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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第五部 厄難
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27.目論見



 推定エントランスに戻るとノマくんが待っていた。こちらに気づいて走ってくる。


「何か見つかりました?」


「うん。この人たち寝かせたいんだけど、使えるベッドある?」


「こっちです」


 ノマくんについていった先には、簡易診療所のようにいくつか並ぶベッドがあった。

 三人を寝かせ、ノマくんと情報交換をした。私たちが逆ホラー体験をしている間、この城なんだか家なんだかをさらに調べてくれたらしい。人の手が入っているのは一階の一部で、二階はそれはもう荒れ果てているそうな。この家族が住むために最低限の場所を綺麗にしていたのかな。

 とりあえず、まともに会話するためにも多少元気になってもらわないと。


 その場をノマくんに任せて、町まで食料を調達しに行った。露店は串焼きとか元気な人向けのものしか見当たらず、テイクアウトできる店もなかなか見つからなかった。後者はクレームを避けているためらしい。以前からケチをつけて返金を迫ってくる輩が多かったんだとか。

 どうにか見つけた町の外れにある小さな店で、料金を上乗せして煮物やスープを買えた。ちょっと味見したら結構おいしかったんだけど、正直こんな町には住みたくない。

 さっさと用事を済ませて立ち去ろう。そう思いながら古城に戻ると、意外にも父親らしき男性が目を覚ましていた。


「あ、あの……」


 顔色は悪そうだけど、さっきよりはマシに思える。

 掠れた声で謝罪と感謝の嵐を受けながら、食事を摂ってもらった。眠くなっても困るのでひとまず腹八分目で止めてもらい、事情を聞くことに。


 ここは曰くつきの場所で誰も近寄ろうとしない。実際は特に何かあるということもなく、造りのしっかりしたこの城のような家で過ごすことにした。ただこの辺りでは食せるような実は成らず、大した動物もいない。いたとしても狩ることができなかっただろう。文字通り泥水を啜って生きていたものの、遂に限界を迎えた。


 そんな話を時間をかけて聞いた。この周囲はヒスタルフよりも貧民街の状態が酷いみたいだ。それにエコイフがあんな対応では、もっと上もたかが知れているに違いない。


「曰くつきっていうのは?」


「昔、ここの主人だった方やその親族が次々と亡くなっていったと聞きました」


 よくある話だね。呪いだ何だってことでしょ。だからエコイフのやつもあんな場所って言ってたのかな。


「ま、事情は分かりました。二人が起きたらご飯食べさせてあげてください。私たちも用事が済むまでここにいますし、それまでは仲良くしましょ」


「え……? 二人が目を覚ませばすぐにでも出て行きます! それまでは置いてもらえると……」


「定住するつもりないのでいいですよ。元気になったら掃除でも手伝ってください。寝室と調理場、浴室くらいは綺麗にしておきたいし」


「そ、そんなことまでしてもらう訳には……!」


 慌てて立ち上がるお父さんを座らせ、ここに来た目的を端折って説明した。私たちはそのうち出て行くけど多分ルガリスたちはここに残ること、その世話をしてもらいたいこと、代わりに衣食住の保障をすることを話した。こちらとしてはせっかく土地を買ったんだし研究の拠点としてしまいたい。

 最低限の生活を営むための対価として待遇を受け入れてほしいとお願いすれば、お父さんは泣きながら了承してくれた。ヘンテコンビはどこでも生活していけそうだし、わざわざここを指定したくらいだから責任を持って居残ってもらおう。

 そういえばここって買い切りなんだろうか。土地を買ったら税金とかかかるものだと思っていたけど。


 そうして埃っぽい部屋で一夜を明かし、昨日と同様に掃除に精を出していたとき。ふとした疑問の返答が目の前にやって来た。


「毎期、三赤二黄を支払えと書いてますね」


 態度の悪い男が投げ捨てるように持ってきた手紙を読んでくれるノマくん。いつもへらりと笑っているのに真顔で怖いんだけど。

 それにしてもやっぱり税はあるのか。住民税とか固定資産税とかあるだろうしそれ自体は別にいい。ただ、多少ムカつくだけで。

 ここを買ったときといい、昨日といい、態度がいただけない。昨日二回目の物資調達に町に出掛けたら、すでに私たちがここを買ったことが知れ渡っていた。そしてあんな土地にいる人間に売るものはないと拒否され続け、ようやく最後に最低限の食料だけ買うことができた。それも三人家族に渡すためにテイクアウトした店で、私たち相手に商売したことを詰められて閉店に追い込まれているらしい。もちろんそれだけが理由じゃないみたいだけど、気分が悪い。

 そういうことがあってからのこの手紙。どうしてくれようか。


「継続して払えない額じゃないし大した使い道もないからいいけど、ねえ」


 どうせなら目に物見せてやりたい。


「はんげきの、のろし」


「上げてやろうじゃないの」


『わ~』


 そうと決まれば早速行動あるのみ。


「ノマくん、ここは任せた」


「了解っす」


 ローイン隊長は準備だとかでヘンテコンビに連れていかれたから、暇を持て余しているであろうダズウェルさんにも掃除や補修作業を手伝ってもらうとして。何か名物的なものがないかこの辺を探索しよう。こっちが悠々自適に暮らしているところを見せつけてやる。







 薄暗い小屋の中、横たわる男を前に口角を吊り上げる大小二つの影。


「やっとやんなぁ」


「ウむ。マぁソチはアレらに興味があると思ったがな」


「そりゃぁそうやけんど、大人しくしてんとは思えんし。無駄な体力は使いとぅない」


「ソレは同意だな!」


 いくら興味があっても抵抗されて戦闘となれば面倒だ。それなら抵抗しない相手を対象としたほうが楽に決まっている。半霊半魔とその主にはかなり興味がそそられるところではあるが。

 そんなことを考えながら、乱れた長髪の男──ルガリスは、目の前の人間に触れた。


「……ふぅん」


「どうだ」


「どっかに魔力が癒合しとうね。こん人が何歳か知らんけんど、結構前やろうね。普通のん人間なら死にとうなるくらい苦痛やろうけんど」


「緩和しているのが術のお陰っつーことだな」


「んぃ。多分最初は無意識やったんやろうね。少しずつ霊力のん結びつきができて、強力に──複雑になったんかな」


 離れていても双方の結びつきを感じることができる。術が失敗しているにも関わらず、だ。


「ソレにしても五日とはよく言ったな!」


 シーヴェルドの上を浮遊しながら精霊が笑う。


「せっかくやき色々調べたいやんか」


 ルガリスはさも当たり前という態度で、シーヴェルドの服を捲った。


「うわぁ……」


 綺麗に整った顔と違い、服で隠れた部分に残っていたのは痛々しい傷痕。戦いの中で負ったとは思えないような痕もある。むしろそのほうが多いとすら思えた。


「こん人、意外と大変やったんやね」


「ソチも大概だと思うがな!」


「ワスは、まぁ……ん?」


 会話をしながらもシーヴェルドの身体を調べていたルガリスは、霊力の流れが歪な個所を見つけた。


「……あ、あー……」


「ナンだ!」


「っすー……ん、師匠には分からん痛みがあるんよ……」


 元々青白い顔がさらに白くなっていく。ルガリスはその場に蹲ると、震える声で小さく呟いた。


「こ、こわぁ……」


「分かるように説明せい!」


「師匠には一生分からんよ。人間のん男に入ればよかったんに」


 もし自分がその立場だったらと想像するだけで怖い。泣きそうになりながらルガリスは違う実験に取り掛かるのであった。


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