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幼女と私の異世界放浪記  作者: もそ4
第四部 奔走
188/240

22.結局こうなる


「森猫って何ですか? 倒していいならミレスちゃんにお願いしますよ」


「私一人では到底敵わない相手なので、とてもありがたい申し出ではあるのですが……」


「何か問題でも?」


「森猫は炎の術しか効かないのです。通常の攻撃は通用しないので、拝見した限りのミレス様の術ではもしかしたら難しいのではないかと思い……」


 ははぁ、なるほど。ゲームでよくいる魔法攻撃でしか倒せないやつね。確かにどうみてもミレスちゃんの攻撃って物理的なものだし、そういう相手だと無理なのか。


「ミレスちゃん、どう?」


「やってみないと、わからない」


「何事もチャレンジあるのみ」


「ん」


 ということで、幼女の了承も得られたところで列の先頭に向かう。

 人だかりを抜けてしばらく歩くと、ぼろぼろになった木々と散乱した木の枝が見えた。暴れているという言葉を思い出して納得する。

 が、動物が破壊したにしては爪の痕はなく、どちらかというと腐蝕しているようだった。うちの幼女の攻撃に近い。

 果たしてこの先にいるのは猫か鳥か、はたまたヒスロのように予想もつかないものか。


「後者かー……」


 最早これくらいでは驚きはしないけど、ちょっとした落胆もある。


「見た目動物ですらないし」


 視界に入った二つの茶色い物体──そう、物体。動物のような四肢もなく、鳥のような翼もない。うねうねと蠢く鋭い棘と尻尾なんだか触角なんだかよく分からない長い触手のようなものが数本生えている。何だろう、ウミウシとかナマコ辺りが近いか。

 猫とは? 少しでも期待した私が馬鹿だった。何せここは異世界。私が知ってる常識など通用しない。


「確かに物理攻撃というか、剣は通らなさそう。そもそも炎の術って、こんなところで使ったら火事になりそうですね」


「はい。森猫は主に森に生息していますので、周囲は木々に囲まれています。通常は周囲に燃え移らないよう、防壁を張って攻撃するのです。そのため術士が複数必要になります。あそこにいるのは今まで見た中でもかなり大きい上、二匹もいるとなると一体何人術士が必要となるか……」


「なるほど」


 こっちを認識しているのか分からないけど、ひとまず攻撃してくる様子もないので少し離れたところで作戦会議とした。と言っても、マルデインさんから情報を得て幼女の攻撃が通用するか試すしかないんだけど。


「ミレスちゃん、どう?」


「ん。やって、みる」


「お願いね」


 射程距離がイマイチ分からず森猫に近づいていくと、幼女の周囲から黒い枝が伸びた。

 いつものように串刺しにするかのように鋭く加速した黒い枝が、あっという間に森猫の身体に到達する。ハリネズミのようなその一角を手折る──ことなく、弾かれた。


「おお」


 バシッと弾かれ逸れた一番槍、そして数を増やしたいくつもの黒い枝が、再び標的に向かう。

 しかし何度攻撃を試みてもその鋭利な針に阻まれ、肝心の身体に到達しない。幼女の攻撃でこうなんだから、人間の攻撃なんて全く歯が立たないだろう。


「シュゥゥゥゥゥ……」


 それまで攻撃を甘んじて受けていた森猫が、鳴き声のようなものを漏らしながら方向転換をする。目がどこにあるのか分からないけど、恐らくこちらをロックオンしたんだろう。

 触手が持ち上がり、先端が膨れる。


「ヒオリ様!」


「うおっ」


 マルデインさんに幼女ごと身体を抱かれ、地面を転がる。先ほどまでいた周囲にはぼこぼこと青い泡が立っている。まあ見るからに毒だ。いや、分からないけど、確実にあれを受けたらマズいだろうということは理解できる。まるで青いマグマだし。


「申し訳ありません……!」


「いやいや、ありがとうございました」


 森猫から庇うように片膝をついて向かい合うマルデインさんの顔には焦りが見える。危獣の群れを倒した業績のある幼女の攻撃も通じなかったことか、彼らが救世主だの聖女だとの祭り上げる相手への行動に対してなのか。段々顔色が悪くなっていくマルデインさんにこちらが申し訳なくなってきた。

 後者はどうでもいいとして、確かに幼女の攻撃が通用しないとなるとどうしたものか。今のところ向こうの行動が遅いからいいけど、このまま逃げ回る訳にもいかない。


「ミレスちゃん、やっぱり無理かな」


「……」


 相変わらずの無表情でじっと森猫の方を見つめる幼女。何となくだけど、ムッとしているようにも見える。今まで攻撃が通らなかったのってアルマジロの危獣くらいだし、その危獣も二回目は普通に倒したしな。幼女が言ってこないってことは、私がブラックアウトすればいいって問題でもないんだろう。


「きぃ、しーるど、はって」


『はーい』


 肩に前脚を引っかけていたキィちゃんが飛び立つ。薄らと発光する霊獣と、森猫の周囲に広がる透過性のある膜。幼女の言葉が正しければシールドってことになるけど、私たちじゃなくて相手側に張るんだ。

 一体何をするのか。黒い枝以外の幼女の術が見られる!? というか、うちの子たちが共闘してる……! と高揚感に包まれていると、幼女が私の手をぎゅっと掴んだ。


「ぎゃわ──っ」


 ドン!!


 あまりにも可愛すぎて変な声が出たものの、途中で途切れる。地響きとまるで工事現場のような騒音。

 幼女の黒い枝が、森猫に総攻撃を仕掛けていた。


「わー……」


 いつもの串刺しではなく叩くように攻撃を続ける複数の黒い枝。その度に森猫の鋭い針が折れ、触手が暴れまくり、針なんだか汁なんだかよく分からないものが飛び交う。シールドを森猫の周囲に張ったのはこのためだったらしい。

 しばらくするとハリネズミからナマコへ変貌を遂げた森猫に、いつか見た黒い枝の集合体──ドリルのようなそれが、回転しながら突き刺さる。ついにその身体を二つとも貫いた黒い枝は、とどめとばかりに大きく振りかぶり、地面にたたきつけた。


 ドン──と鈍い音が響く。巨大な二つのナマコの身体からは青い液体が流れ、ぴくりとも動かない。


「な、なんと……」


 呆然と呟くマルデインさんと、何となくドヤ顔をしているように見える幼女。


「何という脳筋プレイ」


 針が邪魔なら折ればいいじゃない。

 いや、通常運転というかそれでこそというか。魔術師みたいな攻撃を期待しなかったと言えば嘘だけど、ぶれないミレスちゃんが好きだよ。


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