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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第五部 厄難
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15.真夜中の雑談


「ヒオリ様ー! お元気でー!」


 町の人たちが頭を下げる中、大きく手を振る少年。負傷者たちのいたボロ屋で片腕を怪我していた子だ。今ではクラメントさんの仕事を手伝っているらしい。

 クラメントさんも領主として受け入れられてみんなといい関係を築けているみたいだし、これからも頑張ってほしい。


 きっと、大丈夫。フョヌイもフェスンデも、これから前を向いていける。信じてるからね。


「さて、これからどうするんですか? ヒスロもいないし」


「ノマくんは初めてだったね」


 ヒスロでシィスリーに戻るにはスピード的にも体力的にも忍びない。そうすると方法は一つ。


「キィちゃんに乗って、三人は簀巻きね」


「何ですか、それ」


「じゃあ舌噛まないようにね。キィちゃん、ミレスちゃん、よろしく!」


「ん」


『は~い』


「え、な」


 巨大化したキィちゃんに跨ると、黒い枝が四方に伸びる。特にリアクションもない二人と驚くノマくんの身体をしっかり掴んだところで。


「しゅっぱつ」


『しんこ~』


「う、ぁぁぁぁああああああっ!」


 ああ、これこれ。欲しいのはこのリアクションよ。やっぱり最初は洗礼を受けなきゃね。


「うっ、うぅ……酷いっす……」


 黒い枝に解放されたノマくんが青い顔で蹲る。

 途中でキィちゃんがスピードを上げ、ミレスちゃんも黒い枝を大きく揺らしていた。その状態のまま走り続けていたから、ハリのときより酷かったと思う。絶対二人とも楽しんでたよね。なんちゃって加護が働いてて本当によかった。

 そしてやっぱり二人はノーダメージか、と思いきや、木に手をついているところを見るとダズウェルさんも多少はダメージを受けているらしい。一番ダメージを受けて欲しい人は平気そうなのが残念。


「陽も暮れてきましたし、今日は近くの町に泊まりましょう」


 ノマくんが回復するのを待って、宿を取った。食堂で夕食を済ませてさっさと部屋に引きこもることにする。

 フョヌイとフェスンデ国内を回っているときはゆっくり寝ることができなかったから、ようやく熟睡できる。嬉しい。恋しかったよ、ふかふかのベッド。


「はぁ……」


 心行くまで湯船に浸かって疲れを取り、さあいざ天国へ! と思っていたのに、なぜか眠れない。身体はまだ疲れていて、頭も重いのに。

 逆に眠れないなんてどういうこと。


「お風呂上がりにコーヒー牛乳かフルーツオレが飲みたいのは事実だけど」


 一度考え出すと目が冷めてしまった。

 上半身を起こせば、気持ちよさそうに寝ているキィちゃんと死んでいるのかと心配になるくらい身動ぎしないミレスちゃんが視界に入る。いつも私の方が寝るのが早くて起きるのも遅いから、ミレスちゃんの寝顔を見るのは新鮮だ。寝ていても可愛い。


 二人を起こさないようにそっとベッドから下りる。上着を羽織って、ベランダに出た。

 夜空を見上げても星は見えない。そういえば、月や太陽はあるみたいなのに星を見かけたことはないな。


「あ、ヒオリさ──ま゛っ!?」


 隣のベランダに人影が現れたと思ったら、酷く驚かれた。誰かと思えばノマくんだ。


「何て格好しているんですか!」


 あ、この世界の人たちからしたら薄着だったか。足を見せるなんてとんでもないって感じだったし。

 世の中──いや異世界か。別の世界では家の中を裸で過ごしている人もいるなんて考えもしないんだろうな。


「ごめんごめん。見たくないもの見せちゃって」


「そういう問題じゃないっす!」


 なぜか青くなったり赤くなったりしている顔が分かるくらいに近づけば、目を逸らされた。距離が縮まれば足元が見えないと思ったんだけどな。

 大して大きくもない胸元を隠すと、ノマくんはようやく諦めたように上を見上げた。そして溜め息を吐く。


「寝ようと思ったけど意外と眠れなくてさ。ノマくんはどうしたの」


「ああ……やっと一息つけるなぁと思いまして」


「あの人たちと一緒だと大変そうだもんね」


「そりゃあもう」


 笑うその表情に苦労が滲み出ている。


「他国での捕虜の尋問、反逆者や捕縛者の処刑、異民族の追放、小国の取り潰し……しかもそれが正しいのか分からない状態で……それから残党や関係者からの襲撃を返り討ちにしたり……」


