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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第一部 邂逅
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2.望まぬ出会い


 はぁ……インドアなのにな。自宅で多少筋トレとか運動のゲームをしているとはいえ、アクティブなことは基本的には嫌いだ。ジムに通ってたのが奇跡くらい。まあそのジムも閉店してしまってからは他のとこにも行ってないけど。

 基本的に仕事と食事以外は家から出たくない。家最高、ベッド最高。外出するときに着替えて化粧するのが面倒。女は化粧しなくちゃいけないという文化作ったやつ誰だよ本当。女の顔は男より劣るってか。けっ。どうせ私は顔面偏差値底辺ですよ。


「ファイヤーボール。サンダー。ストーンウォール。スプラッシュ」


 しかし広大そうな森の中だ。ただの雑草でさえ私の身長ほどの丈がある。壁があるようなところであれば、右手法だか左手法だかが使えるかもしれないけど、何せ周りは生い茂る草木だけだ。食べられそうな木の実すらない。


「ヒール。キュア。ファーストエイド。リジェネレイト」


 せめて小川くらいないだろうかと期待を込めてみても、そんなものは見つからなかった。


「ポイズン。パラライズ。バリアー。ライト」


 行けども行けども、木、草、木、草。


「……はぁぁぁぁぁぁ」


 どのくらい歩いたか分からない。

 一応魔法が使える可能性にかけて思いつく限りの名前を何十と呟いてみたけど、口渇感と疲労感が増しただけだった。もちろん発動の動作っぽく手を突き出してみたり、魔法のイメージを膨らませてみたり、とできるだけのことはやった。私に素質がないのか、詠唱や呪文があるのか、そもそも魔法自体存在しないのか。


 最近のラノベだと絶望の淵から這い上がる系も多かったけど、この状態も結構絶望的じゃないだろうか。いっそ命の危険に晒されたほうがマシだ。


 もしこれが異世界転移だとすると、よく見る当事者のほとんどはホームシックになっているか元の世界での仕打ちが酷くて喜んだり帰還を諦めていたりというところだった。

 私はそのどちらでもない。家族の繋がりも薄いし今までいた世界への執着もさほどない。かといって今までいた世界が憎いとか嫌いだったかというとそうでもない。仕事は環境も上司も最悪だったものの比較的休日はあったため、ほぼ睡眠でその休日が消費されるとはいえ、それなりに趣味に勤しんでもいたし、世に蔓延るブラック企業よりはマシだったと思う。


 ただ他人と違うことと言えば、価値観やスタンスかな。

 よく変だと言われたし自分でもマイノリティな考えだとは思うけど、特に生に執着はしていない。死ぬのは面倒だし辛そうだから生きているだけで。苦しまずに死ねるならそれでいい。


 だからこう、私を一撃必殺で屠ってくれるモンスターに遭遇しないかな。地味に攻撃されて痛い思いはしたくない。このままだと凍死か餓死──ああ、眠ってしまえばそのまま目を覚ますこともないかもしれない。


 それもいいかも、と思った矢先だった。


 不意に、視界が開けた。森の中には変わりなかったけど、明らかに道と呼べるもの。整備はされていないものの、足跡や轍が残っている。


 どうせならここがどこだか知りたい。なぜここにいるのかも。死ぬのはそれからでもいい。


 一番新しそうな足跡の方角へ進む。寒い森の中を歩き回り体力も限界に近かったけど、光明が見えた気がするともう少し頑張れるのは不思議だ。







 足跡を追ってしばらく歩くと、集落のようなものがあった。まばらに木造らしき家が建っているけど、閑散としている。遠目に人は見えるものの、こちらに気づくような距離ではない。


 さてどうするかと考えている時だった。


「■■■■■■■■■」


「えっ」


 後ろに誰か立っていた。簡素な布の服に身を包んだ細長い男。全く気付かなかったのは私が疎いのかこの人が気配を消せるのか。

 初めて会ったのがモンスターのような問答無用に攻撃してくるような輩じゃなかったことは救いかもしれない。

 とは言え、初めて会った人間が好意的である保証もない。だからどうするか考えていたのに、どうやら考える時間は与えてくれないらしい。


「■■■■■■■」


 振り向くと、集落の方から違う男がやってきた。先ほどから男たちは何かを言っているがさっぱり分からない。どこかの民族語かもしれないし、異世界の言葉かもしれない。もし後者なら翻訳機能もないとか無理ゲーすぎんか。

 高位の魔術師(イケメン)がやってきて言葉を通じさせてくれる、なんて夢物語があるわけもなく。


「──っ!?」


 突然触れられたことに驚き、再び後ろを振り向くと、男が私の腕を掴んだ。

 そして今度は明確に胸を触られる。腰、尻とその手はねっとりとした手つきで下がっていく。


「■■■■■■■■■■■」


 言葉は分からない。けれどもその下卑た笑みと眼差しは、分かりやすいほど彼らが自分の味方ではないことを示していた。


「いっ」


 今度はもう一人の男から髪の毛を掴まれる。

 伸ばしておくんじゃなかった。そろそろ切りに行こうと思ってたのに面倒くさがっていた罰なのかそうなのか。


「■■■■■■■■■■■」


「■■■■■■」


 今度は男二人で会話をしている。その隙に逃げ出そうとしても、男の腕はびくともしない。

 嫌だ。さすがに慰み物になるのだけは嫌だ。


「こっ、の!」


「!?」


 思いきり急所を蹴り上げ、腕に嚙みついた。一瞬の隙をついて走り出す。


 家で筋トレやっててよかった……!


 非力ながらも今ある筋肉に感謝しつつ、ひたすら森に向かって走った。これまで生きてきて一番の全力疾走。

 道を走っていてもいずれ追いつかれる可能性が高い。再び遭難するリスクがあっても生い茂る木々の間を搔き分け進んだ。


 ──逃げなければ、やられる。


 息も十分に吸えないほど走った。草木に足を捕られ、転び、全身に小さな傷を増やしながらも、ただひたすらに走った。


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