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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第五部 厄難
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18.寄り道 後編


 せっかくなのでミレスちゃんとお揃いになりそうな服を選んだ。白をベースにしたシンプルなワンピースで、差し色に黄色。

 いつもなら絶対に買わないし自分には似合わないだろうなと思っていた系統だけど、誰もそんなこと気にしないよね。ここに住む訳でもないし。

 それにスカートタイプだと足元が落ち着かないと思っていたけど、少し慣れれば暑いからか解放感がある。たまにはこういう服を買ってもいいかも。


 ちなみにノマくんにも半ば強制的に軽装に着替えてもらった。一人だけ軍服だと浮くし、見ていて暑苦しいからね。これなら歳の離れた姉と弟くらいには見えるはず。

 いや、この世界では幼く見られがちだから友人くらいかもしれないけど。


「次はどこに行く?」


「演劇や美術展もありますが、あまり興味ないですよね」


「そんなことないけど、せっかくだからここならではのとこがいいかな」


 この街は商業が盛んということで、ぶらぶらと街を散策しながら露店を見たりデザートを食べたりした。さすが流行の最先端、スイーツもたくさんあって目移りしたほど。ノマくんは甘いものはそんなに好きじゃないようで、ちょっと呆れ気味だったけど。

 可愛いアクセサリーなんかも買ったりして、完全に浮かれていた。久々の遊びを満喫してテンションは高かったし仕方ない。


 国内であればレンタルした服は返却できるそうで、借りた服のまま最初の街まで戻ってきた。陽も沈んできたところで、あの塩湖のような場所へ再び訪れた。

 予想通り、とても綺麗だった。オレンジを反射してきらきらと光る水面は宝石や金塊のようにも見える。これが夜ならきっと幻想的なんだろう。


「ここ、気に入ったんですね」


「うん。あんまり景色に感動することってなかったから」


 休日は仕事で疲れて寝ているかゲームやネサフばかりだった。引きこもり生活を脱した今、こんなことで感動するのかと驚きもある。

 大自然を前にすると自分の悩みなんてちっぽけに思えてくる、なんてよく聞くけど、まさか自分が体験することになるとは思わなかった。


 よかった。多くの人が死ななくて。

 よかった。あれ以上二つの国が争わなくて済んで。


 こんなにもこの景色が綺麗に見えるのは、感傷的な気分になっているからかな。

 フョヌイとフェスンデを回っている間、暴言を吐かれたこともあったし、石を投げられることもあった。全部ミレスちゃんやローイン隊長たちが庇ってくれたけど、それでも人に敵意を向けられるというのは結構堪えるものなんだなと実感した。

 この世界に来た時は、ミレスちゃん以外どうでもいいって思っていたんだけどな。


「ノマくん、あれもう一回やってもいいよ。願い事叶えるやつ」


「えっ」


「今、幸せをお裾分けしたい気分だから。ノマくんも幸せになるといいよ」


「あ……」


 なぜか固まるノマくん。逆光になっていてその表情は読めない。

 こちらが差し出した手をノマくんが掴もうとして──黒い枝に叩き落とされた。


「いって!!」


「だめ」


「痛いっす!」


「これいじょうは、だめ。おおくをのぞむな」


 ちょっとミレスちゃん、怖いよ。


『もう願いは叶ってるんじゃないかなぁ』


「ん?」






 

 ミレスちゃんとノマくんが意外といいコンビなのかもしれない。などと思いつつ、服を返却して見慣れた服装に戻った。陽が落ちて涼しくなってきたとはいえ、いつもの格好が暑苦しく感じる。食べ過ぎてお腹も苦しいし。

 短時間だったのに、いかにワンピースが楽かを知ってしまった。今後の買い物の選択肢の中に確実に加わったな。


 ちなみに夕食は露店で食べ歩きをした。あの二人とも一緒に行く予定だったけど、すっぽかした。というか忘れていた。

 ノマくんは覚えていたみたいだけど、「皆さんが楽しそうでつい」と言い出せなかった様子。あの人たち上司だよね? そんな扱いで大丈夫?

 当の本人たちには怒られることもなく、「無事だったのならいいよ」と言われてしまった。嫌味なのか区別はつかないけど、まあよしとしよう。どうせそっちはそっちで好きにやっていたんだろうし。


 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、明日はここを出発する。もう少しゆっくりしていたいところだけど、一度ヒスタルフに戻ってみんなに会いたい。


 今日は早めに寝ないといけないのに、胃もたれのせいでまだ寝つけそうになかった。もう若くないのに無茶をしてしまったな。

 いやでも本当においしかった。ここの海鮮系料理はまた食べたい。いつかもう一回来よう。

 そんなことを考えながら夜風に当たろうとバルコニーに出た。

 ここは宿泊施設も充実していて、今回はコテージだけどもっと豪華なヴィラもあるみたいだから、今度はオルポード一家も連れて来たいな。テア様とエメリクは忙しいから無理かな。


「みんな元気かな」


 手紙のやり取りができるように、文字の勉強もしようかな。いつまでも誰かに頼ってばかりではいけないし、こういう時に困るよね。

 常に勉強しなければいけない仕事だったとはいえ、学校で習うような基礎から勉強するのは何年ぶりだろうか。途中で投げ出さないようにしないと、なんて考えていると、外に誰か立っているのが見えた。こちらを見ている気がする。


「ノマくん?」


「少し歩きませんか? この近くに見せたいものがありまして」


 軍人ってずっと軍服のままなのかな。まあ敵襲に備えておかないといけないんだろうけど。大変だね。

 それにしても見せたいものって何だろ。


「ちょっと待ってて」


 昨日のことで慣れたのか薄着のことには言及されなかったな、と思いながら一旦部屋の中に入る。

 満腹でぐっすり眠っている二人を起こさないように上着を羽織って部屋を出た。ミレスちゃんもちゃんと睡眠を取っているみたいで安心だ。


「近くだからいいよね」


 この周囲には他に人は泊まっていないみたいだし。静かな場所を選んでくれたことについてはローイン隊長に感謝だね。


「ヒオリ様」


 コテージを出てすぐ、ノマくんに手招きをされて近づく。


「わ」


 そこには、淡いピンクの光を纏った白い花が咲いていた。花にはあまり興味がなかったけど、これは綺麗だ。


「帰ってきたときには気づかなかったのに」


「夜にだけ咲く花らしいです」


「なるほど」


 月下美人とかヨルガオみたいなものか。

 それにしても綺麗なものだ。幻想的な景色がここでも見られるなんて。本当に観光地にはうってつけの場所だね。


「見せてくれてありがと」


「いえ。喜んでもらえたならよかったです」


 しゃがんでそっと花に触れると、ほんのり温かさを感じた。発光しているのは霊力だろうか。

 あの塩湖もかつては精霊に愛された場所らしいし、そういう土地柄なのかも。これでミレスちゃんが吸収できる霊力でも魔力でもあれば最高なんだけど。

 まあそんなの贅沢だよね。あっという間の二日間だったし、これだけ楽しめたら十分。


「ノマくん、本当に色々とありがとね。楽しかった」


「はい。僕も──最期に喜んでもらえてよかったです」


「え?」


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