れなく徒歩だったな。こんな草木が生い茂った中だと歩くのも大変なときもあるけど。

 この世界の移動手段ってどんなのがあるんだろ。勝手に中世ヨーロッパくらいの文明だと思っていたけど、ファンタジーな世界観だし魔法のようなものもあるし、予想外の移動手段があってもおかしくない。意外と車みたいな機械類とか。


「えっ、『馬のような動物。主に人を乗せたり荷車を引いたりして移動に用いられる』を知らない……?」


「え?」


 馬鹿にされているのかと思わずフェデリナ様の顔を凝視してしまった。突然の煽りにフェデリナ様がついに本性を現したか? と思ったら、本当に驚いているようだった。


「『馬のような動物。主に人を乗せたり荷車を引いたりして移動に用いられる』に乗ったことないの?」


「乗るってことは乗り物なの?」


 さっきから何なの、その説明口調。突っ込みたかったけどその顔が妙に真剣だったので口を噤んだ。周りの人たちも驚くか憐れむような顔をしている。これは本気で知らないことを心配されている。


「『馬のような動物。主に人を乗せたり荷車を引いたりして移動に用いられる』はどの国でも一般的に用いられる移動用の動物です」


 無表情のベアさんが解説をしてくれるけど、文章がおかしい。さっきから一字一句同じ説明をしてるのよ。まるで辞書のような──と感じたところでふと思い至った。


 まさか、ミレスの翻訳機能?


 そういえばこの子の発語も増えたし、身体に流れ込んでくる“何か”が増えた気がする。もしかしたら翻訳機能がパワーアップしたのかもしれない。今まで気になる単語が出てきてもこんな状況にならなかったのは、何かしらの条件を満たせていなかったのか、たとえば霊力なんかはそれが何かを大体想像できていたからなのか。

 よく分からないけど、便利なのか不便なのか微妙なところだな。オンオフ機能もあったらいいんだけど。


 期待を込めてミレスの頭を撫でてみても、擦り寄ってくるだけだった。可愛いな、コノヤロウ。


「『馬のような動物。主に人を乗せたり荷車を引いたりして移動に用いられる』を知らないって、一体どういう生活を……」


 フェデリナ様、悲しそうな顔をしているところごめん、笑いそう。

 翻訳機能ありがとう。元に戻してください。このままだとスムーズな会話もできないし、シリアスなシチュエーションもギャグになってしまう。


「えっと、何だっけ。そう、ヒスロね」


 理解しましたよ。という念を送ってみる。どこに、って話だけどとにかく念じてみた。


「ヒスロは平民でも貴族や王族でも目にする機会があるのに……」


 よし、戻った。便利だね、翻訳機能。次のアップデートの時は検索機能とかお願いします。

 あとフェデリナ様、憐れむように小さく呟かないで。徒歩しか移動手段がない文明で生きてきたみたいになるから。


 それにしても一般的な移動手段は馬か。意外性はなかった。機械方面ならロボットについてるようなブースターとか、よく見るファンタジーモノだと肉体強化とか期待してたのに。まあそんなのがあるならとっくに使ってるか。


「アサヒ、もうすぐよ。ほら、あそこにいるのが──」


 フェデリナ様が指を差しながら言いかけて止まる。遠くに人影のようなものが見えるものの、動きが変だ。チカチカとフラッシュする光も見える。


「走るわよ!」


 異変を察知したフェデリナ様たちが走り出す。みんな武器とか荷物を持ってるくせに走るのが速い。インドアな私が各国を旅する肉体派に適うわけもなく、どんどん突き放される。ただでさえ体力ないのに、この世界に来て精神的にも疲労が重なる私には過酷すぎた。


「もうっ、ここに来て、走ってばっかり……!」


 息切れしながら愚痴を言ってもどうにもならない。この時ばかりは瘦身のミレスが少しだけ恨めしく思えた。


 くそ、真面目に筋トレと体力づくりしてたらよかった。ファンタジー的な力で私の身体もバージョンアップしてくれ。


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