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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第五部 厄難
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3.異世界こわい


「ご用件は何でしょうか」


 あ、普通に話すのね。

 一応目を見て話そうとするけど、まあ目がどこかは分からない。異形頭の人間と言われたほうが納得できる。そうなると違う異世界っぽいけど。


「シィスリーに行きたくて。そちらに抜ける道を通るには許可がいると聞きました」


「ああ、フェスンデ人ではないようですね」


 こくりと頷いたように見える領主様。

 顔回りは凄いことになっているけど、別に悪人って訳ではなさそう。

 というか、あれは魔気の類いじゃないのかな。

 腕の中の幼女を見ると、ぎゅっとしがみついてきた。可愛い。

 いやそうじゃなくて。何も言わないってことは違うんだろうか。


「今日中に許可証をお渡しします。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。近年、人が減ってきているのです。仕方なく規制している状態でして」


 意外にもすんなり許可もくれる上、事情を話してくれる領主様。

 戦争がなくならない国に愛想を尽かして出ていく人間も少なくないんだとか。戦争に加え自国が飢えるのを防ぐため、なるべく出国者を減らしたい。それなりの理由があれば許可を出すこともあり、私たちは元々この国の人間じゃないからいいらしい。

 何だか聞いていて苦労が滲み出るこの人が可哀想に思えてきた。見知らぬ相手に口数が多いのも、その顔のせいで話し相手がなかなかいないからかな。


「私たちも戦争をしたい訳ではないのです。ただ、攻撃されてばかりではそのうち一方的に蹂躙されるだけ。ある程度反撃しなければ相手を付け上がらせてしまう」


「難しい問題ですね」


「はい……」


「何か?」


「ああいえ、こうして接してくださる方と会うのは久々でして」


 今更?


「つい余計なことを色々話してしまいました。こんなに人と会話することが楽しいなんて……まあ、この姿では怯えられても仕方ありませんが」


 な、泣いてないよね? 俯いて肩を震わせてるみたいだけど、大の大人が久々の会話が楽しかったからって泣いてないよね!?


「あの……失礼ですが、どうしてそのようなお姿に……?」


「原因は分かりません……私は兄弟の中でも身体が弱く、寝てばかりでした。家の人間にとって邪魔者でしかなかったのです。成人を迎えたある日、侍女が部屋へやって来て、私を見て小さな悲鳴を上げました。確認すると、顔が腫れ、醜く歪んでいるではありませんか。……それからです。視界は黒い霧に包まれ、耳元で何かを囁く声が……そして、今日に至ります。この家にいた者は皆事故か病でいなくなりました。私が跡を継ぐ他なかったのです。呪いと言われても仕方ありませんね」


「そうだったんですね……」


 悲しい話の最中、うねうねと動く黒い何かが気になった。

 どうしても、それはもうどうしても気になる。


「触ってみてもいいですか……?」


「えっ?」


 ミレスちゃんのお陰で耐性があるし、最悪キィちゃんに治療してもらえばいいし。

 いやキィちゃんが領主様を治療すればいいだけの話なんだろうけど、ちょっと好奇心が抑えられなくて……!


「か、顔をですか……!?」


「不敬を承知でどうにか! ちょこっとだけ、先っぽだけでいいですから!」


「な、なぜ!?」


 数分のやり取りを経て、私に何か被害が及んでも絶対に騒がないことを念押しして許可をもらった。最後はこっちの勢いに怯えられたような気もするけど、まあいい。


 では、いざ。


「おお……ん?」


 モヤモヤしてるから実体がない感じ。かと思えば、何かに触れている感覚はある。多少ゴツゴツしてるけど、これが顔かな?


『主様、そのまま治す?』


「あ、そうだね。お願いしてもいい?」


『うん!』


 頭上で一声鳴いた霊獣から淡い光が発せられる。その光に包まれた領主様の顔が、次第に露になる。


「……わ」


 思わずその顔から手を離した。


「ブレないな、異世界」


 面長な美形。イケオジ手前。

 ジャンルがジャンルならここから始まるかもしれないラブストーリー。


「ど、どうなったのですか? 目の前がはっきりと見える……それに、妙な声も聞こえない!」


 ソファーから飛び上がり、恐らく自分の姿を確認しに行ったであろう後ろ姿を見送る。


「ひぃ、すいよせられてた」


「え?」


『何かの術かもしれないね~』


「あの黒いのが?」


「ん」


「ちなみにあのままキィちゃんが浄化しなかったら……」


「おかしくなる、か、とりこまれる?」


「何てこった」


 確かに、さすがに初対面の人の顔触りたいなんて普通なら言わないよね。いくら相手が美少女でも言葉に出さない。

 ミレスちゃんは別枠だし、あの時は自分に残された時間が最期だと思ってたからで。一応その辺の理性はある……と思いたい。


 それにしても町の人に被害がなかったのは、誰もここまでの時間近くに寄らなかったからかな。

 誰が何の目的でこんなことしたんだろうか。昨日のフェスンデの人が言っていた会話からしてもそれなりに優秀な術士はいるみたいだけど。


 まさか、また魔族が絡んでるんじゃないよね?

 モーナルエでガヴラの身体を乗っ取った奴は戦争を起こそうとしていたみたいだし……魔族の考えは分からないけど、あいつらが関わったら碌なことにならない。今のところここの領主様以外そんな影は見当たらないものの注意するに越したことはない。というかさっさとここを去るに限る。

 キィちゃんごめん、安全圏まで頑張ってください。


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