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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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26.天国と地獄


「……遅くない?」


 安全区域に来て結構な時間が経っていた。夜を挟んで周囲が明るくなってからも、ローイン隊長やその他部下たちからの音沙汰はない。隊長の仕事が多すぎて大変なのかもしれないけど、一体どのくらいかかるのか。

 離れたところに兵たちの姿は見えるので、置いていかれたということもないだろうし。


「そういえばダズウェルさんもいないなあ」


 ここに来るまでダズウェルさんの監視があったものの、隊長と交代してからはずっと姿を見ていない。私たちを監視するって話だったのに、こんなに放置してて大丈夫だろうか。

 いつまでここにいるのかとその辺の兵たちに聞けたらいいんだけど、大体無視されるか避けられるのでダズウェルさんと隊長以外とはあまり話したくない。そもそも返事してくれないし。


「ミレスちゃんがもう少し喋ってくれたらいいんだけど」


 相変わらず驚くほど軽い幼女を同じ目線まで持ち上げる。


「隊長さんの話なんだけどさ、ミレスはどう思う?」


 じっとこちらを見つめる幼女。

 言葉は理解できるはずだし、自分の意思が全くないわけじゃない。今まで私の思いだけを他の人たちに示してきたけど、ミレスにとって押しつけになっていないとは限らない。


「……」


 口を小さく開くもすぐに閉じる。

 初めて会ったときよりも口数は増えているので今後も期待したいところ。


「いいよ、ゆっくりで」


 幼女の白髪を指で梳かす。ぎしつくこの髪、シャンプーで洗いたい。


「……ぃと」


「うん」


「ひぃ、と……」


 頑張って喋ろうとしている幼女可愛い。


「いっ、しょ……な、ら」


「……」


「……」


「……か」


 かわ……っ。


「可愛すぎんか!? どういうこと私と一緒なら何なの一緒なら他はどうでもいいってこと!? 天使か!!」


 やべっ。思ってること口に出ちゃった。


「……ん」


 小さく頷く幼女。

 何なのこの子。魔性すぎやしませんか。私を殺す気ですか。


「ミレスぅ~!」


 うんと甘やかしてあげたい気持ちでいっぱいだ。これ以上言葉にならない。

 ぐっとミレスを上に掲げる。陽の光に透ける白髪が綺麗。いつかヘアアレンジもやりたい。ツーサイドアップとか普通の二つ結びでもいい。


「絶対かわい、い──ッ!」


 いきなり何かが飛んできたと認識したと同時に、反射的に左腕を押さえた。ミレスが地に落ちる。


 痛い。腕が、焼けるように痛い。


 押さえた手の隙間から血が流れ出てる。


「ッぐ、ぁ」


 じくじくと傷口が痛むだけでなく、指先に力が入らない。徐々に感覚が鈍っていく。


 一体、何が起きた?


 何かが飛んできたときに聞いた音の先を見れば、背にしていた木に矢のようなものが突き刺さっていた。ただの棒じゃない、精製されたそれは人間が使うような武器だ。


 攻撃された? 一体、誰に?


 腕の痛みと痺れに耐えながら木の陰に隠れる。

 痛みのせいか出血のせいか、気分が悪い。思わず蹲ると、ミレスが心配するかのように顔を覗き込んできた。

 安心させたいのは山々だけど、そんな余裕もない。


 ここには調査隊の人しかいないはず。周囲を見渡せば、少し離れたところにいた兵たちがいない。

 矢の飛んできた方向を確認したいけど、また攻撃されるかもしれない。


 腕の痛みとともに嫌な汗が滲む。幸せな気持ちが一瞬で吹き飛んだ。

 しかも、今度は危獣ではない。確実に人間だ。

 暴漢に襲われたときよりも早く脈打つ心臓がうるさい。


 ダズウェルさんやローイン隊長に助けを求めようにも、下手に動いて居場所が捕捉されるかと思うと身体が動かない。それだけでなく、痺れが腕から全身に広がっていて身体的にも難しくなっている。矢に毒か何かが仕込まれていたのかもしれない。


 どうしてこんなことになっているのか。せっかく楽しい気分だったのに、どうしてまた危機的状況に陥っているのか。

 分からない。だって、ここは安全区域で、危獣はいなくて、矢で攻撃するような対象はいないはず。


 だとしたら、攻撃対象は、私たち──?


「っぁ、っはッ」


 必死に痛みと痺れを堪える。

 考えろ、考えろ。

 調査隊の人たちが敵意を向けてきた? 隊長たちの制止に反して? それとも、全く別の人間?


 状況が把握できず混乱していると、地面を蹴る音が聞こえてきた。


 誰かが、近づいてくる。まっすぐに。


「──っ」


 逃げないといけないのに、身体は震えるだけで動いてくれない。


 足音が、近くで止まる。


「──ああ、外れてしまったか」


 それは、聞き覚えのある程よい低音の声だった。


最後辺りで脳内にときめ●の導火線が流れ出す

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