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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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36.部下の苦労


 安全区域で待機している仲間と合流するべく歩みを進めていたフェデリナ一行。その中に、不審な動きをする者たちがいた。


「もうやめましょうよ、ヘナロス様ぁ」


「そうですよ。もういいじゃないですか」


「いかん。これくらいで音を上げるとは鍛錬がなってないぞ」


 隠れるようにこそこそと話し合う数人の男たちの中心には、その両の太腕を強調するかのように胸に組んでいる老人。老人と呼ぶには発達しすぎた筋肉、その鍛え上げられた体躯を見上げ、周囲の男たちは溜め息を吐く。


 事の発端は、とある二人との出会いだった。一人の女と一人の幼子。一見無害そうに見えた二人だったが、二人とも霊力がほとんど感じられないことが問題となった。

 ここは危険な獣が潜むグルイメアの森。立ち入るには許可が必要であり、危獣と相対するための霊力がなければ話にならない。ある程度の霊力と戦闘能力があって初めて許可の申請が出せるというもの。もしくは、貴族など身分が高い者で護衛をつけるか。二人はそのどれにも該当しなかった。


 事情を聞けば、いつの間にか森にいて、いつの間にか国を越えたと。しかも森に来て数日は経っていると。俄かには信じ難い話だった。霊力もまともに持たない人間が、この危険な森で数日過ごし、転移までするなど有り得ない。かと言って嘘を言っているようにも見えなかった。主のフェデリナが信頼していることから、悪者ではないのだということは分かる。


 一番の明確な問題は幼子だった。ここグルイメアの森に隣接する三国に伝わる伝承の忌み子。厄災をもたらしたその存在は国民に畏怖の対象として忌避され、魔女や厄災の魔物などと異名がつけられた。遠く離れたクナメンディアまでは広く知られていないが、近隣国にはその容姿が忌避対象となるまでに根付いているらしい。

 伝承の忌み子と同じ容姿の幼子。しかもタルマレアは彼女たちを追っているとなると、霊力ではない何かを有しているのではないかという疑いを持っても仕方がない。アサヒと名乗った彼女自身も、幼子に助けられたと言う。


 主の安全を脅かす者を放って置くことはできない。たとえ、主が認めた者だったとしても。

 それが主の師であり保護者でもあるヘナロスの思いだった。

 彼はどうにかして二人が危険であるかを知らせようとあれこれ画策した。師である自分の務めだと。

 とはいえ、ほとんどが主の良心に訴えかけるようなものだった。わざと高価な物を落として盗ませようとするなど、師のすることではない。


「徽章に金、果てはローブヴァル聖貨。どれも同じ反応だったし、本当に知らないんだろうな」


「俺、聖貨なんて初めて見たぜ。普通に手掴みしたときは寒くなったね」


「いい人だろ、普通に。クナメンディアの俺たちにも普通に接してくれるし」


「だよなぁ。ヘナロス様、いい加減諦めてくれねぇかな」


 一人何かに燃える主の師をよそに、その部下たちは生温い視線を送っていた。

 彼女が悪人だったなら、徽章も金も懐に入れておいて好きなようにできた。ローブヴァル聖貨など一枚で豪邸が建てられるほどの価値を持つそれを見逃すはずがない。仮にその価値を知らずとも、その希少性と秀麗さに惹かれてもおかしくはない。

 それなのに、彼女は持ち主が不明の聖貨をくすねるどころか主であるフェデリナへ渡した。これでどうして彼女が悪人だと言えようか。


「しかもさ、あの子に少しくらい勿体ないって思わなかったか聞いてみたんだけど」


 ──何で? 私のものじゃないし。


「逆に意味が分からないって感じだったわ」


「そもそもそういう発想がないんだろうな」


「それに比べヘナロス様は……」


 真剣な顔をして唸っている。こちらの話など聞いてもいない。


「あの白い子もなあ、そんなに危ないようには見えないんだけど」


「確かに。あのアサヒって子にかなり懐いているみたいだったし、ヘナロス様が刺激して余計なことにならないといいんだけど」


 彼らは見ていた。二人がここへ来たときのことを。

 フェデリナが倒れているアサヒという女を見つけ、駆け寄ろうとしたところ、ミレスという幼子は彼女を守るように立ちはだかった。こちらが敵意のないことを示しても、彼女の意識が戻るまで傍らから離れようとはしなかった。指一本でも触れれば何かが始まりそうな、そんなぴりついた雰囲気があった。無表情ながらも威嚇をしているような。

 ヘナロス曰く、幼子からはこの森に漂う“気”のようなものを感じるらしい。

 もし幼子が何かしらの能力を有していたとして、これまでにその力を見せていないことからも伝承の忌み子とはかけ離れている。文献で知った伝承では、その周囲は黒い霧に包まれ、草木を枯らし、対面した相手の命は奪われ、集落には厄災が降り注ぐと。何一つ合っていない。


 彼らはうんざりしていた。彼女たちの言い分に嘘はなく、我が主に害をなす存在ではないと感じていたからだ。


「いっそのこと、あの子がヘナロス様に一発お見舞いしてくれないかな」


 いまだに腕を組みながら唸っている霊術の師、それ以外の全員が溜め息を吐いた。


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