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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第五部 厄難
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8.不審なプレゼント



 キィちゃんに怪我人の治療をしてもらったあと、領主であるクラメントさんの家で休ませてもらうことになった。取り壊し予定の小屋にいた人たちの治療もあって疲れたようで、食事もそこそこにキィちゃんは寝てしまった。ここ数日長距離移動ばっかりだったしゆっくり眠れるといいんだけど。


 クラメントさんは軽傷だったものの先ほどの後処理で色々と大変みたいだった。まず顔を認識してもらうことからだから余計に大変だよね。

 忙しいところ申し訳ないとは思いつつ、皆殺し云々は省いたローイン隊長からの申し出も伝えた。もちろん、私たちが間を取り持つことを希望した。

 当たり前だよね。みんな死ぬか和平かなんて、後者に決まっている。本当は考えるまでもないんだろう。

 二つの国の人間の命と、私の我儘。天秤に掛けるまでもない。


 静かに暮らしたい、という願望はもう今もこれからもちょっと無理そうだからいい。行く先々で聖女扱いされるだろうことはある程度我慢できる。ミレスちゃんとキィちゃんの力を考えると天上人扱いも仕方ないというもの。

 だけど、今回は違う。国の問題に関わることだ。責任重大なんてものじゃない。いくら小さい国だろうと二カ国を取りまとめるなんて無理だ。異世界から来た一般人にどうにかできるレベルじゃない。

 でも、大勢の人を見殺しにするなんてこともできない。


「……はぁ」


 いっそさっきあの人を仕留めていれば、こんな物騒な話にならなかったのでは? ダズウェルさんも記憶がないのならあの人がいなくなってもそんなに憤ることもないかもしれないし。

 そうしたらこの国は……ずっと争い続けることになるけど。


「ミレスちゃん、どうしてあの時止めたの」


 自分でもおかしいことを言っているとは自覚している。八つ当たりに近い。だけど、こうでもしないと頭が爆発しそうだった。


「……いや、だったから」


「ん? 何が?」


 ぽつりと呟くように言う幼女を抱き寄せる。

 普通の女の子とは違っても、人間じゃなかったとしてもいい。こうして好き嫌いを言えるようになったのは成長の証だ。


「ひぃ、いつも、おこらない」


「そうかな」


「ん。でも、あいつにたいして、ちがう」


 ん、んんん! あいつだって! タルマレアの英雄とも言われる奴をあいつって! まあ? この子にとってはあの人一人、脅威じゃないし? あいつ扱いも納得できるけどね!


「そりゃあそうでしょ、ミレスちゃんを攻撃してきた相手よ? どれだけ顔がよかろうが偉い人だろうが、それだけで立派な敵!」


「もう、やられない。まけない」


「もちろん。ミレスちゃんは最強だから」


「だから、みないで」


「な、何を?」


「あいつ」


「……へ」


 えっ。まさか嫉妬してる? ローイン隊長に? 私が、あの人に強い感情を抱いているから?

 確かに最初はよくしてくれたくせに裏切られて、余計に憎む気持ちはあるけど。ダズウェルさんを蹴り飛ばしやがったし。


「心配しなくてもミレスちゃんが一番だよ~!」


「いやなものは、いや」


「んもう、頑固! でもそんなところも好き!」


 ぎゅっと幼女を抱き締めると同じだけ返ってくるその温かさに、どれだけ救われただろう。

 この子がいれば何でもできる。そんな気がしてくるから不思議だ。

 私はただの一般人で、頭も要領もそんなによくない。だけど、どうにかできないか足掻くことはできる。


「ねえ、ミレスちゃん。大勢の人が死ぬところを見たくはないし、見なかったとしても知ってしまったら後味悪いの。だからあの人たちの申し出を受けようと思う。……いいかな?」


「ん。ひぃなら、だいじょうぶ」


「ありがと」







「どもっす」


「何の用?」


 急な来訪者に重い腰を上げて応接室へ向かうと、あまり見たくない顔が出迎えてくれた。


「いや~、ファルナーニンセグにはどちらかというと好意を持ってそうですけど、ローインレノロクに対してはあまりそうでもないようっす。どう見てもこっちの分が悪いので、ご機嫌取りでもと」


 へらりと笑うノマくんにいい気がしないのは、さっきの発言が多分に影響している。ただの苦労人だと思っていたのに、やっぱり軍人なんだ。

 というかこのおどけたような態度も相手を油断させるためなのではと思えてくる。そういう意味ではローイン隊長同様に気が抜けない。


「一日悩ませてくれるんじゃなかった?」


「悩んだ結果、ウチのレノロクを殺されちゃ困るんで。あんなのでも上司っすからね。そちらからすればそこまでの脅威じゃないかもですが、こっちからしたらかなりの戦力なんすよ。無事国に帰るまではいてくれないと困ります」


「そんな言い方していいの? 上司なんでしょ?」


「僕の考えなんてお見通しっす。何とも思っちゃいませんよ」


 随分な言い様だけど、確かにあの二人は他の人が何と言おうが気にしなさそう。


「それで? 私、お喋りで機嫌をよくするタイプじゃないんだけど?」


「や、これは失礼。こちらをどうぞっす」 


 ノマくんの横に置いてあった大きめの箱をこちらに差し出してくる。


「何これ?」


「どうぞ開けてください」


 怪しすぎる。開けた瞬間爆発でもするんじゃないだろうね。

 さすがに爆発物とか毒物ならノマくんも巻き添え食らうか。任務のために死なば諸共って感じのタイプには見えないし。

 あ、矢か? びっくり箱みたいに開けた人間だけを攻撃する方法もきっとあるよね。


「何か不穏なこと考えてそうですけど、ただの貢物っすよ」


 持ち上げてみると、そこまで重くはなかった。揺らしてみても大して音は鳴らない。

 それなりの大きさだけど一体何が入っているのやら。


「道中何回捨てようと思ったことか……それだけは何としてでも死守しろって言われたのでできなかったっすけど」


「余計怖いんだけど」


 意を決して、蓋を開けた。

 ノマくんに向けて。


「何も起きない」


「聖女様がそれはもうこちらを警戒しているのは分かりました」


 そのまま蓋を箱の横に置く。視界に入ったのは、何やら白い布。

 さすがに変なことは起きないか、と思いそれを広げてみると、清楚や神聖といった言葉が似合いそうな服だった。

 そう、なぜかミレスちゃんにぴったりそうな女児用と思える服。


「これ……」


「国を出るとき、偉大な聖女様御一行にもし偶然にでもお会いしたら心証をよくするためにも何かお渡しできないか? ってなりまして。御本人は謙虚で富も領地も求めない、となると寵愛されていらっしゃる幼子の物がいいだろうということで。ローインレノロクの指示のもと準備しました」


 いや、何でサイズ分かるの。触れたことなんてないし目視だけだよね? まさか実は幼女趣味だったとか……。


「一応レノロクの名誉のために言っておきますけど、あの人は記憶力と把握力が優れているだけっすよ」


「顔に出てた?」


「それはもう」


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