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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第五部 厄難
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16.寄り道 前編



 しっかりと休息も取れ、シィスリーに向かって再び出発。そのまま直帰する予定だったけど、途中で目的地が追加された。ひたすらキィちゃんに走り続けてもらうのも忍びないので、休憩も兼ねていくつか観光地を回ることにした。これはノマくんからの提案で、情報収集しているうちにゲットした人気スポットなんだそうな。


「毎日毎日淡々と任務をこなすだけですからね。たまには息抜きできないと」


「大事大事」


 ノマくんがいて初めて人間味を帯びるんだね、このチームは。残りの二人は観光とか興味なさそうだし。


「それに観光地のほうが敵から狙われにくいっす」


「ああ……」


 何と切実な理由だろうか。

 というか敵ってどっちのだ。まさかこの人たちを狙う輩に襲われる可能性もあるのか。結構あくどいことやってたみたいだしなぁ。

 まあどんな敵がやってきてもミレスちゃんにお任せあれってね。


 そんなこんなでやってきたのはリーラメルキュという国。人気観光地の中でも穴場みたい。隣の国の方がより栄えていて大国の貴族も来るような避暑地だから、みんなそっちに行くらしい。あまり人が多くても疲れてしまうからちょうどいいね。


「こっちです!」


 入国審査も終えてノマくんの案内に従う。何だか嬉しそうだし、楽しみだったんだろうな。

 ローイン隊長、部下にしっかり休み与えないと離反されちゃいますよ。ま、その方がこっちとしてはありがたいけど。いざとなればノマくんを買収できるし。


「ここです」


「わ……」


 ノマくんが示す先には、辺り一面に広がる青。空の色を反射しているそれは湖だろうか。


「これ、ちょっと入っても大丈夫かな」


「はい。濡れますけど……手を」


 ノマくんの手に掴まり、そっと足を下ろしてみる。意外と浅い。勝手に浅瀬のようなものを想像していたけど、下は硬く氷のようだった。覗き込んでもまるで鏡のように自分の顔が映るだけで、その下がどうなっているのかは分からない。

 キラキラと光るその水面に触れる。


「あったかい」


 硬い表面の上に漂う水はぬるい温泉のようだった。水はとても澄んでいて、この世界の水事情を考えれば貴重な場所だと思われる。


「綺麗……」


 一度ウユニ塩湖とか行ってみたかったんだよね。色々とハードル高くて諦めていたけど。

 こういう景色を楽しむのもいいものだね。今までは引きこもってネットやゲームに勤しんでいたけど、そんな娯楽もないここではいい趣味になりそうだ。

 最初は興味深そうにしながらも今は水遊びをしている幼女と霊獣を見るのも楽しい。何という癒し。全く関心がないと言わんばかりに別行動をしているあの二人にも見習ってほしい。


「それにしても、人いないもんだね」


「この周囲にも危獣の出現が確認されたみたいですからね。不用意に出歩かないようにしているのかと。ここの人間にとっては見慣れた場所で、ただ暑いだけでしょうし」


「なるほど」


 いい天気だからこんなにも綺麗に見えるけど、確かに暑いもんね。日焼け止めなんてないからあとで大変なことになりそう。


「じゃあそろそろ──」


「あ、あの」


「ん?」


「これを」


 差し出された掌には何もない。ただ、何だか温かい光が舞って、身体に降り注ぐ。

 これは、ノマくんの霊力?


