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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第五部 厄難
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6.見えない真意


「あ、んた、は」


 タルマレア軍グルイメア調査隊隊長、シーヴェルド・ローイン。

 そんな人が何でここに。タルマレアからはかなり離れているはず。


 やっと落ち着いたはずの手が震える。心臓の音がうるさい。


 やっぱり生きていたのか。国の英雄が死んだとなれば他国にも噂くらい流れてくるに違いない。だから生きていても不思議ではない。むしろ当たり前だと言える。多少痛手を負っていればと思わないでもないけど、どう見ても健康そうだ。

 とにかく、次々と面倒事が増えるのは勘弁して欲しい。

 危獣の群れを倒しながらこの人を相手にできるのか。いや、危獣は共通の敵か。


「──」


 男が小さく呟く。瞬時に響くのは稲光と爆発音。空を埋め尽くす勢いだったモンスターが一気に撃ち落とされていく。


「──ん」


 負けじと黒い枝も大きく舞う。

 二人の猛攻であっという間に影は消え、綺麗な空を取り戻した。

 呆気に取られる人々にはもう戦う意志は見られない。ただ、信じられないものを見ているかのように男を含めたこちらに視線を向けていた。


「増援もないようだね」


 周囲の沈黙を物ともせず、近づいてくる男。

 邪魔者はいないようだし、とか何とか言いながら矛先をこちらに向けてくる気か。

 自然と幼女を抱き締める腕に力が入る。仕方がない。あの日、私たちに寄こした冷徹な瞳を忘れる訳がないのだから。


「──」


 身構える私とは違い、なぜか剣を収める男。


「何のつもり……?」


「君たちの活動は自他国問わず耳に入ってくる。よもやここで会うとは思わなかったけれど」


「……ちょっと色々あってね」


 世間話をして隙を伺うつもりだろうか。

 勝率はどのくらいだろう。あの時よりもミレスはパワーアップしてるし、キィちゃんもいる。向こうは一人みたいだし今回はデバフもかからないと見た。勝機は十分にある。


「各地での君たちの評価は高い部分がある。それを鑑みた上からの命令で君たちには危害を与えず、どちらかといえば保護や支援といった形で介入させてもらうことになった」


「は、それを信じろと?」


 確かにシィスリーでも王様に呼ばれるくらいのことはしたみたいだけど、これが油断をさせるための言葉じゃないとは言い切れない。信じられない。

 こいつは、それだけのことをしたんだ。


「忘れたとは言わせない。寄ってたかってこの子を捕らえようとしたこと!」


 あの日、鎮まっていた怒りの炎が込み上がる。

 グルイメアの森でこの子を拘束して、攻撃して、その剣で襲い掛かったことを、忘れはしない。


「その熱くなる性格はどうにかしたほうがいい。狡猾な人間相手では利用されるだろう」


「こっ」


 こいつ! 言うに事を欠いて説教するつもり!?


「ひぃ」


「よし、やろう」


「ん、ん」


「な、何で……」


 ふるふると首を振る幼女に動揺する。

 なぜ私が宥められているのか。


「ミレスちゃんは、許せるの……?」


 こてんと首を傾げる幼女は可愛い。とてつもなく可愛いけど、それと同時に悲しくもなった。

 そうか。この子は普通の女の子じゃない。あの日攻撃されたことを憎むという感情すら持っていないのか。


 身体に籠もった熱が下がり、少しクリアな思考で亜麻色の髪の男を見る。相変わらず無駄に整った顔と、冷ややかな瞳。だけどあの日ほどの冷たさや恐ろしさはない。

 まあ、この男が何をしようとしても今のこの子にはきっと勝てない。他にも解決しないといけない問題もあるし、ここは穏便に済ませるか。


「……一人ですか? 何でここに?」


「国からの命令で各地を回っている。繋がりのある友好国からの依頼で、フェスンデとフョヌイの問題を片付けに来た」


「え?」


 危獣討伐とかなら分かるけど、国同士の問題をこの人がどうにかできるのか。後で他の人たちも来るのかな。


「あ、ダズウェルさんは?」


 今まで無表情だった男の顔がぴくりと動く。

 まるで地雷を踏んでしまったかのように居心地が悪い。視線を外したその先は、何を見ているのか。


「……もう、いない」


「え」


 タイミングを見計らったかのように吹いた風が、亜麻色の髪を揺らした。

 次第に早鐘を打つ鼓動が嫌になる。


 ──どうか、お考え直しください。


 私たちのために頭を下げてくれたあの人を、蹴とばして気絶させたことを反省しているだけかと思いたかった。

 だけど、きっとそれだけじゃない。冷ややかで──そして虚ろな瞳は、まるで大切な友人を失ったかのようだった。


「もしかして、あの時……」


「オイ! こんなとこにいやがったのか」


 突然の声に驚いて固まる。

 近づいて来たのは、短髪でがっしりとした体型の男。さっきまでの話題だった例の──ダズウェル・ファルナーその人だった。


「何だ、いるじゃん……」


 びっくりさせないでよ。私を試したのか!?


「レノロクさんよ、部下が怒ってたぜ」


「……」


 何だか、様子がおかしい。

 そういえばこの人、相変わらずイケメンだけど以前会った時以上に表情筋が死んでるし、心なしか縮んだ気がする。身長というか、肩幅というか。前はもっとがっしりとしていたような。

 そしてダズウェルさん。生きていてよかったけど、こちらを見ても特に反応はない。もしかして私を庇ったからって酷い刑罰を受けて大人しくなったとか。いや、そんなタイプじゃないしな。


「何だ、知り合いか?」


「え?」


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