 わー。まさに悪役汚れ役って感じ。


「あの人、それだけやっててもタルマレアから嫌われてるみたいなこと言えるんだ?」


 押し付けられているようなことも言っていたから、ただ嫌な役回りをさせられているだけかもしれないけど。


「レノロクの命が安く見られているのは確かなんでしょうけど、意外だったんですよね」


「というと?」


「王妃様に寵愛されていたみたいなんで。他にも国の重鎮の私室に出入りしているって話も聞きましたし。しかも複数」


「……愛人ってこと?」


「さぁ、そこまでは。ただ性別関係なく身体で取り入ってるとは言われてたっすね」


 うーん、聞きたくなかったなその情報。話題を広げたのは私だけど。

 まさか、表情筋が死んでるのはグルイメアでの一件以降お偉いさんのいいように──やめやめ。いくらあの人だからって勝手な想像はよくない。


「まぁそんなことしなくても、レノロクなら力でどうにでもできると思いますけど」


「それは同意」


 人間にしては強い部類だろうし。ガヴラやヲヴェリア族長とどっちが強いかな。

 何にしろ、うちの子には勝てないだろうけど。


「ノマくんは家族とかいないの? その地獄の虐めツアーには強制参加させられたんだよね」


「僕、孤児だったので。仕事ができなければ生きていけない中、唯一入れたのが軍でした。戦うことができれば誰でもいいような感じでしたからね。タルマレアはすごくいい国とは言えないっすけど、その点は感謝してます」


「へー、大変だったんだね」


「実力さえあればそれなりに評価もしてくれますし。そのせいでレノロクの監視役に任命されて今に至っているわけですが。まぁニンセグ優先とはいえ僕のことも守ってくれるので、仕事を投げ出すほどじゃないっすよ」


「そうなんだ」


 タルマレアは実力主義で、それに見合ったノマくんをローイン隊長たちと組ませているのか。話からして人質に取れるような人もいないみたいだし、利害関係で成り立っている。この前はあの人抜きで交渉できたくらいには現金。いざとなれば買収できるか。


「タルマレアにいい関係の子とかいなかったの? それなりのポストにいたんならモテたんじゃない?」


「仕事ばっかりでそんな余裕なかったっすよ……それに、食べていけるとはいえ給金が特別によかったわけじゃないですし」


 日本でこのくらいの歳なら勉強したり恋したり、部活やサークル活動したり、青春しているんだろうけどなぁ。やっぱり文化の違いを感じるね。


「じゃあ各地を回っているときに偶然いい子に出会うとか」


「レノロクたちといてそんなことしてる暇あると思います? それに適齢期の人は大体結婚してますよ、余程理由がない限り」


 胸に刺さる言葉をどうもありがとう。

 いいんだ、ミレスちゃんがいれば。結婚なんてしなくても。


「僕、年上の方が好きですし」


「え、そうなんだ」


 ちょっとテンションが上がる。まさかこんなところで恋バナができるとは思わなかった。


「今までタイプの人とかいたんじゃない?」


「そりゃあまぁ、少しくらいは……」


 段々声が小さくなっていくノマくんが可愛く見える。

 何だかんだ言って若いなあ!


「で、どんな人だったの?」


「話していて楽で、気負わなくてよくて……軍人ってことも理解してくれてますし」


「中身に惚れたのかー。気が合うって大事だよね」


「き、気になるっていうくらいで別に……ただ、子どももいるみたいですけど」


 まさかの子持ち。人妻か?


「不倫はダメだよ」


「相手はいないみたいっす。そもそも興味なさそうだし……というか、ヒオリ様こそどうなんですか? 聖女様だから結婚しないんすか」


「私にはミレスちゃんがいるからいいんですー。聖女じゃないし煩悩まみれよ」


 ふかふかのベッドで一日中のんびりしたり、ミレスちゃんに可愛い服を着せたい。一生そんな生活を送りたい。


「そういえば本当に私たちについてきて大丈夫なの? 例の裏方任務、まだあるんじゃない?」


「次の指令が来てないんで、いいんじゃないですかね」


「ふーん。結局、あの人が何を考えているのか分からないままか」


「僕にもレノロクの考えは分かりませんけど、ヒオリ様たちに会えてよかったとは思ってるみたいっす」


「そういや会議のあとに気持ち悪いこと言ってたな」


 あれも何か企みの一つだと思うんだけど。

 こんな境遇に追い込まれた原因となった私たちへの復讐──ではないか。あのままマスガンを制圧していたほうが私へのダメージになるだろうことは分かりそうなものだし。

 やっぱり隙をついて私たちに何かしようとしているとしか思えない。


「まー考えてても仕方ないか。一般人の私にはどうにもできないし。冷えてきたし寝るね。おやすみ」


「あ、はい」


 手を振り部屋に入ろうとすると、俯いていたノマくんが勢い良く頭を上げるのが見えた。


「あ、あの!」


「ん?」


「ヒオリ様──い、色仕掛けとか、できると思います」


「はあ?」


 変な顔しながら何を言っているんだか。疲れすぎておかしくなったのかな。それとも私が薄着だからか。


「一番向いてないやつだよ、それ」


 眠くなってきたからか、相手がノマくんだからか、セクハラ染みた言葉も気にならなかった。


「ノマくんもゆっくり寝なよ~」


 二人を起こさないようにそっとシーツに包まれば、一気に睡魔が襲ってきた。

 ノマくん、割といい身体つきしてたな──なんてどうでもいいことを考えていた私がいなくなったベランダで、当人が赤い顔をしていたなんて知る由もなかった。


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