33.押しの強い美少女もいいよね
なるほど国の名前か。そして誇れる経緯ではなく隠しておきたいというところだと。
「そうなんだ」
「……それだけ!?」
「他に何て言えば……?」
もしかしてこの世界、伝承やら歴史に重きを置かれすぎているのでは。反省するのはいいけど過去の亡霊に縛られすぎるのもどうかと思うよ。
「私たちのこと、軽蔑しないの」
「何で? 私はこの辺の国の人間じゃないし、そもそもあなたたちが悪いことをしたわけじゃないでしょ。私には関係ない」
どこの世界にでも差別はあるもんだね。先祖が何か仕出かしたとしても、その末裔が尻拭いをする謂れはないでしょ。しかもかつての大戦っていつのことよ。
「……ありが、とう」
「お礼言われることなんて何もないけど」
よほど肩身の狭い思いをしてきたんだな。私なんてこんなナイスバディな美少女に迫られたら、悪女だったとしても陥落しそうだわ。人間は容姿じゃないとも思うけど、それはそれとして可愛いは正義でしょ。
「……よし! あなたたちに協力するわ。タルマレアから逃げるんでしょう? ここからはかなり離れているけど追手が来ないとも限らないし」
「いいの? 言っとくけど、国から追われてるしあなたたちも無事じゃすまないかもよ」
「言ったでしょう。私、見る目はあるのよ」
「この子は信じてるけど、この子の力がどうなってしまうのか分からないよ。忌み子っていうのも本当かも」
「信じるわ。あなたが私たちを信じてくれたように。その子が忌み子だったとしても、その子が悪いとは限らないでしょう?」
ああ、もう。どうしてこの美少女は。
「欲しかった言葉を言ってくれる……」
「なぁに?」
「いや、何でも」
これで裏切られたら立ち直れないだろうな。
◇
「改めて紹介するわね。こっちはベアール」
お辞儀をする熊男さん。名前もそれっぽい、最高。こっそりベアさんって呼ぼう。
「ベアール・カルグです。フェデリナ様の」
「私の部下よ!」
今、ベアさんの言葉遮らなかった?
「私たちはね、色々な国を旅してるの。シィスリーの人たちが困ってるって聞いてこの森に来たのよ」
「シィスリーを含め、グルイメアの森に隣接する三国で危獣の被害が相次いでいます。各国でグルイメアへの調査隊が組まれていますが、その支援といった形です」
ベアさん補足ありがとう。タルマレアの調査隊から聞いた話と矛盾しないな。
「私たちは余所者だし、第五指定区域の──しかも安全区域に近いところだけだけどね」
「じゃあここは安全なんだ」
「そうね。この辺で危獣が出たという報告はないわ」
少し安心した。あんな化け物と出会うなんてゴメンだからね。
「それでも立ち入るには霊力がないといけないのに、二人に全然霊力を感じないのはなぜかしら」
「違う場所から飛ばされたから……?」
「なるほど。それなら指定区域にいてもおかしくはないわね。ただ、転移の術はかなり高度だと聞くけど」
おお、何かファンタジーっぽい。テレポートも存在するんだ。いいな、使えたら便利なんだけどどうせ使えないんでしょ分かってる。
「それについては爺に聞いてみましょう。そろそろ戻ってくるはずだから」
「爺?」
「フェデリナ様の霊術の師匠であり専属の顧問です」
ベアさん解説ありがとう。無口そうに見えて結構喋ってくれるのね。
「フェデリナ様!」
「あ、ちょうどよかったわ」
遠くから美女を呼ぶ声が聞こえる。爺とやらか。
「爺!」
笑顔で手を振るオレンジ髪の美少女。その視線の先にいたのは、色黒スキンヘッドで白い髭を貯えた筋肉隆々の男だった。ベアさんよりは低いけど結構背も高い。
嘘でしょ。霊術の師匠とか言うからローブを纏った髭の長いよぼよぼなお爺さんを想像してたんだけど、全然違う。今まで出会ってきた中で一番フィジカル的に強そう。どう見ても武術の師匠でしょ。
「フェデリナ様、ただいま戻りました」
「お帰りなさい。爺、こちらアサヒとミレスよ。この森で倒れていたの」
「おお、それは大変でしたな。フェデリナ様のご慈悲に感謝するが良いですぞ。しかしさすがは」
「アサヒ! こちらはヘナロス、私の師匠よ。私のことは孫のように可愛がってくれてるの」
フェデリナ様、もしかして主張が強いタイプか? 言葉を遮られた爺が驚いていますけど。
というか師匠にタメ口で師匠が弟子に敬意を払ってるらしいけどどうなんだろう。爺と呼んでるしこの子やっぱり偉い人なんじゃ。ほら、爺やと姫みたいな。さすがにこんな危険な森にお姫様は来ないだろうけど。まあ姫とは言わなくてもどこかの令嬢かもしれない。いや令嬢も武器を持って戦ったり危険な場所にいないか。
「爺、二人は今大変なことになってて──」
美少女が師匠に事情を説明する。その間、手持ち無沙汰でミレスの髪を弄る。せっかく汚れを落としたのに土はついてるしごわごわだし。早く水浴びしたい。
そういえばフェデリナ様の髪の毛綺麗だな。この世界にもシャンプーとかあるのかな、あるならもらえたりしないかな。
「──というわけなの」
「ふむ」
フェデリナ様の説明を聞き終わって考えるように手を口元に宛てる爺。様になってるな。傭兵団の団長にお願い事をする美しい村娘にしか見えない。
「賛成はできませんな」
そんなことを考えていたら、爺からネガティブなコメントをいただいていた。




