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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第四部 奔走
213/240

47.愛って凄い


「え、あ」


 まさか鳥すらいないこの場で生きている人間に会うなんて予想もしなかったけど、何より驚いたのは──。


「──族長さん」


 筋骨隆々の褐色に色素の薄いポニーテールというインパクト大な裸族の長だった。

 面積は狭いものの布は纏っているので裸族とはもう呼べないかもしれない。そんな巨体の彼女に軽々しく抱かれていたのは、一人の男性。何だか見覚えのある……と考え込もうとしたところで思い当たる。服装は違うけど、彼女に見初められたあの時の衛兵に違いない。

 彼は彼女の片腕から降りると、目の前までやってきて頭を下げた。


「う……すみません、よくご無事で……」


 挨拶をしたのも束の間、顔面蒼白で力尽きそうになる男性。それをそれ見たことかと再び腕の中に閉じ込めた族長さんは、視線を合わせるためか地面に腰をおろした。


「はは……ありがとうございます」


『■■』


 頬を寄せる乙女な族長さんに満更でもない男性。

 いや、一体何を見せつけられているんだ。


「あの……?」


「ああ、申し訳ありません! 実はヒオリ様たちの跡を追うようヲヴェリア様から言われまして」


「何でまた」


「恐らく無主地へ向かうだろうから、手伝いに行くと」


 改めて挨拶をされた男性ことバーレンさんの話をまとめるとこうだ。

 頭もいいし機転も利くそれはもう偉大なヲヴェリア族長様が、私たちが元の国──シィスリーへ戻る際にきっとこの無主地を通るだろうと考えた。

 他はどうか知らないがこの無主地はよくゲームなんかにあるような迷いの森みたいな場所らしく、抜ける前に途中で魔気にやられて力尽きてしまう。方角もセンサーも狂い放題。

 頼りになるみんなの族長様はその最短ルートを知っているのでお力になるべく馳せ参じた、ということだった。


 途中で族長さんの自慢というか惚気みたいな話が入るから半分聞いてなかった。


「でも何で私たちの居場所が分かったんですか? また秘術?」


「急に“気”が減ったからということみたいでしたが……害獣や危獣を討伐されましたか?」


 ああ、なるほど。昨日一日で周囲の獣をやっつけたからってことか。分かる人には分かるんだね。というかこの人たちがずば抜けているのか。

 ここの抜け道知ってるのも外敵から身を守るための修行の一環としてよく来てたからとか言ってるし、あの危獣を呼び出すトンデモ儀式といい、やばい一族だ。


 ちなみに彼は姫様みたいに族長さんと会話できる訳ではなく、一緒にいたら何となくお互いの考えていることとか感情なんかが分かるようになったらしい。

 いや……うん。まあいいや。二人が幸せそうならよかったよ。


 伝わらないだろうとは思いつつ、族長さんにお礼を言ってぜひお願いしたいとバーレンさんに伝えた。

 するとヲヴェリア族長が幼女と霊獣ごと私をもう片方の腕に抱き、にやりと笑う。


『■■■』


「お──っああああああぁぁぁぁぁああああ!!」


 急に走り出したかと思ったら、岩もひょいひょい飛び越えてどんどん進んでいく。

 幼女の黒い枝とか霊獣の加護的なものに慣れてしまった今の身体には酷だ。


「ごーごー」


『速~い!』


「んんんんんんンんんん──ッ!!」


 舌! 舌噛む!!







「……ぅっぷ」


 気持ち悪い。昼食がまだでよかった。


「はぁ……ヒオリ様、大丈夫ですか?」


「…………なんとか」


 人間ジェットコースターに乗ったにしては同じ一般人であろうバーレンさんは比較的元気そうだった。

 いや、衛兵やってるくらいだから私よりは遥かに身体鍛えているか。それに族長さんと一緒にいたら少しずつ慣れてくるのかも。

 人外二人は平気そうどころかむしろ楽しんでいたのが本当に羨ましいよ。というかキィちゃんは魔気にやられてぐったりしてなかったっけ?


「■■■■」


 ヲヴェリア族長が指差す先を見ると、細いながらも道が続いているのが見えた。どうやら無主地を抜けたらしい。


「ありがとう……ございます……」


 絶不調すぎてそれどころじゃないけど。


「ここまで来れば大丈夫そうですね」


「もう、まよわない?」


「■■」


「はい。この先はケェルニアという国です。後は地図に沿ってひたすらプナリエの方角へ進めばシィスリーまで行けるかと思います」


 口を開けば何かが出てきそうな状態の私に代わって答えてくれる幼女、ラブ。どんどん成長してくれて嬉しい限りだよ。


 しばらくすると体調も戻ってきたので、地図の見方を聞いたりしながら休息を取った。


「■■■!」


「お元気で!」


 案内をしてくれた二人にお礼を告げると、早く戻らないと陽が暮れるからと二人仲良く茂みの中へ姿を消していった。

 帰りもまたあの絶叫系に乗るなんて考えられない。これも愛の為せる忍耐力なのか。

 というかどこに帰るんだろう。ヲズナ族のところかな。これから言葉が通じない巨体裸族の集落で生きていくのか、凄いな。異文化というのも相当ストレスだと思うけど、幸せそうだからいいのか。


「さて、お二人さん。ここから一番近い町までどのくらいかかりそう?」


「けっこう、とおい」


『暗くなるまでには着きたいね』


「そっか。大変だけどお願いね」


『うん!』


 キィちゃんに乗って大地を駆けると、人間ジェットコースターとは違って風が心地いい。改めて霊獣様のありがたみを実感するね。


「んー!」


 背伸びをすると気持ちいい。やっぱり魔気は人間には害なんだな。こんなに空気がおいしいなんて。


「んー」


「ふふ」


 真似して両腕を上げる幼女を撫でる。

 本当に感情も言動も人間味が出て来て何より。

 シィスリーまではまだまだ遠いみたいだし、その間に寄った国で観光とかできたらいいよね。


 この時までは、のんびりとした毎日が待っていると思っていた。また色々な騒動に巻き込まれるとは知らずに。


これにて第四部終了です。ここまで読んでくださりありがとうございました!

次回より第五部です。

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