「かつてここでは精霊石が多く採れ、精霊に愛されている土地だったそうです。ここであることをすれば、願いが叶う、とか……」


 尻すぼみになっていく言葉と赤くなっていく顔。

 え、可愛い。ノマくんジンクスとか信じるタイプなんだ。


「で、願いって?」


「そ、それは言えないっす」


「ふーん……まあ言葉にしたら叶わないとか言うしね」


 さすがに私たちを害するような願い事じゃないでしょ。多分。

 でもノマくん、人の生死に無頓着そうだし笑顔で拷問するくらいだからな。どうしよ、笑顔の裏で怖いこと考えてたら。


「ヒオリ様、行きましょう」


 血に染まったこの手が、こっちに向かないことを祈るばかりだ。







 お昼は一緒に食べようと約束していた二人と合流することに。ここもノマくんお勧めの店らしい。

 中に入ると、先に食事をしていた二人を見つけた。テーブルの上には積み上がった皿。何だその漫画でしか見ないような数は。フードファイトでもしてんのか。


「ヒオリ様を──女性を差し置いて先に食べるなんて!」


「まあまあ」


 あり得ないと憤慨するノマを宥めながら席に着く。

 とてもいい匂いだしどれも美味しそう。これは期待できる。


「君たちの分も頼んでいるよ」


 ローイン隊長の言葉とほぼ同時に運ばれてきた料理たちに目を奪われる。

 茶色だ。原色が多いこの世界では貴重な、見事な茶色い料理だ。


「いただきます」


「ます」


『わーい』


 まるでローイン隊長たちに対抗するかのように勢いよく食べ始めるミレスちゃんと、相変わらず肉以外はアウトオブ眼中のキィちゃん。そんな二人を肴に、一口放り込む。


「ん……!」


 うまい……!

 何だこれ。薄いせんべいに挟まれサクッとしたかと思えば中身はエビのようなぷりっとした食感、またさらに中からじゅわっと流れ出る肉汁はほんのりキノコ風味。上にかかっているのはお好み焼きソースに近い。この説明だけだと全然美味しさが伝わらないと思うけど、全てがいい具合にマッチしていて感動すら覚える。今までは素材の味を活かしました! カッコ活かされているとは言ってないカッコ閉じみたいな料理が多かったから、思わず笑みが溢れるのは致し方ないというものだろう。

 他の料理も全体的にシーフードのようで大変満足。魚以外も食べられるなんて、ここに来てよかった。


「喜んでいただけたなら何よりです」


 へらりと笑うノマくんに、そこまで分かりやすかったかなと少し恥ずかしくなった。

 いやでも、美味しいものは美味しいんだもの。ミレスちゃんとキィちゃんも満足そうだし。


「君たちの身体のどこにこの量が入るのか、気になるものだね」


「永遠の秘密ですよ」


 というかあんたたちだって相当な量食べてるよね。まああれだけ鍛えていれば燃費も悪くなるか。


「ん~、お腹いっぱい!」


「さて、次に行きましょう」


 昼食を終えると、ローイン隊長とダズウェルさんはまたどこかへ消えてしまった。観光地で観光せず一体何をやっているのやら。

 私たちはまたノマくんに案内されるがままついていくことに。少し遠いみたいだけど、食後の運動だと思えばね。


「……とは、いえ……」


 ちょっと遠すぎでは?

 かれこれ二時間くらいは歩いている気がする。この直射日光降り注ぐ中、平然としているノマくんはやっぱり軍人なのだと痛感する。鍛え方が違う。

 いや、やっぱり汗一つ掻いてないのおかしくない? 本当に人間か?


「うう……」


 つらい。キィちゃんにお願いしたいところだけど、少ない数の歩行者やヒスロ便が通っている。目立つのは避けたい。道はこの一本だけらしいし。


「ヒスロにでも乗ります?」


「乗りたいのは山々なんだけど、荷台はちょっと……」


 ヒスタルフへ向かう道中を思い出す。身体の節々を負傷したあの地獄を。

 でもさすがに足が痛くなってきたし、何より暑くてしんどい。これでは熱中症になってしまう。

 うんうんと唸る私に、ノマくんがとある提案をしてきた。


「ヒオリ様がよければ、っすけど」


 そうしてやってきたのはヒスロ貸し出し屋。観光地ということだけあって、ヒスロやヒスロ便の貸し出しをしているらしい。レンタサイクルありがたい。

 もちろん一人でヒスロに乗れる訳がないので相乗りすることに。

 あの二人ならともかく、ノマくんとの身長差だと揺られた時に私の頭がノマくんの顎にクリーンヒットし兼ねない。ということで、ノマくんの後ろから抱きつく形に落ち着いた。密着しないと怖いから、幼女と霊獣は私の背中だ。


「そ、そんなに力を入れなくても」


「え、怖いじゃん」


 そのくらい我慢してよ。そりゃ一回りくらい歳が離れているようなアラサーに抱きつかれても困るだろうけど。


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