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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
25/240

25.職と欲


「アサヒ、聞きたいことがあるのだけれど」


「はい?」


 ふらつく足を激励しつつやっとの思いで一旦の目的地へ着いたときだった。


 長めの休憩を取ると言った通り、周囲にも宣言し部下たちは解散している。気の緩みすら垣間見え、本当に安全な区域まで辿り着いたのだと安堵し、思いきり身体を休めようとしたのに。


 まだ何かあるのかと隊長を振り返れば、ここに座れと指差される。立ち話は体力的にも辛いので、指示された通り座った。


「君が部下を蘇生した件について」


「え? あー……」


「あの時彼は死んでいた。霊術も効かなかった。君にはほとんど霊力がないし、術を使ったようにも見えなかった」


 何と説明したらいいものやら。心肺蘇生法についての説明はともかく、そういうことまで覚えていてなぜ他のことは覚えていないのかと怪しまれても困るし。

 いっそ本当のことを話す? 実は異世界から来たみたいなんです、って? 馬鹿にはしなさそうだけど信じてもらえる要素が少ない。私自身、この世界に飛ばされた方法も理由も分かってないんだし。


「あれは心臓マッサージと言ってですね」


 とりあえず、その説明だけしよう。

 私の故郷でやっていたもので、勝手に身体が動いたこと、少しずつ思い出したことがあると話す。


「なるほど」


 理由やら方法やら一通り説明すると、隊長は感心したように頷いた。

 回数、深さ、人工呼吸のタイミング・方法、その他諸々の注意点などを真剣に聞いていた。

 何だこれ、BLS講習ですか。


「霊術を使えない人間でも行えるのは凄いね」


 私たち地球人はそんな能力持ってないですからね。


「でも霊力って凄いですね。大怪我も治癒できるなんて」


 何たって医者いらず。いや、この世界の医者が霊力とやらで治療しているのか?


「治癒術が使える人間は限られているし数もそう多くない」


「余計に隊長さん凄すぎないですか」


 この人、天から一物どころか何物与えられてるの?


「その分仕事も増える」


「なるほど」


 有能な人間に仕事が押しつけられるやつですね。初めてこの世界の人に共感できた。


「あの時は助けられたけれど、突然行うのはやめたほうがいい。君のいた国ではともかく、ここではまず理解が得られないだろうから」


「アッハイ、それはもう重々承知して」


 そう何度も突き飛ばされたくないからね。







「ん~!」


 大きく背伸びをして、ミレスと一緒に地面に寝転ぶ。時々吹くひんやりとした風と木々の間から差し込む光が心地良い。

 森の中には変わりないものの木々の間は随分広がり、今までより随分見晴らしがよくなった。ここなら危獣が現れる危険性もほとんどないらしい。

 このまま眠ってしまいそう。インドアの私が森林浴の良さを分かる日が来ようとは。


「はぁ、さっぱりした」


 調査隊の人たちと出会う少し前から水浴びができず、その後も川を見つけても顔を洗うくらいだった。だから隊長のご好意で水と桶のような器、バスタオルくらいの布をもらって全身さっぱりできたのはありがたかった。


「シャワーを浴びたいけど贅沢は言えない……」


 ──帰還の準備に少々時間がかかる。それまで汚れを落としてゆっくり休むといい。他の兵も距離を取らせよう。


 とは、イケメン隊長のお言葉だ。気遣いもできるなんてさぞかしおモテになるでしょうね。


 そんなわけでお言葉に甘えて簡易水浴びタイムをさせてもらった。

 さすがに全裸になるわけにもいかず、木陰でこっそり全身を拭いたり、服の汚れを落としたりするくらいだったけど。でも眼鏡についた汚れを落とせたのは本当に大きい。見え方が全然違う。


 ちなみにイケメンことローイン隊長は、水や布などの手配をしたあと、疲れを微塵も表に出さず仕事に戻っていった。

 何でも、安全区域にいる間に色々と報告を纏めたり部隊の再編成をしたりするんだとか。治癒術も疲弊するためある程度しか回復できてないみたいで、負傷者も多いし大変だね。過労で倒れないことを祈る。


 さて、まだ時間もあるみたいだし今後について考えますか。


 今のところ元の世界に戻りたいとかその方法を探したいという気持ちはほとんどない。色々ありすぎて大変だったけど、まだこの世界については知らないことが多すぎる。元の世界について考えるのは、もっと情報を手に入れてからでもいい。


 ひとまず大事なのは、衣食住。ここの国──タルマレア、やっと覚えた──が保護してくれるらしいけどどこまで保障されるのか分からないし。ここは身の安全の保障だけと仮定しておこう。

 何にしてもお金が必要だな。隊長たちが働き口を斡旋してくれたりはしないかな。さすがにそこまでは面倒見てくれないか。

 そもそもどんな職があるのかも必要条件も全く分からない。履歴書とか必要だったらどうしよう。というか身分証ないじゃん。


「あれ、詰んだ?」


 どこの誰かも知らない人間を雇ってくれるまともな職場はありますか。ブラックは嫌です。


「仕事か……」


 元の世界でもその職業でしか働いたことなかったからなあ。この世界では通用しなさそうだし、そういった職種があるのかも謎だ。

 ぱっと思いつく一般的な職業がOLとかサラリーマンだけど、具体的な仕事のイメージが湧かない。受付、印刷、資料作成、会議、営業など断片的な情報は漫画でよく見るけど、実際何をしてるのか知らないし、一日中デスクワークとか無理。まあこの世界に電子機器とかなさそうだし、デスクワークは少ないか。

 かといって、よく小説や漫画、ゲームなどで見るような、ギルドに登録して冒険者や商人! 騎士団入団! みたいなのも無理。ミレスの力は凄いけど、私が戦えるわけじゃないと今回はっきり分かったので。こんなので戦いの場に出ても迷惑極まりないだけだし命がいくつあっても足りない。


「もしかして私って無能……?」


 いや、何かあるはず。この世界ならではの職で、私に合ったものがあるかもしれないし。

 あ、接客業ならいいかもしれない。学生の頃にファミレスのバイトしたことあるし。文字が分からなくても通訳機能で会話はできるし、メニューの字くらいなら覚えられそう。


 何となく今後のビジョンが見えてきた。

 すぐに働く場所を探して、最悪路上生活でもしてお金を稼ごう。身分証明についてはどうにかローイン隊長にお願いする。お金が貯まったら家を借りて、少しずつできる贅沢を増やそう。そしてミレスに可愛い服を着せる。

 よし、これだ。


「……ぃ」


 あー、このままミレスを連れて現実世界に戻れたらなぁ。そこそこ貯金はしてるしそれなりにいい生活を送らせてあげられるんだけど。

 帰ってきたら幼女のいる生活、やばくない? えっ最高すぎない? 今初めて誰かが家にいて迎えてくれることの喜びを垣間見た気がする。恋愛なんて塵ほども興味なかったけど、そういうこと? これが、人に尽くしたいって気持ち……?


「……ひぃ」


「……え!?」


 自分でも気持ち悪いくらいの妄想と愉悦を覚えていると、今度は現実の本物に引き戻された。


「えっ何、今、呼ばれた? ミレスちゃん?」


「ん」


「どうしたの?」


「ん……ん」


 小さく首を振る幼女。

 意味が分からなくて可愛すぎる。どういうこと? 呼んでみただけってやつ?


「可愛すぎんか──!?」


 思った以上に大きい声が辺りに木霊した。


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