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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第四部 奔走
189/240

23.早くもホームシック


「ミレスちゃんありがと! ちなみにあれでもダメだったらどうしてたの?」


「ひぃに、がんばってもらう」


 あ、その手は使えたのね。私を使ったとしても結局いつものように物理攻撃で仕留めるイメージしかないけど。気を遣ってどうにか森猫を倒せる方法を考えてくれたのが尊い。

 幼女に頬ずりする勢いで抱き締めながら頭を撫でていると、未だに呆然と森猫の亡骸を見つめていたマルデインさんが小さく首を横に振った。


「何ということだ……有り得ない……術士なくして、その上通常の攻撃で森猫を倒すなど……」


 危獣にも物理攻撃が効かない奴なんていそうだけどね。まあ危獣相手に戦うことはほとんどないからそんなデータも少ないんだろうけど。身近な相手の方がイメージ湧きやすそうだし。


「これで大丈夫そうですかね。町に行ってもいいですか?」


「えっ、ええ、ありがとうございます!」


 驚いた顔から一変して焦った表情を浮かべ、バッと腰を九十度に曲げるマルデインさん。頭を下げるという行為はこちらでも同じなんだなーなんて思いながら腕の中の幼女を撫でる。

 その後足止めを食らっていた人たちに事情を説明し、面倒なことになる前にキィちゃんに乗って出発した。「隊長……!?」「私も説明をしたいところだが、すまない……!」という兵たちのやり取りを横目に、何だか童話なんかで姫を連れ去る悪役になった気分だった。







 マルデインさんが案内してくれた町に到着した頃にはすっかり陽が落ちていた。この世界、急に暗くなることがあるからびっくりする。いまだに時間の概念分からないし。

 とにかく夜になる前に宿に着いてよかった。お腹も空いたし、ゆっくり寝たい。


「ん~、おいしい!」


 食事の準備はできていたらしく、少し待つだけで出来立てほやほやの料理が運ばれてきた。

 いつぞやの歓迎ムード満開の食事会だったらどうしようかと思ったけど、それなりの広さの一室で落ち着いて食事ができてよかった。私が目立つことが苦手で面倒だと思っていることを考慮してくれたらしい。ありがたいね。


「お口に合ったようでよかったです」


「はい。ありがとうございます。二人も喜んでいるみたいだし」


「ん」


『おいしいよ~!』


 相変わらずその小さな身体にどう収まっていくのか謎だし、キィちゃんの肉食も気になるところだけど。


 たくさん食べてゆっくりとお風呂に入れば、睡魔が襲ってきた。

 おもてなしの心が全開のようで、この宿一番のスイートルームだと思われるだだっ広い空間と無駄に大きいベッド、あちこちに存在を主張している煌びやかな装飾に心が休まらない。お貴族様御用達とかなんだろうけど、凄いよね。こんなのに慣れるというのもちょっと怖い。何で寝室に宝石とか骨董品みたいなものを置いてるんだ。

 幼女を抱き締めたままベッドに転がるものの、何だか落ち着かなくて、寝てしまいたいのに眠れない。


「ん~~~~」


「ひぃ」


 耳元で唸っていたからか、幼女から抗議の声が上がる。

 キィちゃんは枕元で丸くなっていた。寝ているみたいだ。羨ましいな。


「よし」


 こうなったら最終手段だ。安眠のためには仕方ない。

 ベッドのシーツを一つ引っ掴んで、部屋を出た。


「マルデインさん」


「ヒオリ様? いかがされましたか」


 とある一室から出てきたマルデインさんは、シーツに包まった私と幼女を見て驚いている。


「私のことを思ってくれてるなら、協力お願いします」


「何を──」


「お部屋、交換してください」


 にっこり笑ってスイートルームの鍵を押しつける。


「え? あ、あの」


「シーツはまだいっぱいあったので大丈夫です。じゃあおやすみなさい~」


「ばいばい」


 幼女と一緒に手を振って扉を閉める。固まったままのマルデインさんには申し訳ないけど、やっぱりこういう普通の部屋が一番だよね。

 ちょっとだけマルデインさんの荷物どうしよと思ったけど、大したものはないって言ってたからいっか。武器もいいよね。何かあれば幼女がどうにかしてくれるだろうし。


「ふぁ……」


 視界的にストレスが消えたら再び睡魔が襲ってきた。

 スイートルームには負けるけどそれなりに柔らかなベッドに満足しながら、安心して眠りにつくのだった。







「おはようございまぁす」


「ゆっくりお休みになられましたか」


「はい、お陰様で」


 起床後朝食のため別室へ向かうと、苦笑顔のマルデインさんが迎えてくれた。近くでキィちゃんがミルクのようなものを飲んでいる。そういえば寝てたからそのままにしちゃってたな。


『主さま~』


「キィちゃんおはよ。眠れた?」


『うん!』


 手触り抜群の毛並みを撫でながら席に着く。運ばれてきた料理を口にしながらマルデインさんを見ると、何だか疲れたように見えた。


「私も貴族じゃないし、あの部屋は落ち着きません。マルデインさんも眠れなかったでしょう」


「救世主たるヒオリ様への最低限の礼儀ですので……数日の不眠は慣れています。それよりも、霊獣様が……」


 あ、そっちか。天然の霊獣は幻レベルなんだもんね。緊張したのかぐっすり眠っているキィちゃんを放っておけなくて気が気じゃなかったのか。


「気にせず寝たらよかったのに。キィちゃんの毛、気持ちいいですよ?」


「霊獣様、それも我が国の救世主に触れるなど滅相もない……!」


 この感じ、ずっと続くのかー……。抑えてくれているらしいマルデインさんでさえこれだからな。国の中心部なんて行こうものなら今まで以上の歓迎なんだろうな……。何だ救世主とか言って大したことないじゃん、解散解散! なんてことにならないだろうか。

 あー、早く帰りたい。


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