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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第四部 奔走
191/240

25.人が嫌がることはしないで欲しい


「何してんの?」


「見ての通りだよ。この国じゃなかなか作物が育たないみたいだから助言をしてたんだ」


 この人、私より若そうに見えるけど本当に何者なんだろう。ガヴラの時もそうだけど、今も助言だとか偉そうなこと言ってるし。まあ見た目より実年齢が若い人もいるしな、美魔女みたいな。この人は特別美形という訳じゃないけど。


「ガシュバル殿下にご挨拶申し上げます」


「マルデイン。帰ってきたんだな。ということはそちらが……?」


「はい。黒の……いえ、救世主のヒオリ様です」


 綺麗な緑頭に頭を下げるマルデインさん。今、多分聖女って言いかけたよね? 違うって言ってるよね?

 というか、殿下って。


「ヒオリ様。こちらはフォールサングの王太子であらせられるガシュバル殿下でございます」


 王子様が農作業って。いやそういうのも読んだことあるけど。本当にいるんだ。

 服装も貴族とか王族って感じじゃないし、小麦色に焼けた肌と程よくついた筋肉、持っている道具からしても農業を生業としている人にしか見えない。


「初めまして、ヒオリです。この子はミレスちゃんで、頭の上で寝てるのがキィちゃんです」


「ガシュバルだ。ヒオリ殿、この度はこの国を救っていただき感謝する。ささやかではあるが宮にて歓迎をさせていただきたい」


「ん」


「おおっ」


 少し驚きながらもミレスちゃんが出した黒い枝と握手をする王子様は大物かもしれない。王族だとそこまで肝が座ってるものなのかな。


「王子様って知っての態度なの?」


 王子様が幼女の黒い枝とじゃれている間に茶髪の男に耳打ちをする。


「知ってはいたけど……ああ、普通はもっと丁寧に対応しなくちゃいけないんだっけ。でもここの王族はふれんどりーらしいよ。民との距離が近いから嬢ちゃんが想像しているよりも堅苦しくないと思うけど」


 まあこんなところで農作業してるくらいだしなぁ。


「殿下。ご準備は大丈夫なのでしょうか?」


「そうだな。切りのいいところまで進めていく。陛下たちは準備ができているから先に行くといい」


「はっ」


 農作業を続ける王子様を置いてマルデインさんの後に続く。

 聖女だの何だのと言われているみたいだけど、そんなに大歓迎というムードでもなくてちょっと拍子抜けした。いやいい意味でね。変に目立たずに済んでよかった。


「あっ」


「どうかされましたか?」


「あ、いえ……」


 またお礼を言いそびれた。結局名前も聞いてないし。

 急いで振り返ってもすでにその姿はない。毎回こんなだな……前は名乗りたそうにしてたのに。まあいいか。どうせまたいつか会えるでしょ。


「何でもないです。行きましょう」


 少しだけ怪訝そうにするマルデインさんだったけど、特に何か聞いてくることはなかった。


「こちらです」


 それからまたしばらく歩くと、例の王宮とやらに着いた。広くて綺麗ではあるけど、想像していた王城とは違っていた。絵画や骨董品のようなものはあるけど、あまり煌びやかさがなく良い意味で落ち着いている。ここまでに見た建物なんかを考えると、多分国自体そんなに贅沢ではないんだろう。

 まあここ数年はモッダ平原の危獣騒ぎで大変だったみたいだし、仕方ないのかもしれないけど。


「ヒオリ様、この先で国王陛下がお待ちになっております」


「……はい」


 はぁ、嫌だなー。緊張はしないけど、面倒事は避けたいという思いで気が引ける。

 重厚感ある扉の前で小さく溜め息を吐くと、慰めるように黒い枝が側頭部を撫でた。


「ありがと、ミレスちゃん」


「ん」


 ぎゅっと幼女を抱き締めて、いざ扉の向こうへ。


「失礼致します」


 二人の衛兵が軽く頭を下げて前に立ち、扉を開けた。


「──へ?」


 視界に入ったのは、壁──ではなく、褐色の筋肉。それはもう素晴らしいほど発達していてボディビルダーもびっくりレベル。というか、最早人間じゃない。


「……でか」


 なぜか扉の先には、見上げるほど大きな巨漢が立っていた。三メートルくらいはありそうな巨体のせいで、その先がどうなっているのか分からない。その褐色の肌はところどころペイントなのか刺青のようなものが入っていてより一層威圧感を受ける。


 いや、誰? まさかこの人が王様じゃないよね? というか何で腰に一枚布を巻きつけただけなの? 裸族か?


 衛兵の一人は腰を抜かし、もう一人は持っていた武器を構えている。幼女が反応していないから向こうに敵意があるわけじゃなさそう。

 そっとマルデインさんを振り返ると、巨漢を注視したまま少し冷や汗を掻いている。驚いている様子はないようだけど、この人を知っているのか。


「あの……?」


 恐る恐る巨漢に声を掛けると、彼はついに動いた。


「聖女様!」


 巨漢の動きを察知した衛兵の一人が、意を決したように前に立ち塞がる。

 え、こんなところで戦闘? ミレスちゃん?

 と困惑していると、筋肉ムキムキの彼はすっと片足をついた。


「クロノセイジョ、マッテイタ」


「……はぁ?」


 思わず変な声が出る。

 跪く彼が発した片言の台詞に思考を巡らせていると、視界に入った光景に少し冷静になれた。

 巨漢の身体が半分ほどになったことで室内が見えるようになっている。王座のような場所に男女二人──恐らく王様と妃様だと思われる──と、その近くに座るこれまたがっしりとしたポニーテールの長身。さすがに目の前の巨漢よりは小さそうだけど、近くにいる通常サイズであろう人間二人と比べるとその異質さが分かる。座っているからはっきりとしたことは分からないけど、座高も肩幅も段違いだ。そしてやっぱり筋肉が凄い。


「■■■■」


 知らない言語なのか聞き取れない。何かを言って立ち上がったその人物は、ゆっくりとこちらに向かってくる。布一枚の姿で。


「せっ、聖女、様、お、お逃げ……っ」


 私の前にいた衛兵が汗びっしょりの姿で声を絞り出す。どう見てもこの状況はまずいんだろうけど、なぜだか焦りはなかった。何よりミレスちゃんは反応していないし、キィちゃんは頭上で寝たままだし。


「一ついいですか?」


「■■」


「いい加減、聖女っていうのやめてください」


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